【三菱 eKワゴン・eKクロス 新型】とにかく三菱らしさを出すために…エクステリアデザイナー[インタビュー]

eKクロス
eKクロス全 24 枚

三菱『eK X(eKクロス)』と『eKワゴン』は、三菱らしさを表現するデザインをまとっている。そのこだわりについてデザイナーに話を聞いた。

eKカスタムをどうしよう

----:今回のフルモデルチェンジでは、特にeKクロスが投入されたことでこれまでのイメージが大きく変わりました。そこで最初に今回のフルモデルチェンジをするにあたり、何を考えたのかを教えてください。

三菱デザイン本部プロダクトデザイン部デザイン・プログラム・マネージャーの大石聖二氏(以下敬称略):現行車の『eKカスタム』をそのまま続けるべきか、三菱らしいに何かを打ち出していかなければいけないのかを踏まえ、クルマをどういう方向にデザインをしていくかがスタートでした。実はそのときに、誰もeKカスタムをそのまま作り続けようという意見はありませんでした。

----:その理由は何でしょう。

大石:正直に申して、eKカスタムがあまり売れていないのです。従ってそのまま売り続けるのは得策ではないというのが結論です。そこで、三菱の強みであるSUVでありクロスオーバーを取り入れた軽自動車ができないものかを考え始め、その結果名前も変えてeKクロスとしたのです。

eKカスタム従来型eKカスタム従来型----:ということは、まずはeKカスタムをどうするかというところがスタートだったのですね。

大石:そうです。

そこから、三菱らしい軽自動車とは何だろうということを考えました。三菱らしい軽自動車というものがあるはずだと。過去には『パジェロミニ』のような三菱らしい軽自動車もありました。そういったことを考えながら、三菱らしいeK(=良い軽)とは何だろう、フロントフェイスでいうと、ダイナミックシールドコンセプトを三菱は打ち出しているので、そのコンセプトに最も合うeKとは何かを考えていきました。

----:今、二つの考え方のお話しがありました。ひとつはダイナミックシールドというデザインの考え方。それとeKというクルマの考え方です。見方によっては両極端にも感じてしまいますね。

大石:eKワゴンとeKクロスを並べてみると、全く異なるコンセプトのクルマに外観上は見えるでしょう。しかし実際には、eKとは“良い軽”といっているくらいに使い勝手が良く、安全性に寄与して、すごく人に優しい軽自動車というところも十分表現できていると思います。

eKクロス(向かって左)とeKワゴンeKクロス(向かって左)とeKワゴンインテリアに関しても、広々とした室内空間も含めて、すごく人に優しい。使い勝手や、おもてなし、快適な空間、魅力的な空間、パーシブド・クオリティはすごく気を使ってデザインしています。従ってインテリアも、日産と同じパーツを使っていますが、まるっきり異なったモチーフや色調、素材を使ってデザインしていますので、SUVテイスト溢れる快適な室内空間を提供するとともに、それにあったSUVテイストのeKクロスがデザインできたと思っています。

三菱らしさはSUV

----:先ほど三菱らしいといういい方をされましたが、それは今回のeKではどのように表現されているのでしょうか。

大石:それはSUVテイストやクロスオーバーなテイスト、ダイナミックシールドコンセプト。そして、人に優しいとか、クルマに優しいというところは融合させないといけないところですが、一言でいうとSUV的なところです。

----:では、その思いが最も表現されているeKクロスのデザインコンセプトを教えてください。

大石:「THE CUTE BEAST」です。日本語でいうと可愛らしい野獣、可愛らしい獣というイメージです。アクティブでありながら遊び心も忘れない。それでいて遠目で見ても三菱のクルマだとわかるくらいの存在感あるSUVイメージを与えています。

一方のeKワゴンは「THE CUTE CHIC」です。CUTEというワードは共通で、軽自動車としての可愛らしさはeKクロスでもちゃんと忘れない。そのうえでeKクロスはやんちゃなイメージ。年齢層も20代から30代の若者男性をターゲットにしています。eKワゴンは女性も意識してCHICとしているのです。このCHICという言葉の中には上質さなども含まれています。CUTEという共通ワードを持ちながらも、BEASTとCHICと作り分けているのです。

----:CUTEとBEASTという相反する単語が面白いですね。その単語ごとにデザインとして表現されているところはどういうところでしょう。

大石:BEASTという単語だけで聞くとあまりいい言葉ではなく、荒々しいイメージにもなってしまうかもしれませんが、若い方にとっては違和感なく受け入れられる言葉だと思います。そこでちょっと荒々しい、力強さみたいなものが表現できたらいいかなと思いました。

eKクロス(向かって左)とデリカD:5eKクロス(向かって左)とデリカD:5まさに見てもらえばそう感じてもらえるでしょうが、少々いかついこの顔つきで表現しています。怒っているかもしれないが笑っているかもしれない、そんなイメージ。最新のダイナミックシールドのヘッドランプを下に置くというコンセプトは継承しつつ、上にポジションランプを置いています。この辺り全てでBEAST感は十分に出ていると思います。

ダイナミックシールドコンセプトを軽でも実現

----:デリカD:5などを見た後にeKクロスを見ると、ダイナミックシールドコンセプトをこのサイズで表現するのは非常に難かったと感じます。

大石:最初できるかなと正直思いました(笑)。そもそもeKワゴンとeKクロスで作り分け、さらに日産のハイウェイスターと標準車も合わせると4車種あるわけです。その中でランプを3つ作り分けるのですから、本当にできるのかという問題もありました。しかし、そこは三菱らしさを表現するために必要だとデザインを進めていったのです。

eKクロスeKクロス----:eKクロスのフロントでは、下のシルバーのガーニッシュがすごく特徴的ですね。

大石:このシルバーの部分はフォグランプガーニッシュを兼ねています。通常はバンパーにフォグランプを配置すると、フォグランプを収めるためのガーニッシュがフォグランプ周りに取り付けられます。これをeKクロスではフォグランプガーニッシュまで一体化させました。そこを逆手に取ってプロテクターのように見せ、かつこのシルバーのパーツごと入れ替えられるようにすることで、オプションでブラックのパネルにしたりカラードパネルにしたりなど遊ぶこともできます。そういった拡張性も持たせることも意識しました。

もうひとつのこだわりとしては、安全装備としてセンサーやソナーがありますので、そういったものは黒い中に収めた方が綺麗です。従ってナンバーの下の黒い部分にセンサーが収まるようにしています。そうするとこれだけ安全装備がしっかりしていても前から見ても違和感を覚えないように、すごく綺麗にまとめています。お気づきかもしれませんが、最近の三菱車の真ん中付近は黒いのです。そしてその部分にセンサーとかソナー、カメラなどを装備してもごちゃごちゃ感じないように意識的にしてます。

実はナンバープレートの位置にもこだわりました。最近の軽自動車のナンバーの位置は比較的横にずれたものになっているのですが、eKはあえて中央に置きました。これによりパッと見たときに軽と見えない要素のひとつになっていると思います。もっとも完全にラジエーターをいじめてしまってはいるのですが(笑)。

SUVテイスト表現の工夫

----:そのほかにeKクロスとしての特徴はありますか。

大石:ルーフレールも三菱専用装備品です。これもSUVテイストを表現するうえではルーフレールの有り無しでだいぶ違ってきます。

またサイドではホイール周りの黒いデカールがあります。これがあることでリフトアップ感や、安定感がとてもよくなります。日産のサイドシルガーニッシュはボディカラー色を採用していますが、三菱は材着のブラックで、これはバンパーも同様。それとマッチするようなサイドのデカールで、これは新開発したもの。材質が違うもの同士なので違和感がないように仕上げるのが大変でした。

----:そのサイドでは、なかなか軽自動車では見られないプレスラインやキャラクターラインが大きくイメージを作り上げていますね。

大石:これも頑張りました。軽自動車ですので、寸法が決まっておりデザイン代がない中で、しゃっきりとさせました。

eKクロスeKクロスまたルーフのフローティング感を出したかったので、ピラー部は黒を通しました。一方で後ろにいくにしたがって上がっていく形状では、三菱としても意識しているジェットフィンのリアピラーも欲しかった。とはいえここは日産との共通部分なので、ここは日産と上手く連携を取りながら仕上げました。テールランプは共通なのですが、日産ぽいといわれないように上手くまとめています。

----:現行から比べるとすごく三菱色が出ていると思います。

大石:我々も意識したのはそこで、同じようなクルマを作るのではなく、三菱に行かないと買えないというクルマを作らなければいけないと考えました。そういうことからも我々のSUVイメージきちんとを出せました。

作り分けはグリルのみだが

----:さて、続いてeKワゴンについてお伺いします。

大石:おしゃれさの中にも上質感をというところも含めてCHICとしています。可愛いだけの軽ではなく、eKクロスとも同じボディラインを使っていますので、意外としっかりと、立体感がある仕上がりになっています。

日産との作り分けができたのはグリルのみですので、日産は独自のグリルがついています。我々としても精一杯三菱を表現するためにランプから繋がって、それでいてワイドに見えるように、三菱の他のモデルに使っているモチーフを取り入れたフロントグリルです。

eKワゴン従来型eKワゴン従来型現行車も、決してデザイン的には悪くはありませんでした。しかし、デザインは格好良いが中に乗ったら少し狭いというイメージ(実際には違うという)がなぜかありましたのでそれを払拭し、良いところは継承しています。基本デザインとしてよく練れたデザインに仕上がりましたが、そこには日産の力もすごくあるのです。

レザーオプションはデザイナーのこだわり

----:インテリアカラーにもこだわりが見えますね。

大石:特にレザーオプションはタン(レザー)とブラック(ファブリック)とのコーディネーションで、ファブリックには赤や白などの模様が非対称に入っていますので、このパターンが座面と背面でずれてしまっては元も子もありません。位置が決まっていますのでそこはパッシブド・クオリティとして仕上げました。イメージとしてはアーバンネイティブ。マフラーのアクセントラインなどを意識して仕上げています。

eKクロスeKクロスあまり形のデザイナーが表皮まで口を出すことはないのですが、僕自身が色と素材にこだわりたかったので……。ボディカラーのサンドベージュもカラーデザイナーの女性と協力して。実は全然違う黄色に決まりかけていたのですが、僕自身としてはそうではないと悩み続けていました。そこにカラーデザイナーからイメージ通りの黄色が提案されたのです。これも三菱の専用色です。

そのこだわりは、単にポップなよくある黄色、健康的なフレッシュな黄色ではなく、SUVのイメージが表現されているものを求めていました。なのでサンドイエローと名付けています。実際の砂の黄色とは違いますが、アウトドアのイメージに映えるような黄色、アクティブな黄色といったらこの色しかありませんでした。これは写真ではなかなか伝わりにくいので、是非実物をお店に見て欲しいですね。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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