おだやかな豊川(とよがわ)の流れを横切る手漕ぎ舟。愛知県豊川市牛川町の「牛川の渡し」は、江戸時代よりも前から続く渡し舟で、市道大村町・牛川町175号線を結ぶことから豊橋市が管理・運営を行なっている。
明治期の村営を経て1932(昭和7)年から豊橋市営として運航されているこの牛川渡船。船頭が豊川の東岸(牛川町側)に常駐し、西岸(大村町側)との間を往復している。
新幹線から、豊橋鉄道東田本線(市内電車)へ。移動速度をだんだん緩ませて、愛知県道69号沿いにある「牛川渡船」と記された看板の矢印に従って歩くと、うっそうとした森のなかに、小屋がひとつ。
「船呼び板」をコンコンと叩くと、「ハイヨー」と船頭が現れる。日焼けした顔やがっちりとした腕からは、67歳とは思えない。
船体には「ちぎり丸 最大搭載人員11名」と記されている。豊橋駅前の大豊商店街(水上ビル)でレンタルした自転車を載せ、西岸へ渡る。
「東京の矢切(の渡し)には船外機が付いているっしょ。竿一本でやってるのはもうここだけ。この川の下にね、ロープが走っとってね、この舟とロープがつながってて、流されることはないんですわ」
三河湾の干満や上流の天候などによって豊川の流れは変わる。船体は水中のロープとつながっているが、船体を安定させるためには、長年の経験による技術が要るという。船頭は竿を操り、船の向きを整えながら、西岸へと導く。
豊橋市役所が2013年7月の渡船業務月報を見せてくれた。運航回数は月間374回、乗船者が数730人(通勤0人・通学253人・一般148人・見学329人)、自転車等が388台。
運航回数は天候や曜日などによって差が出る。晴れた日の19回に対して、雨の日の5回という日もある。土日や祝日には「見学」という枠の数が増える。
自転車と中年記者だけを乗せた渡し舟が西岸に着こうとするころ、先ほど出た東岸を振り返ると、この舟を待つ女子高生の姿が見えた。