【レスポンス スマホ座談 後編】日本のものづくりに必要なビジョンは何だ?

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左から アイシンAW ナビ第1営業部 廣瀬功司氏、GO EAST 富所佐知子氏、ショーン今井氏
左から アイシンAW ナビ第1営業部 廣瀬功司氏、GO EAST 富所佐知子氏、ショーン今井氏 全 19 枚 拡大写真

あらためて「日本のものづくり」の原点に立ち返り、再び成長へのステップを踏み出すことはできるのだろうか。今回、国内外で活躍するクリエイターや日本のITメーカーらとの座談から再成長へのヒントを聞く座談会を開催。後編では、スマートフォンがもたらしたモビリティへのインパクト、そして日本のメーカーが目指すところの「ものづくりの理想」を語る。

【画像全19枚】

【座談メンバー(50音順・敬称略)】
富所佐知子:ソニーデジタルエンターテイメントで、携帯コミックのプロデュースや小説、音楽、デコメなどの制作を経て、現在はTwitterの鳥アイコンをデザインしたサイモン・オキシレン氏の日本側のマネジメントなどをおこなう。GO EAST代表。
廣瀬功司:アイシンAWのナビゲーション担当営業として、長年カーナビゲーションの営業・マーケティングに携わる。ナビ第1営業部副部長。スマホアプリNAVIelite(ナビエリート)のブランド推進リーダー。
堀淵清治:大学卒業後、1970年代後半に渡米。以来、日本のカルチャーを米国に紹介する仕事に従事。現在、NEW PEOPLE Inc.のファウンダーでありCEO。
ショーン今井:14歳で単身渡米。大学卒業後、米企業で10年間勤務後独立。全ての業界からの世界平和プロデュース活動に専念。IMAI CO., L.T.D. / Blind Spot 代表。
三浦和也:レスポンス編集長。

◆ナビゲーションの先駆者として

三浦:カーナビは世界中の人々のライフスタイルを変えましたが、その新しいプラットフォームとしてスマートフォンが出てきました。この新しいデバイスの爆発的な普及は、日本発のイノベーションを世界に送り出すチャンスといえるのでは?

富所:本当にカーナビって日本っぽいですよね。

廣瀬:デジタルマップとGPSを使って現在位置を表示するのは以前からありました。でも、富所さんを僕がエスコートしよう!というのを本気で考えたのはアイシンAWなんです。リアルな音声で「そこのタバコ屋の角を右に曲がって」と。1980年代後半、まだCDプレイヤーが出たばかりでパソコンも普及していないころに、やっちゃおう!と。交差点データがなければ、全国15万カ所に調査にいって。それをトヨタさんの『セルシオ』で初めて世に出したのだけど、確かに生活革命が起きましたよね。

三浦:なるほど。では、車載機で生活革命をおこしたアイシンAWが、スマートフォンのナビに取り組むきっかけはどのような理由があったのでしょうか。他の車載器メーカーがスマートフォンへの参入に戸惑う中で、いち早くスマホナビアプリの「NAVIelite」を提供しましたね。

廣瀬:スマホのお客様にも我々が発明したボイスナビのオリジナルを使ってもらいたいという思いからです。「スマホは他のメーカーさんがやればいいんじゃないか」って意見も出たんです。でも、「いかんだろう! 俺らが発明したものなのに、他のメーカーさんがものすごい数のお客さんを抱えるようになる。それは違うんじゃないか!」となったんです。

◆普通で自然でおしゃれで素敵な暮らしのために

廣瀬:スマホアプリをつくるに当たって、車載のように色んな機能を詰め込んで、通信バンバン使ってテレマをガシガシやる!という考えと、僕は違うなあと思っているんです。普通で自然でおしゃれで素敵な暮らしのために生み出していきたいなと思ったんです。

三浦:これが最高性能です! と詰めこんでいくのではなく?

廣瀬:たとえば、コムデギャルソンやA.P.C.といったアパレルのブランドのように、ものすごく自然体でシンプルで素敵な感じってあるじゃないですか。なんでもかんでもではなく、私どもは暮らしをクリエイトすると考えてやっていきたいですね。暮らしの中で脇役として存在するという形をとりたいと考えています。

ショーン:ここは非常に大切でしょう。もともと最初にカーナビを作ったときは、本当にこういう感じだけで作ったと思うんですよ。遊んじゃおう! これ楽しいよね! と。ルートをゴルフコースに見立てて、3オン2パットみたいな。ところが、今はビジネスが大きくなって、そういう遊び心をプロダクトに反映しにくくなくなっていると。その欠けてしまっている部分を、外の人間がなにかできるんじゃないかなと思うんですよ。

三浦:クルマの一部として作ると縛られてしまう。クルマから離れたものとして泳がせて、発展させたものが将来にクルマへ結びつけば、より面白くなると?

廣瀬:新しい波が来ているのは、みんな分かっていて。作り手がユーザーの欲しいものは感じていたんだけどジレンマがあって。でも、スマートフォンアプリならば車載器の制約から自由になれる。いろいろ実験をやったらいいんじゃないかと。そして、それをクルマに取り入れることができるなら、どんどんやっていこうと。NAVIeliteも、当初からそう位置づけていました。

ショーン:スマートフォンというのがけっこうなキーで。新しいことをクルマの中からやろうとするとつぶされてしまう。たとえば、これを3年後のクルマに入れて、今から試作を作ると…とやっているとできなくなっちゃう。それならば、スマートフォンで思い切り遊べるようになったらどうか?とやったというわけですね。

三浦:クルマだったりモビリティは暮らしそのものですからね。では、NAVIeliteのどの部分に作り手のこだわりがあるのでしょう。

廣瀬:NAVIeliteのオープニングに注目してほしいですね。あれはグルーヴィジョンズ(groovisions)というデザイナー集団さんたちにお願いした作品です。僕は10年以上前から彼らのグラフィック作品のファンでした。彼らはPizzicato FiveやRip Slymeなどのアートワークをされている方たちなんですが、彼らがITSのデザインをしたという映像作品に出会ったんですよ。ものすごくグラフィカルで格好良くて洗練されている。我々のインターフェースとなっているビジュアルと、もうぜんぜん違う。これだ!と。 それで「NAVIelite」を立ち上げるときに、彼らに連絡してお願いしました。そこでデザインしてもらえたのが、ブルーのトップページとアイコンとロゴなんですね。そこは本当に我々のナビに、「普通で自然でおしゃれで素敵」という要素をミックスして出すことができた。私の中では非常に重要なスタートだったんです。

◆精緻さとカルチャーを活かしたナビに

三浦:いまはNAVIeliteは日本だけですけど、日本のカルチャーというか価値観を組み合わせて世界に出て行こうということなのでしょうか。

廣瀬:NAVIeliteは構想段階からグローバルプロジェクトの位置付けです。もちろん、現地の暮らしに合ったもの、ということがベースです。ナビは実用と安全が第一にありますので、現地の生活のなかで使いやすいものにするために技術的な部分は大ざっぱでなく精緻につくりあげる技を使っていきます。その上で、富所さんや堀淵さんの話にあるように海外では日本のポップカルチャーが盛り上がっていますので、日本ならではの要素やセンスを載せていきたいですね。

堀淵:ただ世界を相手にする部分では日本の文化を見ている人ばかりでないので、NAVIeliteでいうとそこで培ったオリジナルの技術をどうやって柔軟に活かせるかってところが、重要になってくるかと思うんです。結局ナビゲーションは最終的に車の中で最も多く使われるものなので、ナビゲーションそのものが人と車を結ぶブレインとして進化するようなイメージです。そのブレインを作る時に日本人の持つ緻密さと、世界の文化をうまく吸収してしまう日本独特の柔軟性みたいなもの、日本独自の価値をブレインに集約化するイメージになってくるなのかな。

廣瀬:ナビゲーションがここまで世の中に受け入れられて浸透しているわけなのですが、大きな変化が起きつつあって、操作性やインターフェース、かっこよさ、デザイン、ビジュアル、そういったところにユーザーの関心がすごく向いているんです。こうしたユーザーのニーズにも対応していかねばなりませんし。僕らは大友克洋さんや押井守さんのヴィジュアルにやられてきた世代ですから。

堀淵:「AKIRA」とか「攻殻機動隊」のような未来的なイメージが現実化してきているけど、今から20年以上も前、アニメの世界では1970年代から日本のクリエイターがそういった世界を想像していて、今思うと彼らは結構先を見ていたんだなと思いますよねSF小説なんかは世界中にありますが、アニメという形でビジュアル化されたのは、日本のすごさと言えるのでは。

廣瀬:世の中の人から、“もうカーナビなんて特にやることないんじゃない?”と言われちゃうんですが、どっこい、今が一番ワクワクしている状態で、インターフェースを含めて、改革を起こしてやるぞと会社が燃え上がっていて、堀淵さんとも出会えてワクワクしている状態です。

◆理想のマンマシンインターフェース

堀淵:このあいだアップルの発表会(WWDC)で、各自動車メーカーがiPhoneのSiriボタンを作るってニュースが出ましたね、ナビゲーションと競争関係になるようなものを自動車会社が採用してきた。そういった時に、アイシンAWはナビゲーションのオリジナルを開発した会社として、どう対処していくのかを聞いてみたいんですね。

廣瀬:アイシンAWは、究極の車を作ってやろうと考えている会社なんです。「あたかも馬のように乗り手の意志を理解し、忠実かつ状況にフレキシブルに対応して走行できる車」です。ATって馬でいえば手足にあたりますよね、まずそこで世界的な企業になったわけです。さらに眼であり頭脳であるナビゲーションを手がけるようになり、そこでも世界トップの生産量を達成しています。そして今、夢の車に向かうスタートラインに立った感じ。

三浦:そして次なる夢の車に向かっていくとなると…。

廣瀬:これまで培ったATとナビの技術を活用していくわけですが、モビリティでは「だいたい自動でいけるけど、何処かでぶつかっちゃった」というんじゃ済まされない、安全と信頼性が第一という、根本の認識が必要です。

堀淵:自動運転とナビゲーションって切っても切れない関係ですね。ナビの本体部分が車の中にあるのかiPhoneのように外にあるのか、どうなるかはわからないけど、このままアップルのSiriのような音声認識みたいなものに占領されちゃうのはどうかと思うんだよね。

廣瀬:我々も音声認識搭載のナビ商品をずいぶん前から販売してきています。同じようなことをいろんなメーカーがいま求めていることだと思うんです。我々は我々の得意分野のなかで夢の車に向かっていくんだろうなと思っています。

三浦:これまでクルマ視点で見ていたスマートフォンの見方を変えなければならない、と。

廣瀬:人々の生活というのは車に乗っている時間より車を降りた時間の方が多いわけで、そこに現れたスマートフォンのようなウェアラブルなコンピューターを生かして、自分の車に乗ったらメーターみたいな車用のインターフェースが広がって、オートマチックな世界でドライブを楽しめるというのは目指したい部分ですね。SFアニメやSF映画の世界では、クリエイター達が渾身の思いで作り上げたビジュアルがあって先にそういう夢を見せてくれちゃってますから、それにどんどん近づいていく感覚です。

堀淵:そのイメージは分かります。アメリカでは車なしでは生活できないので、車の中って凄く重要で自分の家の延長なんですね。僕にとって車はすごくパーソナルな部屋でそこは完璧でなきゃ嫌なわけ。自宅から会社までの30分って僕にとっては貴重な時間で、自分の部屋にいるような、パーソナライズというか、好きな音楽、Podcast、ニュースといったそういったものをポンポンと楽しめるものってまだないよね。もっと言うと、自分の家から会社まで勝手に行ってくれると楽だよね、それが完全に安全だったらこれは嬉しいですよ。

廣瀬:それぐらいにナビゲーションにはもっと進化してもらいたいし、僕らが満足できるインターフェースにさせていきたい思いがあります。これまでの車載機って閉じた車内のデバイスに過ぎないものでした。今、インターフェイスがすごく感動的ですばらしいアプリがたくさん出てきています。生活は車の中だけでないということからすると、iPhoneのようなデバイスに向けて、皆が知恵を絞って未来的なインターフェースをクリエイトしているので、我々もそのアイディアやノウハウをマンマシンインターフェースの進化に取り入れていきたいと思います。

◆ビジョンは「語る」だけでなく構想を「ビジュアル化」しなければならない

三浦:そのSiriボタンに関して言えばまだカタチにもなっていませんよね。アップルがプレゼンで絵を見せてビジョンを語っただけで、その先にあるものを皆が想像できるわけです。Siriが非常に高度になって車と人間の間にiPhoneが入ってくるという10年先までをイメージできてしまう。彼らはビジョンをスカッと見せてしまう力がやっぱりすばらしいと思うんです。で、日本の製品って実用になるまで隠しておくところを、殻を破って将来をカタチでみせるエンターテイメント性を与えて欲しいと思います。

堀淵:そうですね。日本人は細かいところを完璧にやろうとする部分がありますね。ビジョンがあればどんな不完全なものであっても、出してしまえばそこに向かって人が集まってきて、知恵が集積されて自信をもって出せるということになるから…。

三浦:ビジョンというのは構想を語るだけではダメで、ビジュアルとしてカタチで示すこと。SiriのデモンストレーションもiPhoneと車の未来がスカッと見えて、“アップルはこれからすごいぞ”とみんな勝手に想像しているんだと思うんです。やっぱり、見せつけてやるということが重要だと思うんですね。

堀淵:日本のアニメなんかはビジュアルで見せるというのは得意分野なのだから、日本にも可能性が充分ある思います。いまはちょっと煮詰まっているというのかな。

廣瀬:技術者の集団の中にいると、ものづくりの大変さや、ビジョンを貫き通すことが並大抵ではないことが分かるんです。ビジョンをつくってもそれを現実化する過程で揺れるんです。

堀淵:ジョブズのように徹底的に思想が貫かれるという神業に近い人がいればいいんだけど、それは個人に頼る部分が大きい。そこから学べるものはあることは確かですね。

三浦:ビジョンを貫くには、はるか彼方な姿を想像しておくことが大切ですよね。ドラえもんがビジョンだとすると、ドラえもんのマンガがあれば、みんなそこに向かって走っていくだけですよね。車の世界でいうと“ナイト2000”というのは自動車関係者にとってのビジョンですよね、ああゆうビジョンがあればぶれることなく前に進むことが出来るんじゃないでしょうか。

廣瀬:どうなっちゃうんだろうというプレッシャーもありながら開発者は楽しんでいるはずです。我々も堂々とビジョンを示していけたらいいなと思っています。


《執筆 鈴木ケンイチ/椿山和雄》

《レスポンス編集部》

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