【中田徹の沸騰アジア】世界10位が確実となったタイ自動車産業の新たな挑戦

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Automobile Production, Domestic Sales and Export of Thailand
Automobile Production, Domestic Sales and Export of Thailand 全 4 枚 拡大写真

タイの2012年の自動車生産台数が発表された。前年比68.3%増の245.4万台。悲願だった年産200万台を達成しただけでなく、世界10位の自動車生産国の座を確実にしている。目覚しい成長を遂げる“アジアのデトロイト”だが、一方で輸出立国特有の悩みが膨らんでいる。

世界自動車生産ランキング

2012年の世界全体の自動車生産台数は8500万台前後に拡大したとみられる。このなかで中国、北米各国、日本、インド、タイなどが増産した一方、政府債務危機に揺れた欧州各国、韓国、ブラジルなどが減らした。上位5位までの顔ぶれと順位は過去数年間ほぼ固定化しており、2011年と2012年の比較で見ても順位の変動はなさそうだ。ただ、10位近辺では明暗が分かれた。

1位 中国(1927万台)
2位 米国(1031万台)
3位 日本(1000万台※)
4位 ドイツ(578万台※)
5位 韓国(456万台)
6位 インド(414万台)
7位 ブラジル(334万台)
8位 メキシコ(302万台)
9位 カナダ(246万台)
10位 タイ(245万台)   
※日本とドイツの数字は筆者による見通し

中国が前年比4.6%増の1927万台で、首位を独走。内需好調だった米国は1031万台に戻し、日本も2008年以来初めて1000万台に回復する可能性がある。ドイツは、欧州市場の不振を受けて減産。ストライキなどが響いた結果、韓国も減産となった。インドは2年連続の6位。これまでに年産400万台を達成した国は米日独中韓の5か国に限られてきたが、6か国目が誕生した。ブラジルは減産だが、7位を維持する見通し。米国などへの輸出拠点でもあるメキシコは初めて300万台を突破した。

また、これまで10位以内を維持してきたフランスとスペインが11位以下に後退する一方で、カナダとタイが浮上。カナダにとっては5年ぶりの10位以内への返り咲きとなるが、タイについては初の10位入りで、大躍進となる。

タイ、悲願の200万台・世界10位などを一挙に達成

2011年秋の大洪水によって浸水被害やサプライチェーン(部品供給網)の停止といった事態が発生し、自動車各社は工場閉鎖・減産に追い込まれた。しかし、2012年3月までに自動車生産がほぼ正常化した後、『初めての新車購入者に対する物品税還付措置(First Carプログラム)』に後押しされるかたちで内需拡大が加速。2012年12月末で締め切られたFirst Carプログラムへの申請数は最終的に125万件を超えており、政策効果が自動車生産を数十万台分押し上げた。

2012年のタイの自動車生産台数は前年比68.3%増(あるいは99.6万台増)の245.4万台に拡大した。自動車生産台数を取りまとめているタイ工業連盟(FTI)自動車部会は、2012年1月時点で2012年通年の生産目標を180万台と設定していた(その後段階的に上方修正し2012年9月には230万台としていた)が、最終的にはFTIの年初目標を65万台上回る結果となった。

2年遅れとなったが、悲願だった年産目標200万台を達成。2017年までに年産300万台を目指すアジアのデトロイトにとって200万台は通過点となるが、記念碑的な色合いは濃い。また、250万台に迫る爆発的な増産により、フランスなどの欧州勢を押しのけて初めて10位入りすることが確実だ(過去最高は2010年の12位)。2015年頃までに世界10位以内の自動車生産国を目指すとしていたが、前倒しで達成することになる。

輸出立国に課せられた問題

自動車生産上位国の特徴は大きく分けて、人口大国(内需の大きい国)と輸出立国の2種類に分けられる。前者は中国、米国、インド、ブラジル、インドネシアなどであり、後者は韓国、メキシコ、タイなどである(日本とドイツはその中間だろうか)。

中国やインドといった内需主導型の国の場合、自動車産業の今後の成長シナリオを描きやすい一方で、タイや韓国などの輸出立国にはコスト面や品質面での競争力を保持し続けなければならないプレッシャーが付き纏う。

2012年の完成車輸出が100万台を超えたタイ。輸出比率は4割である。2013年にはさらに120万~130万台(内需向けを含む生産全体では260万台前後)に拡大すると予測される。しかし、最近になって通貨高局面を迎えており(1月15日には17か月ぶりとなる1ドル=29バーツ台に突入)、輸出国特有の悩みが膨らんでいる。世界10位の裏側では為替変動リスクへの対応力獲得という課題が浮上しており、タイの挑戦はこれからも続く。

マルチスズキ暴動の裏側に迫る…中田徹氏が語るインド市場、セミナーを開催

《中田徹》

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