N-BOXを追い詰めろ…ワクワク楽しさ、そして大きさ感を演出したスズキ スペーシア 新型

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スズキ・スペーシア
スズキ・スペーシア 全 24 枚 拡大写真

東京モーターショー2017でコンセプトモデルとして発表されたスズキ『スペーシアコンセプト』の量販モデル『スペーシア』が発売された。そのデザインはクルマを大きく、かつ、室内を広く見せることを重点に開発されたという。

◇ワクワクと楽しさ

スズキ代表取締役社長の鈴木俊宏氏は、「軽ハイトワゴンにワクワクと安全性能を盛り込んだモデルがスペーシアコンセプトで、ショーの会場ではとても好評だった」と振り返る。そして、「新型スペーシアは両側スライドドアに広い室内空間を持ち合わせた軽ハイトワゴンの便利さに加え、もっと楽しいクルマにしたい、ワクワクするクルマにしたいという思いで開発した」とコメント。

その開発コンセプトも、「ワクワク、楽しさを詰め込んだ、家族や仲間と楽しく使える軽ハイトワゴンだ」とは、スズキ四輪商品・原価企画本部四輪商品第一部スペーシア担当チーフエンジニアの鈴木猛介氏の弁。「我々はどうすればお客様により豊かな生活を提供できるのか、スペーシアの利便性に加え、新型スペーシアは何が提供できるのかを考え、たどり着いたのはクルマの楽しさを磨き上げることだった」とその背景を語る。

商品特徴は、軽自動車初の後退時ブレーキサポートなど充実した安全装備。遊び心とワクワク感のある個性的なデザイン。広い室内空間とスライドドアで利便性に優れたパッケージング。乗る人全員が快適に過ごせる様々な装備。そしてモーターのみで走行できるマイルドハイブリッドの全車搭載である。

◇スーツケースをモチーフにしたデザイン

そのデザインは、先代モデルに対してフロントガラスを立てフードの高さを上げることで大きさを表現するとともに、ベルトラインを高くしてボディの厚みを強調。実際の寸法だけではなく一目見ただけで室内の広さや大きさを感じられるデザインが採用された。鈴木猛介氏は、「新型スペーシアに乗って、家族や仲間とたくさんの思い出を作って欲しい、そんな願いを込めて、一緒にいろんなところへ出かける愛着のあるスーツケースをモチーフにしている。ワクワク楽しさを感じるデザインを表現したスペーシア。圧倒的な迫力と存在感を表現したスペーシアカスタム。特徴ある二つのデザインを用意した」と説明。

また、もうひとつの商品特徴、広い室内空間とスライドドアで利便性に優れたパッケージングでは、低床を維持しつつ、全高を上げ室内高を高くすることで居住性を向上。また、お子様からお年寄りまで安心して乗り降りできるようBピラーに配置した乗降グリップの位置を低く抑え、フロアの段差を少なくした低いリアステップを採用している。

◇大きく見えるエクステリア

もう少しデザインについての詳細をスズキ四輪商品・原価企画本部四輪デザイン部エクステリア課課長代理の塚原聖氏に語ってもらおう。まずデザインコンセプトは、「大きく見える、これがまず命題としてあった。ただ単なる箱ではなくオンタイムの時でもオフタイムのように見えるといった、遊び心、ワクワク感を出したいというコンセプトとしてデザインした」という。

では、なぜ大きく見せたかったのか、そこが先代の弱点でもあったのか。塚原氏はその点は認めたうえで、「あくまでも大きさ“感”であって数字的にはそこそこあった。お客様がパッと見た瞬間の大きさ感を演出するのが課題」とし、「実際に今回はウィンドウなどを立てることで、ルーフ長を長くするなどで大きさ感を強調している」と話す。

一方で、先代はフロントウィンドウを少し寝かせることで躍動感を演出していた。塚原氏は、「販売台数が端的に物語っていると思うが、このタイプを買うお客様にとって一番欲しいのは室内空間の広さであり、空間の余裕を求めていることが改めて分かった。そういったことを全面的に出していこうという考えなのだ」と述べる。

◇効率だけではだめ

さて、大きさ感以外でデザイン上、意識したことはあったのか。「それは楽しさだ。先代は空力などを求めてウィンドウを寝かせたりしていたが、単に効率だけを求めてしまってはだめ。そこに楽しさやワクワク感を入れないと、効率だけであれば『エブリィ』で十分だ」と笑う。そして先代スペーシアは、「女性に人気だった。しかしこの室内空間は、実はママだけではなく男性も使えるのではないかと考え、男女関係なく楽しく乗ってもらいたいと最初から意識した」という。

◇苦労したスーツケースデザイン

新型スペーシアのデザインモチーフはスーツケースだ。大きさ感や楽しさを踏まえ、なぜスーツケースなのか。塚原氏は、「もちろん色々なパターンを描いており、その中であるデザイナーがクルマにステッカーを貼ったりした、まさにスーツケースのような絵をポンと出してきた。それを見た瞬間にこれいいねという話でそこから一気に盛り上がった」と振り返る。「もちろんスーツケース以外の案も1/1の立体にはしたが、そこで比べた時に上層部からも、どちらが楽しいといったらスーツケースの方が楽しいと分かってもらえたので、そこから迷いなくスーツケースで行こうとなった」と語る。

そのスーツケースのイメージを表現するために、いくつかの工夫も凝らされている。そのひとつはサイドのビードだ。「平らな面に対して凹のふくよかな面や造形などはとても苦労した」と塚原氏。しかしこのビードがあることによって、「上下で一枚の面ではなく、上の面と下の面とで微妙にアールをつけることで、単なるペラペラの感じでは出ない、スーツケースらしい“まるしかく”のイメージを苦労して出した」と説明。

また、ドア周りもこだわった。これまではピラーをブラックアウトしてフローティングルーフを採用していたが、新型では大きさ感、楽しさを演出するために、「ブラック部分を外し、その部分をより外側に出すことでより広さ感を出すとともに、スーツケースの取っ手のようなイメージを含めて楽しさも前面に出している」という。

しかし、フローティングルーフをやめたり、塗装方法(ツートーンルーフ)はこれまであまりなかったこともあり上層部から抵抗や心配もあった。「しかしそこはこのクルマの特徴でもあるので頑張って実現させた。他車との違いも出るし、最終的にはこれが特徴になって良かったといわれたが、とにかくここがブラックアウトされた瞬間にこのクルマの良さがなくなるのでそこは戦った」と塚原氏。

そして、「今回は女性だけではなく、少し道具感を入れることで、自分自身を含めて男性も乗りたいなと思わせるようなクルマに仕上げた」とコメントし、「先代が台数的に負けているところもあったので、そのぶん思いっきりやれた」とした。

“まるしかく”というこだわりは随所にも及ぶ。「ランプひとつとっても全体的にまるしかくのモチーフを入れた。更に、スーツケースのビードもバンパーの下だけではなくルーフにも入れている。そういったところは徹底的にこだわった」。また、アルミホイールやホイールキャップも、「スーツケースのキャスターのイメージを出し、グリルもスーツケースのジッパーやバックルを意識している。今回は徹底的にそういったところにこだわろうと思ってデザインしている」と語った。

◇カスタムZを超える新型スペーシアカスタム

スペーシアには標準車とともに、アグレッシブなデザインの「スペーシアカスタム」もある。そのデザインについて塚原氏は、「先代に『カスタムZ』があったので、その上を行こうという気持ちもあった。そこで、今回はバンパーと比べてフードはかなり丸みを出して大きさ感を演出。単なる四角ではなく広がり、ワイド感を出すようにした」と説明。

更にグリルとヘッドランプの一体感やグリルにもこだわった。「グリルにはメッキを二種類使い、真ん中の部分はメッキの上からクリアブラックを塗装し、更に上質感を出している」と述べる。そして、「フードの高さも変わったので顔の厚み、存在感はカスタム Z に比べてもあると思う」とした。

◇どうしたらN-BOXを超えられるか

現在軽ハイトワゴン市場はホンダ『N-BOX』が独走状態だ。スズキはこの状況をどのように分析し、新型スペーシアに盛り込んだのか。鈴木社長は、「N-BOXは非常に強く、我々はチャレンジャーという立場で、大きく見せることなどの工夫や、安全装備などを投入し、お客様に使ってもらえる本当のハイト系軽ワゴンとしてチャレンジしていきたい。一歩でもN-BOXの足元に及ぶようになればいい」とコメント。

また、現状については、「軽ハイトワゴン市場には『パレット』や『スペーシア』を投入してきたが、デザインでは大きさのアピールが弱かった点もあった」と大きさ感が商品での弱点だったと認め、また、「デザインだけではなく営業も含めた総合力というところでの弱さがあり、なかなか他社に追いつけなかった」とも話す。

しかしながら、「販売店等のスペーシアの反応を見ていると、“乗せると絶対に勝てる”性能は持っていた。そこで、今回のフルモデルチェンジを機会に、大きさでも見た目でも他社と同等になった。このようなモデルを使いながら営業力の強化、サービス力の強化も合わせてやっていけば、少し近づけるのではないかと思っている」と述べた。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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