「EXEα」は小田急多摩線の「プラスα」区間を走るか?

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小田急多摩線の唐木田車庫に留置されている「EXEα」。手前の分厚い砂利盛りを撤去して多摩線を延伸する構想がある。
小田急多摩線の唐木田車庫に留置されている「EXEα」。手前の分厚い砂利盛りを撤去して多摩線を延伸する構想がある。 全 7 枚 拡大写真

小田急電鉄はこのほど、特急ロマンスカー30000形電車「EXE」のリニューアル車を完成させた。車両愛称は「プラスアルファの要素が加わる」として「EXEα」に。12月15日、唐木田車庫(東京都多摩市)の5番線に「EXEα」を留置し、車内外を報道陣に公開した。

この車庫は、小田急多摩線の終点・唐木田駅の少し先に設置された車両基地。唐木田駅の1~3番線の線路を伸ばす形で留置線が設けられており、車両基地内の線路番号は東側の4番線、そして今回「EXEα」を留置した西側の5番線へと続く形になっている。唐木田駅の線路番号の続番になっているだけだ。

ところが、4・5番線は唐木田駅1・2番線をそのまま伸ばしたかのような構造になっているのに対し、車庫内のそれ以外の線路は、4・5番線から少し西側にずれるようにして設置。4・5番線だけが、どことなく「特別扱い」になっている感がある。

実は法手続き上も、4・5番線は車庫内の他の線路とは扱いが異なる。

車庫内の線路など営業運転で使用しない線路は、原則的には鉄道車両の運転免許(動力車操縦者免許)を受けていない職員でも運転できる。たとえば、車両の入替を行う場合などは、運転士の資格を持っていない職員が車両を移動させることがある。

しかし、4・5番線は法手続き上も営業用の線路と同じ扱いになっており、動力車操縦者免許を受けた運転士でなければ列車を運転できない。「4・5番線を使って車両の入替えを行う場合、(免許を持った)運転要員を確保する必要があるから苦労している」(関係者)という。

■延伸構想を「意識」した姿

なぜ、4・5番線は「特別扱い」なのか。そこには、将来の延伸を意識している姿が垣間見える。

小田急多摩線は多磨ニュータウンへのアクセス路線として計画され、1975年4月までに新百合ヶ丘~小田急多摩センター間が開業。1990年3月には小田急多摩センター~唐木田間も開業し、同時に唐木田車庫の使用が始まった。

これに先立つ1985年7月には、運輸大臣の諮問機関・運輸政策審議会(運政審)が東京圏の鉄道整備基本計画(運政審7号)を答申。多摩線を横浜線方面に延伸することが明記された。続いて2000年1月に答申された基本計画(運政審18号)でも、唐木田駅から横浜線・相模線方面への延伸を「今後整備について検討すべき路線」とした。

現在の成田スカイアクセスや上野東京ラインなど、運政審18号で「目標年次(2015年)までに整備を推進すべき路線」とされた路線に比べると優先順位は低かったが、国が延伸の「お墨付き」を与えた格好となった。運政審7号と18号の間に完成した唐木田車庫も、将来の延伸の可能性を考慮し、4・5番線を営業用の線路と同等の扱いにしたのだろう。

延伸が想定されているエリアの東京都町田市と神奈川県相模原市は、延伸計画の研究報告書を2014年3月にまとめている。報告書の想定計画によると、「唐木田車庫内の東側2線(4・5番線)を活用して延伸する」とし、相模総合補給廠(しょう)の返還予定地を通って横浜線の相模原駅と交差。さらに神奈川県道503号の下を通って相模線の上溝駅につなげる。

駅はJRと連絡する相模原駅と上溝駅のほか、唐木田~相模原間の谷戸山・鶴見川源流両地区の南側に「中間駅」を設置。唐木田車庫から中間駅までは高架橋とトンネルが連続するが、中間駅の少し先から上溝駅の少し手前までは地下を通る。中間駅と相模原駅は2面2線の相対式ホーム、上溝駅は1面2線の島式ホームを設置する。所要時間は新宿~相模原間が現在より20分短い49分、上溝~新宿間が27分短い52分とされている。

この計画が実現すれば、あるいは新宿~上溝間の特急ロマンスカーも運転されるようになるかもしれない。運行区間から考えると、箱根や江の島ほどの観光需要は期待できそうにないから、通勤需要に対応したロマンスカーが運転されるだろうか。

「EXE」は本来、通勤需要向けのロマンスカーとして開発されているから、新宿~上溝間のロマンスカーは「EXEα」を中心に運用されるかもしれない。そんなことを考えながら5番線に置かれた「EXEα」を眺めていると、何となく「上溝発の特急ロマンスカー」に見えてくる。

■交政審は「沿線開発が先」と答申

もっとも、「EXEα」が引退するまでに上溝延伸が実現するかどうかは分からない。

町田・相模原の両市長は2014年5月、中央新幹線の開業が予定されている2027年までに延伸を実現する旨の覚書を交わしている。「EXE」の最初の編成がデビューしたのは1996年。2027年には製造から30年以上が経過していることになり、通常の鉄道車両なら引退してもおかしくない時期だ。

そもそも、2027年に開業できるかどうかも怪しいところ。今年4月、運政審18号に代わる基本計画としてまとめられた交通政策審議会(交政審)の新答申は、多摩線の延伸について「収支採算性に課題があるため、関係地方公共団体等において、採算性の確保に必要な需要の創出に繋がる沿線開発の取組等を着実に進めた上で、費用負担のあり方を含む事業計画について十分な検討が行われることを期待」と記している。

要するに、「まずは沿線の開発が先。鉄道整備はその後の話だ」と言っているようなもの。国の審議会でそのような意見が付いた以上、整備の優先度は低いといえる。延伸の総事業費も約1080億円と想定されており、国の補助制度である都市鉄道等利便増進事業を適用するにしても、そう簡単に出せる金額ではない。交政審の新答申の目標年次は「2030年頃の念頭」とされているが、それまでに実現するかどうか微妙なところだ。

「プラスα」の延伸区間を「EXEα」が走る姿は、やはり幻に終わるのだろうか。

《草町義和》

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