【三菱 eKワゴン・eKクロス 新型】アライアンス下で三菱らしさをアピール…商品責任者[インタビュー]

アライアンスの精神とは

颯爽と乗りたくなるこだわり

登録車メインだからこそできる開発

三菱でしかできないことが魅力に

三菱eKワゴン新型
三菱eKワゴン新型全 28 枚

三菱から登場した『eKワゴン』と『eK X(クロス)』は、日産『デイズ』とは大きく差別化し、三菱らしさをアピールしたデザインをまとっている。先代から大きく変貌した理由について話を聞いた。

アライアンスの精神とは

----:先代eKワゴンをフルモデルチェンジするにあたり、最初に何を考えたのでしょう。

三菱PD室PDA&B(Kei)兼商品戦略本部チーフ・プロダクト・スペシャリストA&B(Kei)の吉川淳氏(以下敬称略):先代のeKワゴンとeKスペースを振り返ると、商品力が少し足りなかったように思います。

まず、日産の『デイズ』、『デイズルークス』と何が違うのかというところです。ぱっと見も同じで乗っても同じ。そうするとわざわざ三菱に足を運んでもらう魅力にはつながりません。そこで違うものを作らないとダメなのですが、今回はそのあたりで多くの議論をしました。

日産デイズ新型日産デイズ新型つまりアライアンスの精神とはなんぞやということです。これは共通で同じものを作ることで、数を増やしてコストを下げていくもの。そこに我々が急に違うものにしたいといい出したわけです。重要なのは、基本は同じにしながらも、違うものに仕上げていくということです。例えばポルシェ『カイエン』、VW『トゥアレグ』、そしてアウディ『Q7』とはベースは同じでも全然違いますよね。これがやりたいことだと議論をまとめていきました。

もうひとつは商品力そのものの話です。今回軽自動車担当になって色々と先代の開発状況などを紐解いてみたのです。その時に感じたのは、軽自動車“だから”というムードが当初はあったように感じました。その結果、一瞬三菱が時代に乗り遅れてしまったのです。

三菱eKワゴン先代三菱eKワゴン先代先代開発当時、市場にあった軽自動車は、“だって軽だから(仕方ない・この程度)”というイメージでした。軽が“良い”ではなく、軽“でもいいか”という人たちが買うクルマだったのです。そこで先代eKワゴンの開発でもこのくらいでいいだろうと思っていたら、先代が発売されるタイミングで、これが“良い”という軽自動車が他社から多く出てきたのです。つまり時代の流れを読み誤り、時代に乗り遅れ、完全に失敗してしまいました。そういう意味で商品力が弱かったのです。

そこで新型を開発するにあたり、いまの軽自動車のお客様はどこまで何を求めているのかを探るところからもう一度やり直したのです。

発表会(3月28日)での吉川チーフ・プロダクト・スペシャリスト発表会(3月28日)での吉川チーフ・プロダクト・スペシャリスト----:実際に購買行動のデータを見ると、10年前といまとで、ドラスティックに変わっています。10年前は税金・保険などの諸費用、車両価格、燃費がトップ3でした。それがいまでは車体色、車両価格、スタイル・外観と、車両価格以外は変わっています。

吉川:私自身はその最新のデータを見てから開発スタートしましたので、軽のユーザーはそういうものだというイメージでした。従って、数年前の軽自動車を見て、何でこうなんだろう、データとは全く違うという違和感がありました。そこで、古いデータを調べると、このように大きく変わっていたのです。

颯爽と乗りたくなるこだわり

----:では、新型eKワゴンの商品の方向性はどのようにしようと考えたのでしょう。

吉川:ものすごく月並みになってしまいますが、三菱というブランドを考えた時に“アクティブ”という単語はどのクルマでもどうしても外せないもので、それは軽自動車であっても同じです。このクルマに乗ったらどこかへ行きたくなるような気持ちになってもらうことが、三菱の全部のクルマで持っていなければいけないところです。

三菱eKワゴン新型三菱eKワゴン新型そこで見た目にはかなりこだわりました。スーパーマーケットなどで多くのクルマが並んでいるところで、変なクルマに戻りたくないでしょう。また降りている姿を人に見られたくないと思いませんか。そうではなく、自分のクルマはこれだと、颯爽と乗ってもらえる、そんなところにこだわらないといけないと思いました。

登録車メインだからこそできる開発

----:今回も先代と同様に、日産との関係も考えながら作っていかなければいけなかったわけですが、そのあたりはどのように考えていたのでしょう。

吉川:双方とも基本的には登録車を作っているメーカーです。一方、軽自動車トップのスズキやダイハツは軽ブランドです。我々はそことは違うものづくりの仕方があるはずだと考えています。そこで本気で双方の技術を全部出して軽自動車を作ったらどういうものであるべきか、目標を高く掲げてスタートしました。

実はこの目標のままに軽自動車を作ると400万円くらいのものになってしまいます(笑)。それでは全然商品として成り立ちませんから、150万円くらいまで抑えていきました。つまり、ここからどこまで削ぎ落とせるか。これは本当に難しかったですね。

発表会(3月28日)での吉川チーフ・プロダクト・スペシャリスト発表会(3月28日)での吉川チーフ・プロダクト・スペシャリスト----:いま削ぎ落としたという話でしたが、反対から見ると残さなければならないものがあったということですね。それは何でしたか。

吉川:やはり軽自動車であるということは外せません。そして、軽快でなければいけないところや、ドライバーが高齢の方や女性、また、運転になれていない方が多いということは、常に意識しなければならないことでした。

こんなことが開発時にありました。トラクションコントロールとグリップコントロールシステムが搭載されているのですが、そのテストで実験部隊や開発の人間とともに北海道で氷上テストを行ったことがありました。皆パイロンを回ったりして帰ってきたので、素人の私も乗ることになったのです。

するとパイロンをバタバタバタと全部倒してしまいました。アレッと思って……。そこで実験部隊や開発の人たちに同乗してもらって走ると、やはりバタバタバタと。普通に走ってパイロンを曲がりながらスーッとブレーキをかけて入っていっただけなのです。皆からはそれではダメだ、ブレーキではなくアクセルを踏まないと、といわれました。

つまり、彼らは滑った瞬間にトラクションコントロールを効かせるためにアクセルを踏むという行為ができるのです。しかしお年寄りや女性にそんなことができるでしょうか。滑るような状況で普通の人はアクセルを離してブレーキを踏むに決まっているでしょう。

そういう制御にしないとこのクルマは絶対に売れないという話をしました。そういったところは開発していく上で絶対に外してはいけないポイントでした。

三菱eKワゴン新型三菱eKワゴン新型また収納スペースについても、色々操作するとモノが入るといっていたらダメ。あくまでもお年寄りと女性目線なので、ポンと座った瞬間にモノが自由に思ったように置けるようになっていないとダメなのです。そういった“軽自動車だから”というポイントは押さえていきました。

三菱でしかできないことが魅力に

----:三菱と日産とではユーザー層は違うのでしょうか。

三菱デザイン本部プロダクトデザイン部デザイン・プログラム・マネージャーの大石聖二氏:日産と同じかどうかと問われれば違うと思います。ただし、三菱のユーザーはこうだ、という特徴は軽でも『デリカD:5』でも同じです。

今回の場合、ボディカラーにその特徴が出ているでしょう。日産ユーザーに向けた『デイズ』のカラーと、三菱ユーザーに向けたカラーは大きく違っています。ラインナップはどちらも豊富ですが、そのカラーは大きく違い、三菱の方が、アクティブというイメージが直結するような、分かりやすいカラーラインナップになっています。

三菱eKクロス(向かって左)とデリカD:5三菱eKクロス(向かって左)とデリカD:5吉川:三菱をあえて選んでいただける方ですから、人が持っていないものを持ちたいだけではなく、三菱の“匂い”に共感してくれていると思います。例えばデリカD:5は月1000台レベルですから、次という考えは経営者としてはなかなかできません。そこを我々はあえてやります。そういうことをユーザーは評価してくれて、ついてきてくれているのだと勝手に思っています(笑)。三菱だから、三菱じゃないとできないことが魅力なのです。

このeKワゴンとeKクロスは本当に静かでハンドリングや加速性能などもとても良くできています。でも、軽で“いいや”という人たちからすると、もしかしたらここまでやらなくてもいいかなと思われるかもしれません。しかし、軽でもここまでしっかりできた方がいいに決まっているでしょう。そこを理解してもらえるかどうかが勝負だと思っています。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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