レスポンスではこれまで複数回にわたり、在独ジャーナリスト 熊谷徹氏によるドイツ自動車業界の状況を伝え、考察するセミナーを開催している。3回目となる今回のセミナー「ドイツの自動車産業の業績は政府支援で回復するか?」では、状況のアップデートに加え、業界が次のフェーズに入ったことを示す内容となる。
歴史的な転換点を迎えるドイツ自動車工業界
――熊谷さんには、定期的にドイツ自動車業界についての報告セミナーをお願いしています。今回のセミナーで、これまでと変わった状況や注目すべき点はなんでしょうか。
熊谷氏(以下同)「ドイツ自動車業界は、依然として厳しい状況が続いていますが、2026年はさらに状況が悪化しています。VWは、10万人規模のリストラを行う計画があるといいます。10万人という数字は、2025年に発表していた人員削減計画(労使合意あり)が2倍以上の規模になったことを意味します。また、これまでVWは、人員削減の発表はあっても、国内工場の閉鎖はないと明言してきました。しかし今回は、国内にあるフォルクスワーゲンの10工場のうち3カ所とアウディの工場1カ所の合計4つを段階的に縮小、閉鎖する計画も報道されています。
ドイツの自動車メーカーが国内の工場を閉鎖するのは極めて異例です。この報道内容が事実とすると、VW史上で初めてであり、ドイツ自動車史上でも歴史的な転換点と言っていい出来事です」
――VW以外も含めて厳しい状況ということですか。
「2026年5月の時点で、ドイツ国内の乗用車生産台数は前年同月比で18%減という数字がでています。自動車産業の不況は全国的なもので、『メルセデス本社があるバーデン・ヴュルテンベルクという南西部(ドイツものづくりの中心地)がアメリカのデトロイトのようになる危険もある』という憶測も流れています。
自動車不況の原因は、ロシア・ウクライナ戦争によるエネルギー危機と産業用電力の高さ、トランプ関税、中国事業の悪化、EUの環境規制などさまざまですが、もはや、産業構造を変えないと難しい状態です。これもVWグループの例ですが、2025年の営業利益率がわずか2.8%まで落ち込んでいます。利益率がここまで低くなったのは、これまでグループで優等生だったポルシェで、BEV生産・販売計画の転換などのために業績が劇的に悪化したこともありますが、市場全体の冷え込みをあわせて考えても、これまでのやり方が通用しなくなっていると見るべきでしょう」
ドイツ勢はADAS、自動運転の自社開発を断念?
――なるほど。確かに深刻な状況のようですね。戦略と収益モデルの再構築が必要な段階なのかもしれません。
「産業構造の変革では、ソフトウェアシフトや自動運転技術といった新しい付加価値戦略をどうするかも問われています。対中国戦略とも直結する重要な要素です。たとえばVWをはじめ、自動車業界各社が進めようとしている『In China, For China』の意味するところが、ここにきて変わりつつあります。VWのブルーメCEOは、中国市場については車両開発や設計、生産を中国の現地法人に任せる方針を打ち出してきました。ドイツでの報道によりますと、現在はさらに突っ込んで『中国で開発された技術のうち欧州で使えるものを積極的に導入する』、または『中国で開発した車を欧州で生産する可能性について検討するべきだ』と述べています。EVやSDV、自動運転については『中国に学べ』ということです。これが実現しますと、VWにとっては大きな路線の転換になります」
――確かにトヨタも日産も中国市場については同様な戦略をとっていますね。
「とくに自動運転関連で、その動きが顕著です。ドイツのメーカーは、メルセデスもBMWも自動運転技術の自車開発を進めていましたが、ドイツのメディアは、『VWがボッシュとの自動運転技術の共同開発を解消する可能性がある』と報じています。VWはCARIADというSDVや自動運転に関するソフトウェア企業を持っていますが、毎年赤字が続いています。VWは、自動運転技術を中国から買う姿勢も示しています。

![このままではデトロイトのようになる:ドイツ自動車業界が迎える第2の転換点…在独ジャーナリスト 熊谷徹 氏[インタビュー]](/imgs/thumb_h2/2225465.jpg)

