並列3気筒エンジンと言うとヤマハ『MT-09』や『XSR900』の奮闘でずいぶんメジャーな存在になったが、そのMTよりも以前から3気筒に力を入れ続けてきた外国メーカー、それが英国のトライアンフだ。
【画像】3気筒を味わうために生まれたトライアンフ トライデント800
現在におけるトライアンフ3気筒の評価を決定づけたのは2007年の『ストリートトリプル』。サーキットをはじめとした絶対性能ではなく、回転上昇と共にエンジンの音色、そして表情が移り変わっていく3気筒ならではの楽しさに主眼を置いたその狙いは、ミドルクラスという排気量とも合致して見事に的中。私もその魅力に気付かされた。
だが、当時の欧米で人気の高いストリートファイタータイプとして登場したストリートトリプルは、その後もよりアグレッシブな方向へと進化。「3気筒の楽しさを伝える」から「どんなところでも速く走る」に軸足を移した感じとなっていった。
トライアンフ トライデント800の3気筒エンジン
これに対して3気筒の楽しさを伝える役割として『トライデント660』も供給するようになったのだが、ストリートトリプルは2023でそのエンジンがMoto2由来であることを全面に打ち出してさらなる先鋭化。トライデント660とは無視できないほど差が開いてしまった。
今回の『トライデント800』は、その660とストリートトリプルの空隙を埋める存在として新たに登場したもの。排気量こそストリートトリプルの765ccより大きい798ccとはなるものの、パワーがストリートトリプルの120ps/11500rpmより発生回転数もひとまわり抑えた115ps/10750rpmに設定されている。
ということで、すっかり前置きが長くなってしまったが、僕は地中海のキプロス島まではるばる来ている。標高1952mのオリンポス山を中心とした山岳地帯を持つキプロス島は道路が左側通行ということもあり、どこか日本にも通じるシチュエーション。1月末ながら気温も春先のような暖かさだ。
◆“振動”ではなく“心地いいバイブレーション”
トライアンフ トライデント800の足つき
トライアンフ トライデント800の足つきトライアンフが用意した試乗コースは、街中から山間部を抜けていく距離にして約150kmの公道。ちょいとしたツーリング行程だ。
それでは跨りからいってみよう。着座位置自体はシート高810mmなので、両足のつま先の腹がしっかりと着く。さらに装備車重200kgを切る198kgなので引き起こしが抜群に軽い!もうそれだけでも取り回しの良さを感じてしまう。
ハンドルもフラットバーではあるものの、いわゆるストリートファイター系ではないので幅が広すぎてフルロックでも腕が遠くなって困ることはない。高さも腕をすっと前に出したところにある感じで極めてナチュラル。したがって上半身は気持ち前傾するくらいのアップライトなポジションだ。足は両方とも腹まできっちりと地面に着く。シート前方をそんなに絞ってはいないのに足を真下にスッと下ろせる足着きの良さに一役買っている。細かいところではサイドスタンドを出しやすいのも◎。
トライアンフ トライデント800 「SPORT」「ROAD」「RAIN」と3つあるライディングモードのうち、まずはROADモードでエンジンスタート。キプロス島のストリートへ繰り出した。第一印象は全体的に柔らかい雰囲気でアクセルに対するレスポンスも鋭すぎない。4000~5000rpmまではエンジンがつきすぎることなく、ビュイィーンとアクセルに対して後から加速がついてくる感じだ。
この4000rpmくらいまでの低回転域バイブレーションがグリップやステップからも身体に伝わってくるのが実に気持ちいい。“振動”ではなく“心地いいバイブレーション”。このバイブレーションが、いい速度感、いいペース感になるとスッと消えていく。そこもまた3気筒の気持ちいいところなのだ。そのエンジンの音色の移り変わりを、ライダーがバイクと一緒に探していく感じがたまらなく面白い。
前のクルマが遅いので追い越してしまおう。アクセルを捻ると「おぉ、来た来たっ!」と7000~8000rpmあたりから爆発的な加速で一気にクルマをパス。この加速感もトライアンフ3気筒の楽しいところで、2ストロークの「ヤバい感」に通じるまさにそれ。本当に3気筒って回転次第でいろんな表情と出会えるから面白さが尽きない。
◆ストリートトリプルとは異なるトライデントならではの特徴
トライアンフ トライデント800 そうこう市街地で楽しんでいるうちにワインディング区間への入口へと到達。まずは5000rpmくらいで流す感じで走ってみる。乗り心地は柔らかいと言ったが、ブレーキをかけたときのノーズダイブはコシがあって結構ゆっくりな感じ。ちゃんとスポーティにも走れるようにしていることが分かる。
ここでもやっぱり、前が開けた時、そこから回せるところが3気筒の醍醐味。エンジン回転の気持ちいいところと対話しながらいい景色を望む、それが全部シンクロしていく時が最高なのだ。
ワインディングを走ってみると、ストリートトリプルとは異なるトライデントならではの大きな特徴が分かった。それはハンドリングだ。フロントタイヤにクイックで軽々しい切り返し感を感じられない。フロント荷重を意識しなければならないというのではなく、自然な形でワインディングを楽しませてくれる。タイトコーナーであろうが高速コーナーであろうが、どんなところでもあくまで前後輪に接地感をしっかり持たせてキレイに走らせてくれる感じなのだ。
トライアンフ トライデント800 加速しながら車体を切り返していく時に、あんまりフロントがクイックに反応するとステアリングをもっと低くしたくなるのだが、このタイプのアップハンでそれもかなりいいペースなのにフロントを頑張って押さえこむ必要がない。
さすがに日本の公道常識を超えた速いペースだとフロント荷重を活用してグイグイ旋回させるストリートファイター系のハンドリングがほしいと思える場面もあったが、日本の狭い峠に似た、路面にヒビ割れや凸凹が随所にあって、おまけに見通しもあまり効かないキプロスの田舎峠を抜けて行くステージでは、前後輪の接地感がほどよく伝わり、おまけに車体の動きもなだらかなこちらの方が結果的に走りやすいし疲れない。
◆3気筒の良さを味わうためのバイク
トライアンフ トライデント800 ハンドリングとしては攻め攻め系ではなくマッタリ系に分類されるものなのだが、ゆっくりペースからかなりのハイペースまでこなせるんだから、実力としてはかなり高い。ステップを擦るほどではないがバンク角もかなりある。とにかくどんなところでも3気筒の良さを味わうことに専念できる、そんなバイクに仕上がっているのだ。
ついでにライディングモードも試してみた。ROADからSPORTへの切り替えは思っていたほど劇的なキャラクター変更とはならなかったものの、それなりに元気の良さが演出される。ところどころ使い分けて乗りたくなる設定だから、各々ちゃんと出番はあるだろう。
最後の区間では試乗テストにおあえつらえ向きの本格的な雨まで降ってきた。ここでも3気筒の持つトルク感・盛り上がり感・伸びきり感を余すことなく伝えてくれることを確認。RAINモードはもちろんSPORTやROADモードでも安心して乗ることができたのは、やはり前後輪にしっかり接地感があったおかげと言える。
こうして街中から峠、そして雨と、いろんなシチュエーションで3気筒を楽しんでいるうちにゴール地点へと到着。とにかく楽しい行程だった。
◆3気筒のトライアンフが124.9万円から、という魅力
トライアンフ トライデント800 トライデント800がどんなバイクだったか総評すると、あらゆるライダー・あらゆる場所で3気筒の楽しさ全て伝えることにフィーチャーした、いわばトライアンフ3気筒の基本形もしくは決定版といったマシンだった。
価格も随分と魅力的だ。日本での車両価格は税込み124万9000円(黒)~126万9000円(灰、赤)。これは同じ3気筒であるヤマハ XSR900の130万2000円よりも安い設定で、話題のスズキ『GSX-8T』の129万8000円に対してもあちらが2気筒ということを考えると、トライアンフがいかに日本の市場を意識しているかが見て取れる。
日本でのデリバリーはこの2月に開始。新車選びの選択肢から外せない楽しいマシンが、ここにまた登場した。
トライアンフ トライデント800 ■5つ星評価
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★★★
オススメ度:★★★★★
丸山浩|プロレーサー、テストライダー・ドライバー
1988年から2輪専門誌のテスターとして活動する傍ら、国際A級ライダーとして全日本ロード、鈴鹿8耐などに参戦。97年より4輪レースシーンにもチャレンジ。スーパー耐久シリーズで優勝を収めるなど、現在でも2輪4輪レースに参戦し続けている。また同時にサーキット走行会やレースイベントをプロデュース。地上波で放送された「MOTOR STATION TV」の放送製作を皮切りに、ビデオ、DVD、BS放送、そして現在はYouTubeでコンテンツを制作、放映している。また自ら興したレースメンテナンス会社、株式会社WITH MEの現会長として、自社製品、販売車両のテストライド、ドライブを日々行っている。身長は168cm。




