どこからか音もなく現れ、狙った獲物を確実に仕留める。猛禽類の中でもフクロウは特異な存在だ。羽音を極限まで抑え、無駄のない動きで加速し、相手に気づかれる前に勝負を終わらせる。その姿は、単に速いというより「合理」そのものに近い。
ASPARK OWL(アスパーク アウル)
そんなフクロウの名を冠した電動ハイパーカーが存在する。ASPARK『OWL』(アスパーク アウル)という。日本で生まれ、イタリアで鍛え上げられたハイパーカーだ。現在、世界で5台のみ存在している。そしてなんと約2,000馬力(2,012hp)もの出力を誇る。その希少性もさることながら、0-100km/h加速で世界最速記録:1.78秒(2020年当時)を打ち立てた実績が、このクルマの本質を雄弁に物語っている。
ハイパーカーといえば、これまで主役は欧州勢だった。ランボルギーニ、ブガッティ、パガーニなど。凄まじいエンジンの咆哮とともに、目にも留まらぬ速さで駆け抜ける。その舞台に、日本発祥、しかもEVという選択で切り込んできた存在があると聞いて、正直なところ意外性を感じたのが率直な感想だ。
◆大阪で生まれ、イタリアで育まれて
ASPARK OWL(アスパーク アウル)その成り立ちは、一般的なハイパーカーとは一線を画している。アウルを生み出したのは、大阪に本社を構える企業、アスパーク社だ。しかし、アスパークは自動車メーカーではない。人材派遣を軸に、多様な業界を支えてきた会社である。その背景を知れば知るほど「なぜハイパーカーをつくったのか?」という疑問が浮かぶ。
その問いに対して、吉田 眞教(よしだ まさのり)社長の答えは実にシンプルだった。
株式会社アスパーク 代表取締役 吉田 眞教氏「会社の発展と、より高い社会貢献を目指して何ができるか?を考えた時に、私が前から挑戦してみたいと思っていた、速くてかっこいいクルマをつくりたいと思いました。今後の環境問題への取り組みについても真剣に考え、EVでの開発に取り組んでいます。速さといっても規準がいろいろありますが、アウルは加速度での世界一を目指しました」
ASPARK OWL(アスパーク アウル)アウルのプロジェクトが動き出したのは10年程前。EVは今ほど一般的ではなかった。速さを追い求めるためには、バッテリー性能だけでなく、重量配分、冷却、エアロダイナミクス、そしてパッケージングと、全てを再定義する必要がある。ハイパーカーは、単にモーターを積めば成り立つ世界ではない。
そうして2019年、開発拠点はイタリアに移る。選ばれたパートナーは、MANIFATTURA AUTOMOBILI TORINO(マニファチュラ アウトモビリ トリノ)。数々のスーパーカー開発に携わってきた彼らの知見と技術とが、アウルを“走れるクルマ”へと引き上げていった。
ASPARK OWL(アスパーク アウル)「デザインを考え始めた時は、僕自身がランボルギーニのようなスタイルが好きなせいか、どちらかというと男性っぽい、マッスルカーに近いイメージを持っていました。でもデザイナーといろいろ決めていくうちに、最終的に今のカタチに落ち着いたんです。前から見た時のこの滑らかな曲線、すごく美しいでしょ」
そう語る吉田社長がアウルを見つめる目は、愛娘を愛でるかのようにも見えた。
ASPARK OWL(アスパーク アウル)この日サーキットに姿を現したアウルは、深いブルーのボディを纏い、驚くほど静かに佇んでいた。全体的に丸みを帯びたフォルムは妖艶で、どこか余裕すら感じさせる。カーアニメの世界に登場するとしたら、きっとクールな女性キャラクターだろう。走る前から感情を露わにすることはない。そんな印象だ。
◆レーシングドライバー谷口信輝が語る、アウルの本性
アウルの真価を確かめる役割を担ったのが、レーシングドライバーの谷口 信輝(たにぐち のぶてる)氏である。長身の谷口氏に、アウルのコックピットは天井が少々低すぎたようだ。走り出した当初は体を縮めて乗っていたような感覚があったが、だんだん加速して走っていくうちに、自分がすっとシートに収まる感覚があったと、初回の試乗後すぐに彼が語っていた。
レーシングドライバー 谷口 信輝氏谷口氏がアクセルを踏み込んだ瞬間、アウルが纏う空気が変わる。俊敏に動き、風に挑むかのような挑戦的な眼差しがちらつく。エンジン車が豪速で走り去っていく時の、耳をつんざくような爆音はしない。だが、静けさの中で確実に空気を切り裂き、張り詰めた緊張感が立ち上る。それは、猛禽類が空から急降下して獲物を捉える直前の、あの一瞬に似ていた。
谷口氏は「シームレスな加速が印象的で、どこまでも飛んでいきたくなる感じだった」と、そのドライビングフィールを表現している。でもやはり、エンジンサウンドがないのは違和感であるらしい。
レーシングドライバー 谷口 信輝氏この日の0-100km/h加速記録は、わずか2秒前半ではあったが、自身のベストを超えるものではなかった。ドライビングモードの設定、それにタイヤや路面状況次第では、まだ余力を残していることが伝わってくる。この日アウルが履いていたタイヤは、トーヨータイヤのPROXES(プロクセス)だった。アタック時のフロントには「PROXES R888R」を、リヤには「PROXES Sports 2」という前後異種のチョイスとなった。
トーヨータイヤ PROXES R888R谷口氏は、タイヤのグリップ感とアウルの本来持つ出力とのバランスを調整すると、さらに加速度が増すだろうという見解を示していた。いつでも速さを誇示するのではなく、必要な時に確実に応える。その姿勢は、まさにアウルという名がぴったりだ。
「どうせやるなら常に一番を目指せ。小さい頃からそう教えられてきました」
と、吉田社長は述べる。それはアウルというクルマの哲学そのものだ。速さは目的ではない。思想の先に、結果として表れるものなのだと、語らずして納得させられた。
ASPARK OWL(アスパーク アウル)現在、アウルの0-100km/h加速記録は、クロアチアのリマックに打ち破られてしまっている。今は静かにその翼を休めている時なのだろう。次に羽ばたく瞬間、再び世界の頂点に舞い戻るのか。その行方を見届ける準備が、始まっている。




