トヨタ『86』はグレード間での違いはそれほどない、もっとも大きな相違はMTかATかという点だろう。
スポーツカーなのだからMTのほうがいいというのは当たり前の評価だ。たしかに乗り比べればMTのほうが楽しい部分が多い。じゃあ、ATがつまらないかといえばけっしてそんなことはない。ATだって十分に楽しい走りが可能だ。
ATは6速のステップ式。マニュアル操作はセレクトレバーかステアリングのパドルスイッチ(「GTリミテッド」と「GT」のみ)で行える。スポーティに走らせるならやはりマニュアル操作がいい。マニュアルとした場合、エンジンはレッドゾーンの7500回転までしっかりと回りきる。勝手にシフトアップするという制御ではなく、レブリミッターが効く制御。つまり、7500回転ギリギリを使ってコーナリングすることも可能だ。
このATのもう一つのいいところは、シフトスピードが速いという点だ。世界最速レベルの変速レスポンスといううたい文句はダテじゃない。アップもダウンも素早いスピードで変速する。しかも、ダウン時は自動でブリッピングが行われエンジン回転がシンクロするので、クルマの挙動が大きく乱れるようなこともない。
200馬力のエンジンは自然吸気としては納得のいくパワーで、レスポンスも良好。エンジンの吸気音を室内に響かせるシステムを採用していて、加速時にはこれが効き、コクピットは快楽的な音に包まれる。
ハンドリングは素直で、クセのないタイプ。ステアリングを切ったなりに曲がっていき、VSCやトラクションコントロールをオフにすればドリフト状態を作り出すことも可能だ。
ジムカーナで360度ターンを行うときなどは、リヤの駆動を完全に抜いてから(つまりクラッチを切ってから)サイドブレーキを引くのだけど、ATだとこうした走りができないのが残念。ギヤを抜いてニュートラルにできるようなスイッチがステアリングに付いていると、走りの幅が広がるんだけどね。
かつてスポーツカーのATはオマケ的存在となっていた。しかし、限定免許人口が多い今、それは許されない。トヨタが86というリーズナブルなスポーツカーに、しっかりとスポーティなATモデルを設定したはじつに素晴らしいことで評価に値する。
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
諸星陽一|モータージャーナリスト
自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活躍。趣味は料理。