「通常の百貨店の催事」では無いのは一目瞭然だろう。履き込んだジーンズに腕にはタトゥー、黒っぽい服装、歩けばジャラジャラとチェーンの音。全てとは言わないがそこそこコワモテの面々がフロアに溢れている。ハーレー乗り、特にミーティングと言われるイベントによく行く人にはおなじみの光景かもしれないが、ここは大阪、大丸梅田店だ。
そんなコワモテに、臆することなく大阪のオクサマが話しかける。「それ、どないして作ってんのん?いやぁ、上手やねぇー」
現在大阪の大丸梅田店、15階イベントホールで「HERITAGE モーターサイクルウエア&ギアの世界」が開催されている。(7月22日月曜日まで)
”粋”で繋がる新たな関係
異世界へのエントランス
世界中で賞を獲得しているチョッパースタイルのカスタムバイク、そして関西を中心に選りすぐった洗練されたウェアやギア、そこここで手仕事を惜しげもなく披露している職人たち。そんなコアでニッチな世界を百貨店のワンフロアで表現したのはおそらく日本では初めてでは無いだろうか。
「こういう百貨店に来るような意識が高く、バイクのことを知らない人にも肌で体感してもらいたいです。これはまさにライブなんです」
中心人物の一人、「リボルトカスタムサイクルズ」の井上正雄さんが話す。
2017年、世界中で幾つもの賞を獲得した「TRIDENT」というカスタムバイクを筆頭に数台の車両を展示している。この布石は昨年、大阪大丸心斎橋店で開かれた「ええやん上方粋」という催事で自身のカスタムバイクが「職人の創る価値のある工芸品」として展示されたことから始まった。
カスタムワークスゾンブース
これが大きな反響を呼び、BMWに至ってはプロトタイプのエンジンのカスタムを依頼するほど世界中に影響力のある滋賀の「カスタムワークスゾン」との二本柱を軸に、唯一無二のショップや職人たちが脇を固めモーターサイクルを前面に押し出した催事にまで発展した。
ここにあるモノ全てにそれぞれが培った技術、そしてクリエイターとしての哲学が現れている。息遣いはネットでも雑誌でも伝わらない。ただここに来て感じて欲しい。
「百貨店にあるキラキラしたものの中に“これ”があっても違和感無いでしょ。それは見れば誰もが納得すること。でも普通は躊躇します。大丸梅田店は恐れず誰もやらないことをやった。それが”粋”なんです。だいたいカスタムワークスゾンのバイクが買える百貨店なんてどこにも無い(笑)」(井上さん)
リボルトカスタムサイクルズの井上正雄氏。美しいロングフォークチョッパーを哲学に、世界のカスタムシーンへ果敢に挑戦している
大丸梅田店の催事企画・運営担当の垂水雅和さんは「実は社長にもプレゼンしました。大いにやれと、太鼓判を貰いました」と話す。「この催事を見て実は僕もバイク好きなんです、なんて、普段話さない社員と話すきっかけになったりと、思わぬコミュニケーションも広がっています」(垂水さん)
全身WESCOとアインハートの私物ウェアで売り場に立つ垂水さん、百貨店スタッフまで”粋”なのだから申し分無い。”粋”で繋がる新たな関係。この先も意外な化学反応を起こし続けそうだ。