トヨタ『ルーミー』やスバル『ジャスティ』としてOEM供給するダイハツ『トール』。その開発には、トヨタという巨人に“存在感”を示す必要も迫られた。そのカギはどこにあったか? ダイハツ工業 開発本部製品企画部 嶋村博次CE(チーフエンジニア)に聞いた。
◆1リットルでプレゼンスを
ダイハツが1リットルエンジンを積むクルマで世に問う理由は、軽自動車メーカーとしての確固たる実績と、トヨタの存在が大きい。
「僕らのクルマは軽自動車が基準にあるので、このクルマは1リットルにこだわった。やっぱり、ダイハツは1リットルで線を引かなければならないと。トヨタグループのなかでダイハツのプレゼンスを示せるのは、3気筒の1リットルエンジン。『これがまさに“軽直上”ですよね』と。税域も変わってきているし、これまで日産もホンダも投入していたリッターカークラスで、ダイハツのこだわりや存在意義を示していかなければならない。このクルマのプロトタイプに乗ったトヨタの役員も、『いいね』と言ってくれた。『1リットルでじゅうぶん走る』ということが、トヨタに伝わった」
「シャレード(G11)からリッタカーに関わってきたが、(ダイハツの)リッターカーは販売は伸びないし、まず営業マンが売り方を知らない。やはりそこには、トヨタがいないと小型車はつくれないと感じた。パッソ・ブーンの次を生むためには、いずれ独り立ちもしなければならないと。もちろん、ユーザーのニーズに目を向けながら。でも、その間に入ってもらうトヨタも“ダイハツの客”なので、まずはダイハツのクルマに魅力を感じてもらえるよう演出していかなければならない」
◆トヨタにない200万円以下の小型車を
ダイハツのリッターカーづくりの粋を集めて登場したトール。そこには、ユーザーの再獲得や、新たなプライスゾーンの設定といった狙いがある。
「月販目標はトヨタが7500台、ダイハツは1000台、スバルは500台。だが上層部は『もっと行けるんじゃないか』と言ってくれている。このクルマは池田工場で1台72秒というタクトでつくっている。滋賀工場の50秒に1台というレベルには追いつていないが、72秒で1台が出て行くという流れをなんとかつくってもらった」
「トヨタが抱えてる客で、パッソやシエンタで獲得できなかった顧客や、軽自動車を保有している顧客などに向けて、このクルマを推してもらっている。トヨタは、軽自動車をのぞくと、これまで200万円以下のクルマはあまりなかった。そうなるとダイハツのクルマを指名買いしてくれるのではないか。だから、このクルマは、なかったセグメントを埋めるクルマではない」
嶋村CEをはじめ、ダイハツ開発陣はみな口を揃えて「このクルマはダイハツの新ジャンルを具現化したモデル。軽自動車の拡大版ではない」と伝えていた。