“カーオーディオの常識を覆す”というクラリオンの『Full Digital Sound』システムって、何!? 開発者に訊く!!

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クラリオン・『Full Digital Sound』システム
クラリオン・『Full Digital Sound』システム 全 12 枚 拡大写真

2016年2月12日(金)から3日間にわたって開催される『大阪オートメッセ2016』のクラリオンブースに、2台のデモカーが出展される。それらには、新たなカーオーディオシステム『Full Digital Sound』が搭載されているという。これは一体何なのか…。

そこのところを探るべく、開催直前の2月8日、クラリオン本社を訪ね、開発責任者である上原正吉さん(技術開発本部 コア技術開発部 音響システムG GLマネージャー)へのインタービュー取材を実行した。案内され辿り着いたのは、同社内にある音馬解析室。今まさに、件のデモカーの最終調整が行われているところだった。

ところで。

円錐型の振動板を振動させて音を発するスピーカーが、初めて製品化されたのは1920年代のことだ。以来、その基本的な仕組みは、21世紀に入って16年目を迎えた今でも変わっていない。

この機会に、電気信号が音に換えられる仕組みを、ざっくりと解説しておこう。アナログレコードプレーヤーを想像してほしい。ターンテーブルとともに回転するレコードの溝を、レコード針がトレースし、溝の凹凸を読み取り振動する。その振動が電気信号に変換される。

変換された信号はパワーアンプで増幅され、スピーカーに伝えられる。今度はそこで電気信号が振動へと復元され、スピーカーの振動板を動かし、空気を震わせて音を発する。もちろん、振動から変換された信号は、アナログ信号だ。

時代は進み、1980年代にはいよいよ初のCDプレーヤーが発売され、記録メディアがレコードからCDへと移り変わった。それでもスピーカーだけは、アナログ機器のままであり続けていた。つまり、音源のデジタル信号は、システムのどこかで必ずアナログ信号に変換されているのである。アナログ信号でないとスピーカーを鳴らすことができないからだ。

しかしクラリオンの『Full Digital Sound』システムでは、音楽信号はデジタル信号のままスピーカーに入力されるというのだ…。どのようなメカニズムでそれが行われているのだろうか…。

■音を発生できるタイプのデジタル信号に、変換する仕組みを確立

上原「デジタル信号とは、アナログ信号を“0”と“1”に符号化したものですが、それをそのままスピーカーに入力しても、ノイズしか発生しません。ですので、スピーカーを鳴らせるようなタイプに、デジタル信号を変換する必要があります。

それをするにあたって、ポイントが3つあります。1つ目は、“0”と“1”だけだったところに、“-1”という符号も加えること、2つ目は信号の密度を極限的なレベルまで高めること、そして3つ目は、デジタル信号が音になるときに発生するノイズを打ち消すこと、以上の3点です。

これらを行うための“LSI”(大規模集積回路)が、『Full Digital Sound』システムには必要となります。同社のシステムにおいては、その回路をスピーカーの背面にセットしています。

スピーカーの基本構造は、アナログスピーカーと同一です。永久磁石とボイスコイル(電磁石)があり、ボイスコイルに電気が流れ、フレミングの左手の法則に従ってボイスコイルが動き、その動きを振動板に伝えて音にします。ただ、『Full Digital Sound』システムのスピーカーは、そのボイスコイルを6つ(トゥイーターでは2つ)備えています。そうすることで、ここでもさらに信号の密度を上げ、そして効率的に音に換えられるような仕組みとしています」

それらの技術は、クラリオン独自のものなのだろうか。

上原「デジタル信号のままでスピーカーを動かす技術のコアとなる部分は、法政大学発のベンチャー企業である Trigence Semiconductor が開発したものです。2008年ころに特許が取られていると記憶しています。しかし、それをそのままカーオーディオに当てはめることはできませんでした。取り付け上の制約、温度変化の激しさ等、数々のハードルが立ちはだかったんです。それらを1つ1つ越えていくために、独自の技術開発を重ねました。結果、多くの特許も取得しました」

ちなみにクラリオンは、2012年の12月に、『Full Digital Sound』システムの第1号を発売している。それと今回のものとは、何が違うのだろうか。

上原「もっとも異なっている部分は、“LSI”です。このプロジェクトがスタートした当初は、それも自社開発するつもりだったのですが、結局納得いくものを完成させるに至らず、第一弾モデルでは汎用の“LSI”を使っています。しかし、それについても100%の満足がいくものを見つけ出すことができていませんでした。なので、改めて自社開発することを決断しました。

ところが、開発は想像以上に困難を極めました。結局、完成まで3年も要してしまいました。社内には、このプロジェクトが破綻するものと思っていた人もいたかもしれませんね。そう思われても仕方がないほど、時間がかかってしまったのです。

しかし、我々メンバーは、誰一人、不可能だとは思っていなかった。正直に申し上げれば、プロジェクトの存続は、首の皮1枚でつながっているような状態でしたが、完成すれば“100年に1度”くらいのインパクトのあるものとなると思っていましたし、このシステムがもたらすメリットを思えば、どうしてもこれを完成させたかった。このような思いが、皆のモチベーションだったと思います」

■『Full Digital Sound』システムの利点は、“高音質”と“省電力”。

さて、いよいよ核心に入りたい。上原さんの考える、『Full Digital Sound』システムの“利点”とは、何なのだろうか。

上原「2つあります。1つは“高音質”であること。もう1つは“省電力”であることです。

どのくらい“省電力”かと言うと…。例をあげてみますね。2012年に『Full Digital Sound』の技術を使った、ブルートゥース・スピーカー「ZP1」を発売しています。充電式のリチウム電池で駆動するのですが、アナログスピーカーであれば5時間ほどでバッテリー切れするところが、その製品ではフルボリュームで約40時間鳴らすことができるんですよ(笑)」

実に8倍…。『Full Digital Sound』の“省電力”性は相当に高そうだ。

さて、“高音質”を得られるという理由は何なのだろうか。

上原「“高音質”を得られる理由は、主に以下の2点です。アナログに変換する必要がないのでロスがないこと、デジタル伝送が外来ノイズに強いこと。結果、“高音質”についてもかなりの水準を達成できていると自負しています」

実際に聴かせていただいたが、実力は本物だった。まずは、雑味がないことに驚かされる。そして、“省電力”であるのに音のパワー感は十二分。低域の量感や重みも申し分ない。高域も至って繊細でスムーズだ。

ハイエンドカーオーディオでしか聴けない、ハイレベルなサウンドが楽しめた。機会があれば、ぜひともお聴きいただきたいと思う。聴けばわかる。

ところでクラリオンといえば、かつては名機『DRZ9255』というカーオーディオ・メインユニットを擁し、カーオーディオ・フリークから絶大な支持を集めていた。しかしここ10年ほどは、積極的にカーオーディオ製品をリリースしていなかったように思う。今後は、どうなのだろうか…。

上原「覚悟を持って『Full Digital Sound』システムを開発しました。手応えあるものが完成できた今、今後はまた、ハイエンドカーオーディオに注力していきたいと考えています。

まずは1人でも多くの方にこの音を聴いていただきたいですね。そして、気に入っていただけたらうれしいのですが。

『大阪オートメッセ2016』では、6号館1階 Bゾーンでブースを構えます。立ち寄っていただいて、デモカーのサウンドをご体験いただけたら幸いです。皆さまのお越しを、心よりお待ちしております」

今回の記事は以上だ。興味深いお話はまだまだたくさんあったのだが、それらについては、また別の機会を設けたい。

クラリオンの『Full Digital Sound』システムが、大きな可能性を秘めていることは確実である。今後の展開にも大注目だ。新たな歴史が今、動き始めている。

《太田祥三》

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