【アウディ A7スポーツバック 新型試乗】高速でこそ輝くディーゼルの魅力…内田俊一

アウディ A7スポーツバック 40TDIクワトロ
アウディ A7スポーツバック 40TDIクワトロ全 17 枚

アウディ『A7スポーツバック』に2リットルディーゼルエンジンを搭載した『A7スポーツバック 40TDIクワトロ』が追加された。4ドアながらクーペライクなボディーのこのA7スポーツバックに果たしてディーゼルが必要なのか。400kmほど走らせてレポートする。

12Vマイルドハイブリッドシステムを搭載

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今回搭載されたディーゼルエンジンは新開発の2リットルディーゼルエンジンだ。この最新の排ガス基準に適合したTDIエンジン(EA288evo型)は、最大出力204ps/3750~4200rpm、最大トルクは400Nm/1750~3500rpmを発生し、12Vマイルドハイブリッドシステムと協働している。

この12Vマイルドハイブリッドシステムは、従来の電装系用バッテリーとともに、リチウムイオンバッテリーを搭載。この2つ目のバッテリーの助けによって、55km/h~160km/hの範囲でエンジンをオフにしたコースティング走行や、22km/h以下でのアイドリングストップを実現させたほか、5秒間のエンジンアシスト(最大2kW、60Nm)も行われる。

また、通常のスターターモーターより大型のBAS(ベルトオルタネータ―スターター)を採用することで、エンジン停止・再始動は非常にスムーズになるという。

価格は812万円と、既に導入されている2リットルガソリンエンジンの45 TFSIクワトロの819万円や、V型6気筒の55 TFSIの1090万円よりも安く、エントリーモデルという位置付けになる。

第一印象は静かでしなやか

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今回借り出したクルマは、ダイナミックオールホイールステアリングやダンピングコントロールサスペンションなどを含んだドライビングパッケージや、S lineパッケージなどのオプションを含んだモデルだ。

ドアを開けて室内に乗り込むと、近年のアウディらしい精緻なインストルメントパネルなど、非常に質感の高いインテリアに目を奪われる。特にセンターパネル周辺は精緻というより緻密ささえ感じてしまう。

センターコンソール右側に配された少し強めのクリック感のあるエンジンスタート/ストップスイッチを押し込むと、少し身震いを感じさせながらエンジンは目覚めた。

T字型のシフトレバーをDにセレクトしゆっくりとアクセルを踏み込むと、少しだけ抵抗を示した後、電磁式サイドブレーキが解除されて、A7クロスバックは走り始めた。その時の第1印象は驚くほど静かということだ。それは後述する高速に乗っても変わらない印象で、いつの間にかディーゼルに乗っていることを忘れてしまうほどだった。

また、乗り心地も快適だ。高いボディー剛性のもとにセッティングされたサスペンションは、しなやかさを感じさせつつ、しかし決してふわついたりしないもので優秀といえよう。また、ホールド感のあるシートも長距離でも疲れないものだった。

ボディーサイズを感じさせないダイナミックオールホイールステアリング

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今回は400kmほどを共に過ごすことが出来たが、そのサイズを意識することはほとんどなかった。その最大の要因はオプションの「ダイナミックオールホイールステアリング」のおかげといっていい。これはいわゆる4WSで、低速時は逆相違にリアホイールを僅かにステアすることで最小回転半径を5.7mから5.2mに縮小。また、高速域は同相違にステアすることで車線変更やワインディングでの安定性を高めているのだ。その結果、街中であってもそれほどサイズを気にせずに走らせることが出来た。

もうひとつ、6ライトであることから左斜め後方の視界が確保してあるのもありがたい。こういったボディータイプの場合、結構左斜め後方が見にくいことが多いので、これは良心的な配慮でもある。

一方、日本の街中では少しトランスミッションのギア比のセッティングが合わないようだ。1速から3速がハイギヤード過ぎるのだ。信号からの発進時など少々かったるく、特に坂道での発進は妙に半クラッチを長く使っているようで、回転は上がるものの速度は期待値ほど上がらないことがあった。その時に試しにと一瞬アクセルを戻すと今度はきちんとクラッチがつながるようで、そこからはスムーズな加速が開始された。

また、3速で渋滞などを走らせていて、そこから加速したいシーンでは、妙に3速をホールドしたまま一生懸命加速するので、その時もこのクルマは重く遅いのかと勘違いしそうになる。そこでよりアクセルを踏み込むとキックダウンし、予想以上のパワーが溢れてギクシャクした走り方になりがちだ。従ってギア比の見直しをすることで、よりスムーズな走りが手に入ることだろう。

光る高速道路での魅力

街中を抜けて高速道に乗り入れてみると、A7スポーツバックの良さがより感じられる。クワトロのおかげもあり、とにかく直進安定性が高い。その結果、アダプティブクルーズコントロールを作動させ、走行車線を流していると、本当にどこまでも走っていけそうな、そんな気分にさせてくれる。

大きく貢献しているのがエンジンノイズの小ささだ。ロードノイズは僅かに聞こえてくるものの、エンジンから伝わってくるものはほぼ何もないといっていい。そういう走り方をしていると、このクルマの良さがしみじみと伝わってくる。

例えばV6の「55 TFSI」であれば、時々ふっと強めにアクセルを踏み込んで力強い加速を味わいたいという欲求に駆られることもあるが、この40 TDIはそういった感情には至らず、淡々とクルマに身を任せていられるのだ。それはたぶん、エンジンが大きく主張していないからだろう。これは決して悪いことではなく、そのクルマに何を求めるかということで、サウンドやパワーであればV6を選べばいいのである。

気になるポイントは2つ

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さて、ここ大きく気になる点を、2つ挙げておきたい。それは冒頭に記した精緻なつくりのセンターパネルだ。上下2つの画面に分かれており、それぞれタッチスクリーンになっていて見た目は非常に美しく、その操作もスマホに慣れた方であれば楽々出来るだろう。

しかし、クルマの場合はスマホのように画面を注視して操作することの方が少ない。例えばエアコンの温度調整の場合、下の画面に映し出されている空調の表示の左右にある温度設定の部分を触れなければいけない。この時にきちんと触れられたかどうか、思った温度に設定できたかなどいちいち視線をそちらに向けてしまうのだ。

一般道であれば信号の停車時にその操作をすればよいが、高速ではそうもいかない。やはり頻繁に操作するものは物理スイッチを用いてほしい。そうすることで、位置さえ覚えておけばブラインドタッチが可能になるからだ。

もうひとつはアイドリングストップからの再始動時の振動だ。今回12Vのマイルドハイブリッドシステムを採用しており、前述の通りBASを利用して再始動を行う。その際、一瞬ぶるんと車体全体を震わせながらエンジンが始動するのだ。これは少々興ざめで、BASを利用していないのではないかと感じてしまった。ただし、高速時のコースティングなどではほとんど気になることはなかったことを付け加えておく。

積極的に「高速巡洋艦」として選びたい

最後に燃費をお知らせしておきたい。

市街地:9.3km/リットル(14.2km/リットル)
郊外:14.2km/リットル(15.6km/リットル)
高速:18.1km/リットル(17.6km/リットル)
( )内はWLTCモード燃費値

という結果だった。今回市街地(都内)では酷い渋滞に何度も遭遇してしまったので、WLTCモードを大きく下回る結果だった。しかし、都内使用はこの程度と思っておいた方がよさそうだ。一方で高速は大きく伸ばした。ゆったりと流れに身を任せていると20km/リットル台も記録するので、もう少し伸び代はあると思われる。

アウディ A7スポーツバック 40TDIクワトロアウディ A7スポーツバック 40TDIクワトロ
さて、冒頭に記したこういったクーペライクのボディータイプにディーゼルは必要か。その結論はあってもいい、というより積極的に選びたいと思う。その理由はある程度の荷室容量を持つことから、長距離旅行にうってつけ、まさにグランドツアラーと位置付けられるからだ。

そこで課題となるのが航続距離だが、このクルマであれば63リットルのタンク容量があるので、単純計算でも高速では1000km以上走ることが出来る。これは大きな魅力につながるだろう。更に、街中ではどうしても気になる点が見え隠れしてしまったが、高速ではそのほとんどが気にならない、更には魅力がより一層引き出されるので、そうなると積極的に高速巡洋艦として選びたくなる。

その時はオプションのBang & Olufsen 3D サウンドシステム(16スピーカー)を選んで、静かな室内で耳を傾けたいと思う。

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■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

内田俊一(うちだしゅんいち)
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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