ヨーロッパはマツダ・ロータリーを忘れていない! 今も熱いユーザーと現場

イタリア・シエナ県のマツダ販売代理店「スーペルアウト」のマッシモ・ラッツェーリ社長と、自身が所有するRX-8
イタリア・シエナ県のマツダ販売代理店「スーペルアウト」のマッシモ・ラッツェーリ社長と、自身が所有するRX-8全 18 枚

マツダのヨーロッパ地域における販売回復が目覚ましい。

新型コロナウィルスによる営業・移動制限の影響が甚大だった2020年の販売台数は前年比39.93%減の14万9794台にとどまったが、2021年3月からは前年同月を上回る月が続いている。とくに4月には前年比3.4倍の1万3940台を販売している(データ出典:CAR SALES BASE)。

イタリアにおける2021年上半期登録台数は、前年同期比で1.64倍の6841台に達した。日本ブランドではトヨタの1.8倍、スズキの1.7倍に次ぐ回復ぶりだ(データ出典:UNRAE)。そうした欧州での好調を支えているのは、いうまでもなくレシプロエンジンの現行ラインナップであり、イタリア市場の場合、最大の人気車種は『CX-30』である。

しかしヨーロッパの愛好家の間では、“ロータリーのマツダ”もけっして忘れられているわけではない、というのが本稿の内容だ。エッセン・テヒノクラシカ2010でロータリー・ドライブRX7クラブ・ヨーロッパが展示した2代目RX-7エッセン・テヒノクラシカ2010でロータリー・ドライブRX7クラブ・ヨーロッパが展示した2代目RX-7

ひたすらノートに描いていた

それが最もわかりやすいのは、ドイツ北西部エッセンで毎年開催されるヒストリックカー・ショー「テヒノクラシカ(テクノクラシカ)」だ。

会場では設立を1981年に遡るクラブ「ロータリー・ドライブRX7クラブ・ヨーロッパ」が、会員の秘蔵車を毎回展示している。一例を挙げれば、ユーノス『コスモ』の3ローター・エンジンを移植した『RX-7』といった具合だ。彼らなりの日本をイメージしたスタンド設営からも、メンバーたちの情熱が伝わってくる。

フランスにもRX-7を中心とした愛好会およびフォーラムが複数存在して、活発な交流を続けている。この国の場合、愛好家の語りはやはりルマン24時間レースと結びつく。1970年にマツダのロータリーエンジンを搭載したシェブロン「B16」が参戦したことや、1991年にマツダ「787B」がロータリー車で史上初の優勝を遂げたことを熱く説く。1970年シェブロンB16マツダ。パリ・レトロモビル2011で1970年シェブロンB16マツダ。パリ・レトロモビル2011で

クラブのメンバーでなくても、ときおりマツダのロータリーエンジンを語る人に出会う。筆者のイタリアにおける知人アンドレア(1959年生まれ)が良い例だ。本人が回想するに、工業高校に通っていた1970年代後半、ロータリーの作動原理を理解しようと、ひたすらノートにハウジングとローターの図を描いてみたという。

前史を飛び越したおかげで

マツダのロータリーエンジンは、どのように欧州の人々を熱くしていったのか? それを知るべく、筆者が住むイタリア中部シエナ県のマツダ販売会社「スーペルアウト」本社に赴いた。敷地面積8000平方メートルを誇るディーラーである。

同社のマッシモ・ラッツェーリ社長によると、世界初の2ローター・ロータリーエンジン搭載車である1967年『コスモ・スポーツ』は、一部愛好家には注目された。だが欧州に上陸したのはごく少数だったことから、ロータリーの知名度向上には貢献しなかった。筆者のマッチボックス、マツダRX500(手前)筆者のマッチボックス、マツダRX500(手前)

その3年後である1970年の第17回東京モーターショーに、マツダは『RX500』を展示している。話は一旦逸れるが、この伝説のコンセプトカーは早くも翌年、英国「マッチボックス」によって1:59ミニカーが作られている。同社の新製品系列「スーパーファスト・シリーズ」の1台として、1975年まで4年間生産された。筆者自身も当時、日本でそれを持っていた。

なぜマッチボックスが極東における1メーカーのコンセプトカーを取り上げたかについて、マツダのイタリア法人による2021年5月31日付リリースは、以下のように詳述している。

「ホットウィール(編集部注:当時はマッチボックスのライバル会社だった)は、マッチボックスにとって最大の市場であった米国に特化して製品を設計しており、典型的なアメリカ人の好みに訴求する様々なカスタムモデルで成功を収めた。それに合わせて、マッチボックスは未来的なファンタジーモデルやコンセプトカーにも目を向けていた」。説明は続く。「RX500はアメリカ市場の好みに合致しており、ヨーロッパでもマツダやロータリーエンジンへの関心が高かった」。RX500のミニカーは76年に一旦生産終了したものの、78年に再開。新色を加えながら85年まで販売された。

ただし、ミニカー版の意外なロングセラー化とは裏腹に、RX500の実車は当時極東の日本におけるコンセプトカーであったこともあり、ヨーロッパでその存在を知るのは、自動車誌編集部のなかでも、とくに日本車に詳しいスタッフに限られている。マツダRX-7初代(手前)、RX500(左奥)、コスモ・スポーツ(右奥)マツダRX-7初代(手前)、RX500(左奥)、コスモ・スポーツ(右奥)

ラッツェーリ氏に戻れば、ヨーロッパでロータリーエンジン搭載車として最初に広く認知されたのは、1967年から77年まで生産されたドイツNSUの『Ro80』だったと語る。ただし「信頼性の問題から広く普及には至りませんでした」とも説明する。

それでは実際に欧州でロータリー搭載車が一定数売れるようになったのは? 「(1978年の)初代RX-7からです。その後、例のルマン優勝も、知名度に拍車をかけました」。続いて、2003年『RX-8』も欧州のエンスージアスト間におけるマツダ人気向上に貢献したという。

これはイタリア在住25年の筆者による見解だが、今日欧州におけるブランドとしてのマツダを語る場合、『マツダ2』といったコンパクトカーや商用車のイメージを思い浮かべるユーザーは限られている。代わりに多くの人は『MX-5』を真っ先に連想する。前述のマッチボックス製RX500を手に入れた少年時代の筆者が、街を走る小型三輪トラック『T2000』と同メーカーと信じられなかったのと対照的だ。

欧州市場ではそうした“前史”を飛び越したおかげで、趣味性が強く、また近年ではプレミアムのイメージを確立できたのは幸運だったというほかない。

ラッツェーリ氏の店で働くセールスパーソンの一人は、「今やロータリーのイメージをもって来訪する新規顧客はほぼいない」と冷静に分析するいっぽうで、「マツダのユーザーは特別。他メーカーと比較せず、直接マツダを指名して来店する」と語る。そして「車格がボルボや、かつてのサーブに近いし、実際下取り車にもそうしたブランドがたびたびみられる」と話す。ラッツェーリ社長の執務室に置かれたロータリーエンジンのカットモデルラッツェーリ社長の執務室に置かれたロータリーエンジンのカットモデル

執務室に自作ディスプレイ

ラッツェーリ氏の販売店の歴史を記せば、まず1986年にマルチブランド取扱店として開業。89年からヒュンダイの代理店となり、2006年からマツダの販売を開始した。

ふと彼の社長執務室の片隅に目をやれば、かつて店頭用だったシングルローターのカットモデルが今も丁寧に置かれている。隣には、RX-8用エンジンも置かれているではないか。なんとこちらは自らディスプレイ用にこつこつと製作したという。イタリア語訳されたぶ厚い開発ストーリー本も置かれている。ラッツェーリ氏のロータリーへの思い入れが伝わってくる。

すでに報じられているとおり、マツダは『MX-30』のロータリーレンジエクステンダー(ロータリーREX)仕様を2022年発売に向けて開発中だ。これに関して、ラッツェーリ氏は個人の見解とことわったうえで、「ロータリーの軽量・コンパクト性は、重くかつスペースを要するバッテリーのデメリットを相殺するのに最適です」と期待を寄せる。

最後に「お見せしたいものがある」と言って、ショールーム脇のガレージに招かれた。そこには、よく磨かれた赤いRX-8が保管されていた。聞けば個人車で、現在丹念にレストア中であるという。

いうまでもなく今日ロータリーは、マツダの技術開発においてメインストリームではない。しかし、よく言われるように「販売の基本は自分が売るモノに惚れ込むこと」であるなら、ラッツェーリ氏とってロータリーは精神的支柱として常に存在しているのである。

そして彼と同様に、欧州各地のマツダ販売店主の心の中では、目に見えぬローターが回り続けているのに違いない。自作ディスプレイとラッツェーリ社長自作ディスプレイとラッツェーリ社長

《大矢アキオ Akio Lorenzo OYA》

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