【スズキ SX4 S-クロス 試乗】乗用車感覚で乗れる本格派4WD…家村浩明

試乗記 国産車
スズキ SX4 S-CROSS
スズキ SX4 S-CROSS 全 40 枚 拡大写真

2月にデビューしたスズキの『SX4 S-クロス』は、2007年登場の初代『SX4』の2世代目にあたる。このモデルから「S-クロス」という名が加わったのは、クロスオーバー色を強めたからで…ということは、初代はメーカーにとっては“普通の乗用車”だったということか。

ともかく、この2代目についてはメーカーは「乗用車とSUVを融合させた」として「S-クロス」というサブネームを追加し、こういう長い名前のモデルとなった。

SX4というのはスズキの「世界戦略車」であり、ハンガリーのマジャール・スズキで生産されて、欧州、中南米、豪州、アフリカなどで販売される。わが国は、そうした輸出先の1つということ。そして今回のモデルから、中国市場をターゲットとして、重慶長安鈴木汽車でも生産されているという。

そういう狙いのクルマなので、マツダの『CX-3』ほどには、日本の都市でのタワーパーキング(高さ1550ミリ)を意識しなくてもいい。車体はこの2代目になってわずかに大きくなり、全高は初代から10mmプラスの1575mm。同時にヒップポイント(前席座面の地上からの高さ)も4mm上がって619mmに設定されている。

パッケージングと造型は、メーカーが言うように「乗用車+SUV」であり、セダン・イメージをベースに、フェンダー周りにオフっぽい雰囲気を盛り込んだという感じ。CX-3のようなスタイリッシュさやインパクトこそないが、逆に、見飽きないモードでまとまっているのがSX4であるともいえそうだ。

そして、今回の「S-クロス」が持つSUV的な機能では、4WD仕様に新装された「ALL GRIP」が注目である。

これは、4つのモードで"走り"を選べるという電子制御システムで、たとえば「オート」にしておけば、クルマは基本的に2WDで走行。そして、タイヤがスリップして、四輪駆動にした方がいいとシステムが判断した時には自動で4WDとなる。

また「スポーツ」のモードでは、エンジンの回転数を高く保っておき、同時にトルクの前後配分も行なって、ワインディング路を攻めるのに適した態勢とする。3つ目の「スノー」では、アクセルとステアリング操作に応じて、雪道走行に適した前後トルクの配分を行なうとともに、トラクション・コントロールの介入も多くして、滑りやすい路面での走行性を上げる。

そして、もうひとつ注目なのは、スタックした時に緊急脱出に使える「ロック」モードがあること。この時は、空転しているタイヤにはブレーキをかけ、空転していないタイヤに積極的にトルクを配分するセッティングになるとともに、直結4WDに近い状態にして、最大限の駆動力を確保する。

世界を相手にするモデルである以上、さまざまな路面や気候に対応することが求められる。作り手として、そんな要求には応えておきたい。こんな意欲も感じられる設定で、とくに最後の「ロック」モードはエマージェンシー用としていろいろな場合に使えそうだ。

ただ、そんなタフなシャシー性能を抱えたSX4だが、ごく普通に走っている時には、まったくの乗用車感覚である。とりあえず静粛であり、そして路面を舐めるような走りが印象的で、乗り心地も滑らかだ。スムーズにして、かつ、しっかり感がある乗り味で、口数は少ないが仕事はしっかりやる相棒に出会ったようでもあった。そういう意味では、“羊の皮を…”風の、好ましい意味での二重人格的なクルマで、このモデルの平凡でおとなしい外観がその印象をさらに際立たせる。

…まあ、この外観については、インパクトが少なすぎるという説はありそうだが、ただ、こういうカタチというのは、日常使用車として見飽きないという気もする。地上からのシート高619mmというのも、クルマに乗り込みやすく人に優しいポジションであり、クルマと日常性とを巧みにリンクさせている。

そして、そういう何気ないモデルでありながら、「ロック・モード」も含む4モードの走りを作れる「ALL GRIP」を装備する。…とはいえ、この4モードを持つのは4WD仕様だけ。ただ、2WD仕様との価格差は約20万円であり、エマージェンシー対応も考えると、このS-クロスの場合は、FF車よりも4WD仕様を選ぶというのが正解であるかもしれない。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★ 
オススメ度:★★★★

家村浩明|ライター&自動車ジャーナリスト
1947年、長崎生まれ。クルマは“時代を映す鏡”として興味深いというのが持論で、歴史や新型車、モータースポーツとその関心は広い。市販車では、近年の「パッケージング」の変化に大いに注目。日本メーカーが日常使用のための自動車について、そのカタチ、人とクルマの関わりや“接触面”を新しくして、世界に提案していると捉えている。著書に『最速GT-R物語』『プリウスという夢』『ル・マンへ……』など。

《家村浩明》

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