国内オーディオメーカーの中でもハイエンドなスピーカー開発に力を入れてきたパイオニアの中でフラッグシップのRSスピーカーはその象徴でもある。そのパイオニアが満を持して新世代のハイエンドスピーカーであるGRAND RESOLUTIONをデビュー、その全貌に迫った。
苦難を越えて待ち望まれたハイエンドスピーカーが登場

近年ハイエンドスピーカーの開発競争は世界の各ブランドで非常に激しく、有名スピーカーブランドがこぞって個性的なハイエンドモデルをラインアップしている状況だ。しかしかつて国内市場ではパイオニアのRSスピーカーがハイエンドのカテゴリーを席巻した時代があり、国内のハイエンドカーオーディオ文化を前進させた重要なブランドであったことは間違いないだろう。ただし、その後トップモデルの開発は一時的に滞り、ユーザーからは次世代のハイエンドスピーカーのデビューが求められるようになっていた。そんな中、近年はPRSスピーカーの発売などハイレベルなスピーカーラインアップにも力を入れはじめているパイオニアが、いよいよ満を持して登場させたのがGRAND RESOLUTION(グランドレゾリューション)だ。

そこで開発を担当する東北パイオニアへGRAND RESOLUTIONの取材に訪れた。無響室やスタジオでの試聴に加えて車載環境でのデモまで含めて、GRAND RESOLUTIONをいちはやく体感できる機会とあって期待大の取材となった。まずは開発コンセプトや製品の特徴の説明からスタート。

そもそもGRAND RESOLUTIONの登場の背景には世界のハイエンドスピーカーの個性化も大きく影響している。“パイオニアらしさ”をどのようにしてハイエンドの世界で表現するかもGRAND RESOLUTION開発の大きなテーマになっていて、その回答がCSTドライバーだった。PRSシリーズで市販カーオーディオにはじめて投入されたCSTドライバーはツイーター/ミッドレンジを同軸にレイアウトしたパイオニア独自の中高域スピーカーユニットで、プロオーディオスピーカーであるTADに採用され、その優位性を世界に知らしめてきた技術でありカーオーディオでも優位性を示せるユニットだ。
もちろんサウンド面で「アーティストの想いをありのまま届ける」というパイオニアの目指すべき音世界を再現することは根幹の狙いでもあり、CSTドライバーの採用とサウンドの狙いがピタリと一致して登場したのがGRAND RESOLUTIONだったのだ。CSTドライバーを用いることで“空間と時間の一致を誘うことができる”そんなサウンドこそが新しいハイエンドであるGRAND RESOLUTIONだ。ちなみにネーミングで用いられた“RESOLUTION”にはオーディオ業界では知られた“解像度”の意味に加えて“決意”を表すワードでもある。パイオニアが新しいハイエンドスピーカーにかけた並々ならぬ力の入れ方が伝わって来るモデル名となった。
CSTドライバーと17cmの組み合わせで織りなす新たな世界

ユニットは17cmセパレート3ウェイの「TS-Z1GR」(CSTドライバー+17cmミッドバス)と7.3cm2ウェイハイレンジの「TS-HX1GR」(CSTドライバー)のラインアップとなる。まず注目なのは採用されている7.3cmユニットにツイーターとミッドレンジを同軸レイアウトしたCSTドライバーだ。同軸にツイーター/ミッドレンジを配置することによって指向特性に優れるのがひとつの魅力で、スピーカーロケーションに制約がある車内への取り付けにおいても、軸上を外れても特性の乱れが少ないのがCSTドライバーの大きな魅力だ。車内で歪みが少なく理想に近い指向特性を備えたのが特徴となり、自然な音場や確かな定位の音像表現が可能なのもCSTドライバーとカーオーディオの親和性の高さを感じさせる部分でもある。

ところでCSTドライバーはカー用としてすでにPRSシリーズで採用されているのだが、GRAND RESOLUTIONで採用されているCSTドライバーとの違いはどのような部分なのかも気になるが、そのひとつがツイーターに対して蒸着ベリリウム振動板を採用した点がある。ベリリウムは軽くて硬いという、もともと振動板に有利な特性を持つ素材なのだが、蒸着法で製造することで結晶を立たせて適度な内部損失も備えることに成功。音色の良さや立ち上がり/立ち下がりに優れた特性を引き出しているのが大きな特徴だ。ベリリウムを使うと金属的な色つけが出やすいのだが、パイオニアの独自技術(TADのCSTドライバーをはじめパイオニアが自前で蒸着を実施しているのも強み)を注ぎ込むことで他では真似できないサウンドを現出させているのも大きな魅力となった。さらにCSTドライバーの背面を見るとバックチャンバーにスリットが設けられているのがわかる。この部分は半密閉構造になっていて、ミッドレンジの振幅を最適化する役目を担っている。具体的には小さなバックチャンバーに吸音材/スリット構造を備えることで、ミッドレンジの振幅をしっかりコントロールし低歪みと低域側の再生能力(最低共振周波数は200Hz以下とした)を高めたのが特徴となった。

そんなCSTドライバーと組み合わされる17cmミッドレンジは、徹底してCSTドライバーの良さを引き出す性能を備えた。そのひとつが指向特性のスムースさだ。滑らかにCSTドライバーとマッチングすることで3ウェイの一体感を車室内で表現できるのも魅力であり、軸上を外れても滑らかにロールオフする特性を備えていることもCSTドライバーと組み合わせたときの指向特性上のマッチングには必要不可欠だった。もちろん中低域を担当するスピーカーとして高いリニアリティーと低歪みを備えていて、ロングプレート/ショートボイスコイルの採用やダンパー、エッジなどの工夫によって駆動力/サスペンションを平坦化、押す/引くのピストンモーションにおいて振幅の対称性を高めることで高いリニアリティを引き出すことに成功している。

振動板素材には先にリリースされたVシリーズで用いられている技術である開織カーボンクロスを採用し裏層には異素材を添加物に加えた抄紙による2層構造にて剛性と適度な内部損失を獲得することに成功した。カーボンの繊維を横方向に並べる構造を持つ同素材は、振動板を“薄く”できる技術であり、薄くすることで樹脂の含浸を減らせ、樹脂の影響を最小限に抑えカーボンクロスの剛性・軽さを最大限に生かすことができる振動板素材となった。

さらにマニアックな面としては磁気回路に用いる鉄材には高炉法や電炉法の鉄の違いや焼きなまし処理の有無を検討することで鉄ヒステリシス(エネルギー損失)を低減することに成功した結果、高いリニアリティと低歪みを実現させている。フレームの細部を見ると面取りが施され、さらにはヨークとキャップ部分には滑らかにラウンドした形状を採用、いずれもスピーカー背面の空気の流れを良くする工夫が込められている。
試聴で感じ取れる新たなパイオニアサウンドに感動

技術的な説明はその程度にして、その後は無響室、スタジオ、車両での試聴体験を実施した。最初にこの手の試聴では珍しい無響室に案内されたのだが、試聴するとその意味が理解できた。ここではCSTドライバーの指向特性に有位点を感じられる内容になっていて、従来の2ウェイセパレートスピーカーを聴くと軸上に近い部分から無響室内を左右に移動すると大きく高域が減衰するのが明らかに体感できる。対してCSTドライバーで聴くと大きく角度を付けた位置に移動して聴いても高域の減衰がほとんど感じられないのだ。その結果、どこで聴いても低域~高域までのバランスが良く、車内への取り付けでも大きな魅力になることを感じさせてくれた。

次にスタジオに場所を移しての試聴を実施。ジェーン・モンハイトのHoneysuckle Roseでは音像のまとまり感が心地良い、強い実在感がありハリのある中域が体感できる。さらにジェーン・モンハイトとマイケル・ブーブレがデュエットするI Won’t Danceは男女のボーカルが交互に出てくる音源だが、ボーカルの実在感、イメージングの明確さが際立っている。男女ボーカルの質感の違いも含めてリアルな表現になっているのが感じられる。ボーカルや演奏が美しく分離して楽器やボーカルの位置関係が明確で立体的な音像が浮かび上がってくるのも印象的だった。
また中国琵琶と太鼓をフューチャーした音源では急激に音が立ち上がる難しい音源。しかし立ち上がり/立ち下がりのスピード感が際立ちピタリと追従するキレのあるサウンドが心地良い、キリリとしたサウンドに仕上がっているのも蒸着ベリリウムの応答性や開繊カーボンの素材による効果が大きいことが想像できた。
スタジオでの仕上げとして試聴したのはダイアナ・クラールのライブ音源。試聴の趣旨は正確なサウンドは理解できたのだが、アーティストの感情などはどのように伝わって来るのか。それにはライブ音源を体感することが最適となったわけだ。ライブ演奏が始まると会場に入り込む没入感がすぐにやって来る、まさに音世界に引き込まれる感覚だ。観客の歓声、ライブ会場の反響音、ホールのサイズ感までがリアルに伝わって来る。アーティストがリスナーに訴えかけてくる感情までがリアルに伝わる感覚が味わえる試聴となった。

そして早くもGRAND RESOLUTIONを車両にインストールしたデモ車両が用意されていたので試聴した。スタジオで再生した音源を車内でも試聴したのだが、正確無比なサウンドは車内でも変わりなく楽しめた。特に中高域のリアルさはこれまでのどのスピーカーとも異なるフィーリング。色つけされること無く、まさにリアルを車内で表現していると思わせるサウンドだった。CSTドライバーの優位性が象徴的に示されたデモカー試聴となった。

新時代のパイオニアのハイエンドスピーカーとしてデビューしたGRAND RESOLUTION。パイオニア独自のCSTドライバーの採用でオリジナリティを追求したユニットになったのはもちろんだが、素材、製法、システムと徹底したこだわりで製品化されたユニットは現時点でのパイオニアの集大成となるスピーカーに仕上がった。

世界のハイエンドスピーカーを相手にしても優位性を示せるユニットとしてカーオーディオの新しいハイエンドの世界を開拓するキーユニットとなる予感大のスピーカーになった。

そして最後に、今回試聴したGRAND RESOLUTION搭載デモカーのトヨタ GR86が6月21日(土)/22日(日)に千代田区丸の内にある東京国際フォーラムで開催される『OTOTEN2025』にて初お披露目される。もちろん試聴可能なのでGRAND RESOLUTIONが作り出す車内とは思えない圧倒的な表現力を是非とも体感して欲しい。
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