【井元康一郎のビフォーアフター】バッテリー技術は囲い込みかオープンソースか

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FT-EVII(東京モーターショー09)
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11月5日、電機メーカー大手のパナソニックが三洋電機に対するTOB(株式の公開買い付け)を開始した。大株主である三井住友銀行、大和証券SMBC、ゴールドマン・サックス証券の3社から株式を買い取る契約を結んでいる。それらの株だけで発行済み株式の2分の1を超えるため、三洋がパナソニックの子会社となるのは確実だ。

パナソニックの狙いは、三洋の太陽電池、バッテリーなどの電気エネルギー利用技術である。三洋は長年にわたる経営の混乱のツケで、業績は目を覆わんばかりの惨状だが、EVに使われているリチウムイオン電池、ハイブリッドカーに使われているニッケル水素電池の両方について、業界有数の高い技術力を有しており、シェアもそれぞれ世界トップである。

「パナソニックはトヨタ自動車のバッテリー開発の重要なパートナーだったが、ニッケル水素電池でも自社の技術だけで要求スペックを満たすことは難しくなってきていました。技術力のある三洋を取り込むことで、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池の両方でトップランナーとなる戦略でしょう」。技術情報に詳しいある自動車業界関係者は、買収の企図をこう分析する。

現在、パナソニックは三洋を取り込んだ後の将来ビジョンを具体的には示していないが、「三洋の株価対策の点からも、来年1月の第3四半期決算発表のさいには、将来の自動車用バッテリーの事業展開について、ロードマップをかなり明確にする可能性が高い」(前出の関係者)

バッテリーのシェアで世界トップの三洋を抱き込んだことで、パナソニックはグローバルで非常に強固な市場支配力を手に入れることになる。TOB成立後のリチウムイオン電池のシェアは約4割。これはモバイル用なども含めたバッテリー全体の数字だが、自動車用リチウムイオン電池についても今後、かなりのシェアを獲得するとみられる。

これまで三洋と次世代技術の開発を行ってきた他の自動車メーカーは、三洋とは距離感を保つ方向に転換している。フォルクスワーゲンは東芝、中国のBYDを共同開発相手に選んだ。ホンダは2011年にはリチウムイオン電池を搭載したハイブリッドカーを発売する予定だが、三洋製ではなく、GSユアサとの合弁会社、ブルーエナジー製のものが載る公算が高いという。

ここ数年、こうした自動車メーカーによるバッテリーベンダーの“囲い込み”が激化していた。パナソニックの三洋に対するTOBは、その極みとも言えるトピックだったといえる。が、自動車用バッテリーの研究開発は、果たして囲い込み戦略のほうが適しているのかどうかはまだ回答が出ていない。

今後、EVやハイブリッドカーの性能向上をはかるためのキラーデバイスがリチウムイオン電池になることは間違いないところだ。が、そのリチウムイオン電池自体が「リチウムの能力のせいぜい5分の1以下しか使っていない」(電池メーカー幹部)という有様で、技術革新の余地はいくらでもあるというのも事実である。

「技術が発展段階にあるときは、競争を保ちながらも、ある程度オープンソース方式を取った方が、進歩は確実に早いと思う。リチウムイオン電池は日本陣営が世界をリードしていますが、レベルの低いところで競争に明け暮れている間に、次世代技術で他国に出し抜かれてしまう可能性だって十分にある」(政府系研究機関の技術者)

旧来のクルマ作りの範疇においては、自動車メーカーにとって技術の囲い込みは基本的に間違った戦略ではなかった。が、電気エネルギー利用技術の要であるバッテリーは、機械工業とは様相が異なる。

「自動車用に限らず、バッテリー作りは性能のチューニングにこそ妙味がある。基礎技術は案外どんぐりの背比べです。目に見える部分に違いが表れる機械工学に対して、化学の世界であるバッテリーはノウハウが最大の財産。そこを間違ってはいけない」(ソニーのバッテリー研究者)

脱石油技術の重要性が高まるにつれ、バッテリーメーカーと自動車メーカーの結びつきが強まるのは自明の理だ。が、エンジン技術と同じ感覚で、バッテリー技術のすべてを自社で囲い込むスタイルが正しいとは限らない。

自動車業界が今後、電気エネルギー利用技術をスピーディに開発するためには、「○×社はどこのメーカーの系統」「▽□社は他メーカーと付き合いがあるからウチは別の会社と」といったスタンスに拘泥するのではなく、オープンソースで行けるところはオープンソースにするといった21世紀型の研究開発になじんでいく必要があろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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