【ホンダ レジェンド 試乗】持てる技術すべてを結集したモデルなのだが…中村孝仁

試乗記 国産車
ホンダ レジェンド
ホンダ レジェンド 全 10 枚 拡大写真

ホンダのフラッグシップモデル、『レジェンド』がようやく発売された。ようやくというのは、11月に発表した当初は1月発売だった。それが1か月先延ばしされたので、ようやくというわけで、新技術てんこ盛りだけに万全を期した形になった。

新しいレジェンドは大きく、その動力機構部分と安全技術部分に新技術が多数盛り込まれている。中でもSH-AWDと名付けられた3モーターハイブリッドシステムは世界初。具体的にどんなものかというと、フロントには3.5リットルV6と7速DCT、それに1つのモーター。リアには左右後輪を独立制御する2つのモーターが装備されてモーターの数は合計3個となる。

このシステムの凄いところは、シチュエーションによって駆動パターンを変え、後輪のみの駆動から前輪のみの駆動、そして4輪駆動を状況に応じて使い分けているところ。それはオンデマンドの4WDとはわけが違う。そしてコーナリング時にはアウト側のタイヤが、より多く回転するような制御をおこなっている。これによってより曲がり易い、そしてスムーズなコーナリングを可能にするというわけだ。

単にハンドルを切って旋回するという概念から、それをタイヤに与えたパワーによってより曲がり易くしようというものだから、もしかして万一ステアリングが壊れて曲がれなくなった時でも、この積極的に曲がろうとする駆動力があれば、ある程度は曲がるかもしれない。つまりは飛行機のエンジンとラダーやエルロンの関係だと思ってもらえばよい。思い出したくはないだろうが、御巣鷹山に墜落した日航機は、このエルロンやラダーが効かなくなって、エンジンの推力だけをコントロールすることである程度旋回できたのである。

さて、とは言うものの、これらの極めて高度な先進技術を一般のエンドユーザーがどの程度理解できるか、ということなわけだが、今回一般路上で試してみても、確かにスムーズで気持ち良い運転ができることは理解できるものの、それがホントかよ?!と思えるほど、他のいわゆるライバルたちと差別化できたかといえば、残念ながらそうではなかった。

特にドライバー自らがモーターを個別にコントロールできるわけではないから、現実的にはモーターだけによる旋回は出来ない。恐らく素晴らしいオンザレール感覚の運動性能は、テストコースのような広くて安全度の高いところならば実感できるのかもしれないが、一般道でその一端に触れようと思ったら、結構リスキーなドライビングをしなくてはならないと思う。少なくとも、日常的なスピードの範囲でそれを実感することはできなかった。

次に安全面だ。これはカメラとレーダー、それにセンサーを駆使してクルマの周囲360度を監視し、必要に応じた措置を講じてくれるもので、似たようなシステムはすでに多くのというか、ほとんどのヨーロッパ製高級サルーンには搭載済みのもの。敢えて面白いと思ったものは、全車速対応のクルーズコントロールをセットし、車線逸脱を意図的にすると、ハンドルを切り戻してくれるその手法にあった。同じ技術は最近ではVW『ゴルフ』にも付いているのだが、レジェンドのそれはステアリングを小刻みに切って戻してくれるので、ドライバーがより感知し易いと感じた。

ヘッドライトは、アメリカで言うところのジュエルライクなもの。4個のLEDを左右に配したもので、一応対向車がない時にハイビーム状態で走行し、対向車や前車を検知すると自動的にロービームに戻すハイビームサポートと呼ばれる機構は付くものの、より積極的にハイビームのままその部分だけを減光あるいは消灯するような技術は盛り込まれていないから、その点ではヨーロッパ製には及んでいない。

トランスミッションは前述した通り7速DCT。センターコンソールにシフトレバーはなく、代わりにあるのはPRNDのプッシュボタン。もとい、リバースだけは引き上げタイプのボタンである。しかも形状はそれぞれ異なり、Dボタンは丸。他は基本四角である。まあどのようにこのデザインが誕生したかは知らないが(たぶんブラインドタッチを可能にするためだろう)、個人的には使いづらいことこの上なかった。

しかしながら、走りの上質感は極めて高く、とりわけ高速、一般道を問わず乗り心地のフラット感はヨーロッパ製高級サルーンのレベルにある。そして前にも言ったように運動性能は、この種のセダンとしては異例なほどスポーティで、ハンドリングを楽しむことが出来る。しかし、ここまで高度な技術を盛り込んでいない、従来技術とサスペンションのセッティングだけでこれと同等(少なくとも一般道では)のハンドリング性能を実現しているクルマもあって、先進性が明確に認識できない部分が多々あった。ただ、お値段は680万円である。ライバルとして仮想したヨーロッパ製はそれよりもはるかに高いから、費用対効果は高い。

■5つ星評価
パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★★
フットワーク ★★★★★
おすすめ度 ★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来37年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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