Hey Mercedes! で何ができるのか? MBUXの“中の人”に聞いた[インタビュー]

メルセデスベンツ ゲオルグ・ワルタルド氏
メルセデスベンツ ゲオルグ・ワルタルド氏全 5 枚
メルセデスベンツのインフォテインメントシステム『MBUX』が注目を集めている。日本未導入の新世代コックピットを取材するため、メルセデスの本拠地ドイツ・シュツットガルトに飛んだ。インタビューに応じてくれたのは、メルセデスのコネクテッド・プラットフォーム「Mercedes me」を担当するゲオルグ・ワルタルド氏。MBUXが提供する新しいユーザー体験とは何か、聞いた。

車載カメラでビッグデータ収集


ドイツの市街地では路上駐車が認められているところが多く、そういった場所にはパーキングメーターが設置され、道路脇に車がびっしり並んでいる。ゆえにドライバーは空きスペースがないか横目で探しながら運転することになるが、MBUXではこの空きスペースの情報を、車載カメラで撮影した映像から分析し、配信する仕組みがある。

「車載カメラで道路わきのパーキングスロットを撮影し、クラウドで分析しています。ナビゲーションの地図を見ると、水色の線が引いてある道路があります。そこはパーキングスロットの空きが多く、駐車できる可能性が高いところです。収集したデータは、1分後には車載器に反映されるようになっています。」

AlexaやOK Googleよりも早い「Hey Mercedes」


MBUXとは、Mercedes Benz User eXperience の略語であり、メルセデスベンツの乗車体験を示している。新しい乗車体験を演出するMBUXの機能は数多くあるが、なかでも注目ポイントのひとつがボイスコントロールだ。

音声認識はここ2-3年のうちにクラウドで動作するようになり、ひと昔前のカーナビの、ローカルで動作する音声認識から大きく性能が向上した。例えばスマートフォンに「OK Google!」と話しかけてみると、クラウド音声認識の性能の高さがよくわかる。クラウドのリッチなリソースを利用して解析するので、高精度で反応がよく、ふだんの話し言葉でも意味を理解してくれるのだ。運転で手が離せないときに、このような高性能なボイスコントロールが有効なことは言うまでもないだろう。

「ナイスなイタリアンレストランを探して!」とゲオルグさんが言うと、MBUXは、Yelp!(海外の食べログ的なサービス)のレーティングに基づいてイタリアンレストランをリストアップし、「どこに行きますか?」と反応した。「3番目のお店に案内して」と応答すると、ナビが起動し、ガイダンスが始まった。

「自然言語を理解できるので、話し言葉で話しかけるとそれに応じた反応が返ってきます。また、クラウドとローカルの処理を使い分けて素早いレスポンスを実現しています」とゲオルグさんは言うと、MBUXに「It's Cold(寒いね)」と話しかけた。

するとMBUXは「エアコンを25度に設定しました」と反応した。「これはローカルで動作した例です。クラウドで動作するのは、レストランを探すときや天気の情報を見るときなどです」。

MBUXを実際に使ってみると、ローカルなのかクラウドなのか識別できないほどレスポンスが良い。体感的には、アマゾンAlexaやGoogleアシスタントよりも反応が早い。ドイツのLTE回線はお世辞にも速いとは言えないが、それでも安定してレスポンスが良かった。

ボイスコントロールにはルールがある


ボイスコントロールで何ができるのか。私はここが気になっていた。個人的な話で恐縮だが、私はマイカーを妻と共有しているのだが、妻は「リアウインドウの曇り取りはどうやってするの?」と何度となく聞いてくる。リアワイパーの動かし方や、外気導入をする意味なども、複雑すぎて覚えきれないというのが彼女の言い分だ。

これは笑い事ではない。クルマに詳しい人や運転歴の長い人なら、そういったクルマの操作の“お作法”を理解していて、どのクルマに乗っても操作方法は想像がつくだろうが、そういう人ばかりではないし、加えて、近年の運転支援機能の追加もある。ACC(アダプティブクルーズコントロール)の複雑な操作を覚えるより、「80キロに設定して」と、ひとこと言うだけで済むほうがユーザーにやさしいはずだ。

しかしながら、ACCはボイスコントロールでは操作できないとゲオルグさんは言う。「ボイスコントロールにはルールがあります。運転に影響を与える操作はできないというルールです」。

「サンフールを開閉したり、音楽をプレイしたり、車内の照明を調整することはできますが、助手席から運転に影響のある操作をすることはできません。」

MBUXとMercedes me でクルマが成長する


最後に、MBUXによって何を実現しようとしたのか、ゲオルグさんに聞いた。

「新しいコンセプトのコックピットはもちろんですが、私としてはMBUXを通じてクルマが成長するということを言っておきたい。Mercedes me のバックエンドと連携して、車外から新しいフィーチャーを追加していきます。来年のいまごろには新しい機能が追加されているでしょう」

「MBUXとMercedes me のコネクテッド・プラットフォームはとてもフレキシブルで、大きな可能性があります。機能やアプリケーションを追加し、パフォーマンスも向上させていきます」

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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