スマートシティにおける新たなモビリティの法律上のチェックポイントとは…西村あさひ法律事務所[インタビュー]

スマートシティにおける新たなモビリティの法律上のチェックポイントとは…西村あさひ法律事務所[インタビュー]
スマートシティにおける新たなモビリティの法律上のチェックポイントとは…西村あさひ法律事務所[インタビュー]全 1 枚

スーパーシティ法が施行され、いよいよスマートシティを社会実装する段階がやってくる。モビリティはスマートシティ実現のカギとなる。自動運転バス、乗合タクシー、小型モビリティなどの新たなモビリティには、各種交通関係規制が重層的に及んでいるうえ、移動データをはじめとするパーソナルデータの利活用にたっては個人情報・プライバシー保護法制にも注意が必要である。西村あさひ法律事務所の松村英寿氏、木村響氏の両弁護士に話を聞いた。

9月30日開催のオンラインセミナー スマートシティにおけるモビリティ事業~ここだけは押さえたい法律上のポイント~に西村あさひ法律事務所の2名が登壇し講演する予定だ。

スーパーシティでの規制改革◆

---:改正国家戦略特区法(スーパーシティ法)が施行されました。スーパーシティとは何を指すのでしょうか。

松村氏:スマートシティのうち、改正国家戦略特区法に基づいて、特区としての認定を受けて特別な規制改革を実施する街をスーパーシティと呼んでいます。

木村氏:スーパーシティ法が去年の9月に施行されています。スーパーシティは、スマートシティで求められる先端技術を、実際に街に実装し、豊かな都市をつくることを目指しています。実験から実装へと、一歩踏み出そうとしているところです。スーパーシティにおける先端的サービスの分野例の筆頭に、「移動・物流」が挙げられています。

スーパーシティへの公募は今年の4月に締め切られ、その後の8月に、応募した自治体の選定会(スーパーシティ型国家戦略特別区域の区域指定に関する専門調査会)がありました。

31の自治体が応募し、様々な規制改革の提案がなされましたが、全体的に大胆で有効な提案に乏しいとのことで、これら提案は各自治体に差し戻されました。規制改革を考える際、最初に行うのは、現状どのような規制がかかっているかを調査して、どうしてそれが新サービスの障害となっているのか、といった現状と課題を把握する作業です。しかし、現行規制のどこに問題が潜んでいるか、規制のどの部分を変えれば新たなサービスが実施可能となるか、具体的に指摘するに至らなかったために、有効な規制改革提案にはつながらなかったわけです。

---:地方自治体から、規制改革への効果的な提案が出てこない理由は何なのでしょうか。

松村氏:モビリティの文脈でいうと、新しいサービスやモビリティを実際に運用する事業者と、自治体がうまくマッチングしていないため、提案内容が地域のニーズや事業の現実に即した具体的なものになりにくいのではないかと思います。

木村氏:生活者や物が移動するときに、その地域でどのような課題を抱えているかを具体的に把握し、それを心に留めて現行規制を確認することで、解決したい課題とそれを実現できない現実の差分が見えてくるはずです。そうしてこそ、スーパーシティ計画にふさわしいモビリティとは何か、その足かせとなっている規制とは何かが明らかになると考えます。

ここでひとつ紹介したいのが、「地方公共交通活性化再生法」です。この法律では、地方自治体は、公共交通事業者らを招いて新モビリティサービス協議会を組織することができると定めています。新しいモビリティサービスを提供しようとする人たちが既存の交通事業者たちと上手く手を組むきっかけを、何とか提供しようと努力していることが窺えます。

規制と向き合うのは、自治体だけではありません。事業者の側から、自らのビジネスアイデアを実現するために規制上の支障はないか確認し、必要であれば自治体と一緒に現行規制を変えていく、という戦略が有効な場面もあるはずです。

新たなモビリティと関連する規制

---:各自治体で違いがあると思いますが、どのようなモビリティへのニーズが高いのでしょうか。

松村氏:数年前に経済産業省がまとめた新たなモビリティに関する資料によると、カーシェアや、デマンド交通の中ではタクシー会社の相乗りタクシー、UBERが海外で提供しているようなライドヘイリングなどのモビリティが類型として出ています。

また国土交通省の資料によると、日本版MaaSの実現に向けて地域特性に応じたモビリティの在り方を検討していく必要があることが示されていて、大都市では人口が多く密度が高いため、移動手段が多様化することが、消費者の利便性向上につながります。都市近郊では、ラストワンマイルの交通が中心です。過疎地域は、交通空白地域において、自家用車を用いた移動手段(ライドシェア)をメインに取り組んでいるところもあります。

実際には、これらをどのように組み合わせるとよりシームレスな移動ができるかを考えて、MaaS(Mobility as a Service)ひいては街全体としてスマートシティの都市交通・都市計画を検討していく必要があります。そしてそれを実現するには、どのような規制があるかを知ることが必要です。

---:新しいモビリティと法規制のコンフリクトは、どのような事例があるのでしょうか。

松村氏:個人が自家用車を使って人を運ぶ手段(ライドヘイリング/ライドシェア)と、許可事業であるタクシー規制との関係が話題になることが多いです。

これに関しては、運行形態に応じた許可の要否について、国土交通省から運輸局に対しての事務連絡という形式の文書で通達が出ています。

事務連絡は法令そのものではなく、これさえ守っていればよいというわけでもありませんが、国土交通省のホームページで公表されている内容であり、事業者にとってはサービスの運用の指針となります。そして、実施しようとするモビリティサービスに関する規制の解釈や内容が不明な点は、国土交通省・経済産業省ほか関係省庁への相談が必要になります。

しかし、それでもまだ現行法上だと厳しいという場合は、国家戦略特区における認定もしくは規制のサンドボックス制度を利用して、一部規制が緩和された状態で事業を遂行できるよう手当てすることになります。また、解釈が不明確で、今の時点で明確にしておきたいニーズがある場合には、グレーゾーン解消制度といって、官庁に正面から答えてもらう制度もあります。

規制の具体例

---:実際に問題になりやすいのは、やはりライドヘイリングの“白タク規制“でしょうか。

木村氏:やはり自動車は身近にある乗り物ですし、都市部だけに限らず、過疎地域のモビリティとして、自家用有償旅客運送がその担い手になるというケースは多いので、関連性がある地域は多いと思います。

松村氏:よく話題に挙がるのはそこですが、新しいモビリティ、例えば電動キックボードや超小型モビリティといった、これまで規制上想定されてこなかった類型の乗り物については確認が必要です。

電動キックボードなどは、現行の道路交通法上では「原付」の枠には入る乗り物ではありますが、その規制内容がキックボードの特性に合ったものになっていないと、利用の促進が進みません。たとえば電動キックボードをシェアする際の利用場面や安全性を踏まえて検討するための実証実験が国家戦略特区や規制のサンドボックス制度を用いて実施されていて、最近では新事業特例制度の下でヘルメット不要とする実証実験を行っているわけです。

---:オリンピックの選手村で運用されていた自動運転シャトルも注目されていますが、どのような規制があるのでしょうか。

松村氏:自動運転のレベルにもよります。現行の道路交通法ではレベル3までしか公道は走行できず、選手村のシャトルの場合は、レベル4での運行を想定しつつ、乗務員を乗せており、運行状況によってはレベル2にあたると思います。なお、特別に許可を受けていれば、公道でもレベル4のサービスの実証実験ができます。
木村氏:バス事業としてサービスを供する場合には、車両に関する規制のほかにも規制が関係してきます。例えばバス停設置にかかる許認可や、営む事業の性質に着目したサービスに対する規制もあるので、複層的、複合的に規制がかかってきます。

---:なるほど。では、最近見られるタクシー定額乗り放題プランには、どのような規制が関係するのでしょうか。

松村氏:サービススキームによって異なりますが、乗合旅客運送の許可や旅行業の登録でサービス提供しているのだろうと思います。ですので、同様のサービスを検討する際には、どういう形態でやるのがいいのか、そしてどういう規制が関係するのかを把握する必要があります。

データの連携・利活用

またサービスのなかで、異なるモビリティへの乗り継ぎをする場合は、データ連携・データの活用も問題になります。乗客のデータや運行データなどに関して、決済や予約及び移動の位置情報も個人情報保護法によって配慮が求められます。

スーパーシティやスマートシティなどにおいては、いろいろな交通事業者が連携していくことが前提です。MaaSとして、いろいろな交通事業者を1つのアプリでまとめて予約から決済までできるようするためには、乗客の情報を連携し、快適な移動だけでなく、その周辺サービスでも活用できるようなサポートが必要です。

そしてそれは、利便性とプライバシーのトレードオフではなく、プライバシーをきちんと保護したうえで、サービスの発展に繋げていくというのが本筋だと思います。

9月30日開催のオンラインセミナー スマートシティにおけるモビリティ事業~ここだけは押さえたい法律上のポイント~はこちら

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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