「テスト開始1分前」のアナウンスが場内に流れる。「20秒前」、「15秒前」、「10、9、8……、0、スタート」。……どこん! 予想していたより重たい音を立ててホンダ『フリード』とハニカムバリア付き台車が衝突した。
栃木県芳賀町にある本田技研工業栃木四輪開発センターを訪問し、衝突実験を見学する機会を得た。センターはJR宇都宮駅東口より車で40~50分ほどの場所にある。宇都宮ライトレール(路面電車)の終点、芳賀・高根沢工業団地停留所の前だ。約2万人が働く。
1960年に、本田技研工業の子会社として、ホンダ製品を研究・開発する本田技術研究所が分離・設立された。そして1979年に栃木ブルービンググラウンドが開場したのが、栃木の開発拠点の始まりだ。1986年には本田技術研究所栃木研究所となり、この体制が長く続いた後、2020年までに商品開発機能は本田技研工業に移管された。
開発センターの衝突実験施設は2000年に完成した。屋内型で、合計8本のコースが放射状に設けられている、世界でもユニークな衝突実験施設だ。コースは7本が被試験車両用で1本が台車用となっている。各コースの長さは120m、コースの下の溝に張られたワイヤーで車両を牽引する。
コースの組み合わせにより、正面衝突や側面衝突、追突まで、15度刻みで各方位からの衝突形態を再現できる。それまで行なわれている固定バリアを中心とした衝突テストに加えて、現実の事故形態により即した「車対車」の衝突テストを充実させた。

また、異なる速度で2台の車を衝突させるテストや、一般的な乗用車同士の衝突だけでなく、例えば乗用車と大型車との衝突テストにも対応する。さらに、四輪車同士の衝突のほか、四輪車対歩行者といった幅広い事故形態の分析を、天候に左右されない屋内施設で行なう。
見学した衝突試験は、ハニカムバリア付き台車対フリード、運転席側50%ラップ正面衝突、速度50km/h(相対速度100km/h)というもの。2024年度J-NCAPに準拠したテストだ。これを衝突地点近くの上方、天井から下がる位置に設けられたコントロールルームから見学した。
今回はハニカムの潰れ方で被試験車両の攻撃性を調べることが目的だ。被試験車両が販売中の『フリード』であったように、試験は発売前・開発中の車両とは限らない。試験を繰り返して常にデータを蓄積するのだ。試験の回数は2輪車も含めて年間約600回、1日2回以上のペースだ。コストは1回約150万円プラス車両代。