タイ初の女性首相、在任2年9カ月の功罪は

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失職したタイのインラク首相
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【タイ】人事をめぐる職権乱用で憲法裁判所により失職の判決を受けたインラク首相は7日、離任の記者会見を開き、「選挙で選ばれた首相として、在任中の2年9カ月と2日、誇りを持って職務に取り組んだ」、「今後も常に国民の皆さんとともにいる」などと述べた。

 インラク氏は1967年、タイ北部チェンマイ生まれで、9人兄弟の末っ子。事実婚の夫との間に子供が1人いる。タイ国立チェンマイ大学政治学部卒業後、米ケンタッキー州立大学で行政学修士号を取得。帰国後、兄のタクシン・チナワット元首相が創業したタイ携帯電話サービス最大手アドバンスド・インフォ・サービス(AIS)、チナワット財閥の不動産会社SCアセットなどの経営幹部を務めた。2011年の議会下院選でタクシン派プアタイ党から出馬、プアタイが過半数を抑え勝利したことから、政治経験がほとんどないまま、タイ初の女性首相となった。

 首相就任後すぐに、ホンダ、ソニーなど数百社の工場が水没する大洪水が発生し、有効な対策が打てずに涙ぐむ姿も見られた。2012年は比較的無難に切り抜けたが、2013年、タクシン元首相らへの恩赦を目指したことで、反タクシン派との政治抗争が本格化。バンコクでの大規模な反政府デモを受け、同年12月に議会下院を解散したが、今年2月の下院選は民主党など反タクシン派の妨害を受け、憲法裁が選挙無効の判決を下した。インラク政権は選挙管理内閣として権限が制限され、下院開会、新たな組閣への展望も開けず、漂流が続いていた。

 インラク政権の政策面をみると、目玉政策は1台目の自家用車に対する優遇税制、政府による事実上のコメ買い取り政策であるコメ担保融資制度など。自家用車への優遇税制は2011―2012年の期間中に購入予約が約125万台に達し、一時的に経済成長を押し上げた。しかし、需要の先食いで消費者の購買力が低下し、2013年、2014年は他の消費にも悪影響を及ぼした。コメ担保融資制度は市価を大きく上回る価格でコメを買い取ったため、コメ農家には好評だったが、膨大な在庫が積み上がり、最終的に数千億バーツの損失を出す見込みで、野党のみならず、国際通貨基金(IMF)、タイ国内のエコノミストからも強い批判を浴びた。

 このほか、高速鉄道整備、大規模な洪水を防ぐ総合治水事業なども打ち出したが、いずれも企画・調整力の不足、政局の混乱などにより、実現のめどは立っていない。

 インラク氏が曲がりなりにも2年9カ月間、政権を維持できたのは、女性であることが寄与したとみられる。反タクシン派との正面衝突を避け、柔軟に対応。特に、2006年のクーデターでタクシン政権を倒した軍部とは友好的な関係を築いた。軍は今回の政治混乱で、これまでのところ、反タクシン派が求める軍事クーデターを拒否し、中立的な立場を維持している。

《newsclip》

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