スズキは9月25日、「10年先を見据えた技術戦略 2026」を発表した。2030年に向けて新型車の開発期間を2020年度比で半減するとともに、開発効率を30%、生産効率を50%向上させるという目標を掲げ、「クルマの作り方」を大きく変えようとしている。
背景にあるのは、自動車を取り巻く環境変化の速さだ。
スズキは2024年、地球環境や資源問題に対応する技術哲学として「エネルギー極少化」を掲げ、BEV(電気自動車)だけに解を求めず、HEV(ハイブリッド車)、ICE(内燃機関)、CNG(天然ガス車)、FFV(フレックス燃料車)などを地域事情に応じて使い分ける「マルチパスウェイ」を打ち出した。2025年には、そこに顧客にとって本当に必要な価値を追求する「本質価値極大化」を加え、そのための技術群を「Right × Light Mobile Tech」と定義している。
2026年の技術戦略では、その考え方をさらに一歩進める。
焦点となったのは、新しい技術そのものだけではなく、それらをいかに速く商品として世に出すか。そのためにスズキは、開発と生産のプロセスそのものに手を入れる。
◆なぜ「開発期間半減」が必要なのか
スズキ 鈴木俊宏社長
「変化のスピードに負けない会社になる挑戦」
技術戦略説明会でスズキの鈴木俊宏社長は、今回の開発・生産改革をそう表現した。
現在、自動車メーカーを取り巻く条件は急速に複雑化している。原材料価格やエネルギーコストの上昇、環境・安全規制の強化、地政学リスク、各国の政策や税制。さらに国や地域によって発電構成、燃料事情、充電インフラ、ユーザーの生活環境も異なる。
その結果、クルマに要求される機能は増え続けている。スズキによれば、5年前と比べて平均車両購入価格は約50%上昇し、平均車両重量も約10%増加したという。
だからこそ同社が改めて問い直しているのが、ユーザーにとって「本当に必要な機能とは何か」「丁度いいとは何か」だ。
しかも、その答えは世界共通ではない。再生可能エネルギーや充電インフラが整った地域ならBEVが適していても、別の地域ではHEVやCNG車が合理的かもしれない。市場環境が変化すれば、その最適解も変わる。
スズキはマルチパスウェイについて、「変わった時に、すぐに最適なものをお出しできる。その備え」と説明する。多くのパワートレインを開発することだけがマルチパスウェイではない。市場が変化したとき、それに適した商品を素早く開発し、投入できる体制そのものが必要になる。エネルギーの極小化と同時に、本質価値の極大化をめざす。それを実現するための「開発期間半減」ということだ。
◆「前工程が終わるまで待たない」開発へ
スズキは、2030年に向けて新車開発期間の半減、開発効率30%向上を掲げるスズキが2030年に向けて掲げた目標は、新型車開発期間を2020年度比で半分にしながら、開発効率を30%向上させるというものだ。さらに生産についても、インドのマネサール工場を基準として50%の効率向上を目指す。
開発期間を半分にするためのポイントとなるのが「並行開発」「デジタル開発の深化」「モジュール化の進化」の3つだ。
従来のように前工程が終了してから次工程へ渡すのではなく、企画、設計、生産、品質、調達といった部門が開発の初期段階から同じ目標を共有し、同時に動き始める。鈴木社長はマラソンに例えながら、「マラソンは42.195kmを一人で走る。駅伝なら同じ距離を8人で走る。スズキは8人同時にスタートして、(合計で)42.195kmを走り切るということ」と説明する。
さらに、スズキが長年蓄積してきた設計基準や評価ノウハウ、実車から得られた知見をデジタル空間で活用。実物を作って確認し、次の工程へ進むという開発だけに依存せず、デジタル領域での検討を深化させることで開発効率を高める。
もうひとつがモジュール化だ。共用モジュールを増やし、個々の車種を一から作るのではなく、開発から生産までを一体で最適化する。鈴木社長は「これは単なる効率改善やコスト削減の話ではない」と強調する。狙いは、マルチパスウェイを成立させるための経営基盤そのものを強化することにある。
◆技術は共通、商品は「地域最適」に
次期eアクスルでは、「X in 1」「重希土類フリー」「地産地消」を掲げるその考え方は、グローバルでの商品開発にも表れている。スズキは日本で新技術・新機能を開発し、それをマルチ・スズキなど海外拠点と共有。各市場では、それぞれの顧客や環境に合わせて製品開発、量産開発を行う。
「技術は共通に。商品は地域最適に」というのがスズキの基本的な戦い方だ。電動化技術でも同じ発想が見える。
例えば電池では、電池パックや熱マネジメント、充放電制御などの電池システムを自社開発して共通化する一方、日本、インド、欧州など地域や用途に応じて最適な電池を選択する。必要十分な容量に抑える「バッテリーリーン」によって、資源使用量や車両重量も抑える考えだ。
軽自動車向けの新型ハイブリッドeアクスルも、基本構想を共通化した大小2仕様によって軽自動車からDセグメントまでをカバーする方針。BEVとHEVで基本設計や部品、生産設備を共用することで、開発と設備投資の効率化を図る。軽自動車にはCO2を従来比15%軽減する新型HEVを投入するほか、小型車にはシリーズHEV、さらに外部充電機能を組み合わせた「REEVライト」(レンジエクステンダーEV)やPHEVへ発展させる構想も示された。
このほかにも、新型ハイブリッドシステム「スーパーエネチャージ」、新開発直噴ターボエンジン、軽量・安全車体「Sライト」、「SDVライト」などを「Right × Light Mobile Tech」の具体的な商品・技術へ展開するとしている。
◆「e SKY」に見るスズキ流の開発改革
スズキ初の軽EV『eスカイ』こうした開発思想を象徴する存在として紹介されたのが、軽EV『e SKY(eスカイ)』だ。
開発初期、一充電走行距離は230km程度と試算されていた。しかし、「ICEの軽自動車から乗り換えるユーザーに、本当に230kmで安心してもらえるのか」と問い直した。そこで開発チームが掲げたのが、「1アイテムで1km延ばす×100個」という考え方だった。
タイヤの転がり抵抗、サスペンション、LEDの消費電力、モーターとギヤ比など、一つひとつは小さな改善を設計、生産、品質、調達といった部門を越えて積み上げた結果、一充電走行距離はプロトタイプ参考値で310kmまで伸びた。
画期的なひとつの技術によって一気に性能を引き上げるのではなく、各部門が自分の領域だけを最適化するのでもない。車両全体、さらには商品全体を見ながら小さな改善を積み上げる。スズキはこの開発プロセスそのものを「チームスズキ」の強みと位置づけている。
スズキ社員によるチーム体制で鈴鹿8耐に参戦する「チームスズキCNチャレンジ」のマシンそして、この考え方を個別車種だけでなく、会社全体の開発・生産プロセスへ広げようとしている。世界各地で異なる最適解を求めながら、商品を安く、軽くする。一方で多様化する市場要求にはこれまで以上に速く応える。「開発期間半減、開発効率30%向上」という数字は、スズキがその難題に対して示したひとつの答えだ。
鈴木社長は、環境負荷の低い車両で「鈴鹿8耐」に参戦する「CNチャレンジ」がチームスズキを象徴する取り組みだとしながら、「技術と知恵を組み合わせて、みんなでより良い答えをつくる。これがチームスズキ。今後も、マルチパスウェイで、お客様にとっての“丁度いい”をチームスズキで、次々とご提供する計画だ」と語った。




