自動車流通業界における新たなチャレンジ – アーサー・ディ・リトル・ジャパン 岡田雅司氏[インタビュー]

自動車流通業界における新たなチャレンジ – アーサー・ディ・リトル・ジャパン 岡田雅司氏[インタビュー]
自動車流通業界における新たなチャレンジ – アーサー・ディ・リトル・ジャパン 岡田雅司氏[インタビュー]全 1 枚

EVの普及拡大をきっかけに、サブスクリプションやリサイクル・リユースも念頭においた完成車メーカーによる自動車流通の変化が進んでいる。「ディーラーならではの強みを活かした新規領域の展開が、将来的な事業成長・継続へのカギを握る」というアーサー・ディ・リトル・ジャパン プリンシパルの岡田雅司氏に話を聞いた。

日本における自動車流通業界の新たなチャレンジの事例を紹介し、その将来像と方向性について展望する無料のオンラインセミナー「自動車流通業界における新たなチャレンジ~Honda Cars 川越・横浜トヨペットの取組み~」が7月28日に開催されます。各社のインタビュー記事やセミナー詳細はこちら

業界を俯瞰し、企業に寄り添う

---:まず御社アーサー・ディ・リトルについてご紹介ください。

岡田:はい。アーサー・ディ・リトル・ジャパン(以下ADL)は、世界最古のコンサルティング会社として1886年に設立された経営戦略系のコンサルティング会社ですが、創業来、経営と技術の融合をテーマの一つとしてきたことが特徴です。また、ありきたりのフレームワークにはめていくのではなくて、きちっと一つ一つの業界・会社の皆様に寄り添うという意味で、「Side by Side」で、すべての企業は固有であるという思想に基づき、フルカスタマイズでご支援させていただくことを前提に取り組んでいます。

一般的に、コンサルティング会社として一つの業界を支援する際に、特定の民間企業を支援することが多いと思いますが、弊社の場合は、個別の一企業に対してのみならず、その業界に関係する官公庁や業界団体に対するご支援まで実施しているのも特徴です。自動車業界においても、個別の完成車・自動車部品メーカーの支援に加えて、関係省庁や自動車工業会等の業界団体等、民間企業以外へのご支援も実施させて頂いており、業界全体の永続的な発展への貢献を目指しております。

自動車業界における最近の動向として、俗に言うCASEトレンドやDX(デジタルトランスフォーメーション)が徐々に進展する中、特にカーボンニュートラルの潮流を契機としたEV化の進展が自動車流通・販売店側へ非常に大きな影響を与えていくと考えております。ですのでこの局面で、利益を生み出すポイントであるディーラーや小売に対しての支援や、危機意識や課題意識などをお伝えする場を持ちたいと思ったのが、このセミナーを開催させていただくに至った経緯です。

---:今までの御社の経験を活かした、自動車流通業界の支援が可能ということでしょうか。

岡田:そうです。民間企業のみならず官公庁や業界団体へのご支援も通じた業界全体に対する俯瞰的な視点に加えて、自動車流通の現場に近い経験を有するメンバーもいるのが我々の強みです。また、自動車流通は各国・地域毎に各国・地域に根差した異なる発展の歴史がありますが、弊社はグローバルファーム故、日本だけでなくグローバルな視点も持っているからこそ、流通業界の皆様に伝えていけることがあると思っています。グローバルトレンドも含めた自動車業界全体のトレンドに加えて、各国・地域の違いも踏まえた地に足ついた視点・知見の双方を活用したご支援が可能であるのが特徴点です。

EVをきっかけに自動車流通が変わる背景

岡田:完成車メーカーと自動車流通業界、つまり小売店やディーラーは、多くの場合系列ではあるものの、別資本の会社が大半を占めているのが実態です。特に日本の場合、このような製販分離が戦後から色濃く成り立ってきたのが大前提としてありました。

しかし、近年、グローバルな視点から見ると、その概念が徐々に崩れかかる局面に来ており、完成車メーカー側が自動車流通が担ってきた川下側の領域により一段踏み込む動きが出てきております。

これには二つの理由があります。新型コロナが拡大も伴ってより一層広がったデジタル化(DX)の進展と、欧州に端を発したカーボンニュートラルの取り組みの中で、EV化の波が日本国内においても徐々に顕著になってきたことの二点です。

デジタル化も重要なトレンドではありますが、むしろEV化の進展が、他国と比べると日本は圧倒的に遅いものの、いずれ来る世界として、EVが流通構造をより大きく変えていく契機になると考えています。

日本でも、各国のカーボンニュートラルの潮流を受けて、2035年にはハイブリッド含めた電動車の販売台数比率目標を100%にしていくという流れがあります。これに伴い、電動車の中でのEVの販売台数比率も、より一段踏み込んで、欧州や中国ほどのスピードではないものの、中長期的には日本でも広がっていくと我々は理解しています。

EVにおけるバッテリーコストは、コスト低減が続いていったとしても技術的なブレークスルーが無い限り、従来の内燃機関車と比するとコスト高であるのが実態です。完成車メーカーとすればこのコスト高な状況を乗り越えるべく製販分離の概念を崩していかなければならない、もしくは崩した方がメリットが大きい世界になるという点が、EV化のトレンドの中で一番大きな変化点であると考えています。

---:メーカーが直販を始めるということですか。

岡田:直販は、あくまでも川下側を抑えていく一手段に過ぎない、販売の手法が変わっただけ、というのが我々の理解です。なぜ直販しなければならないのかという目的がむしろ大切だと思います。

最終的にEV化の一番のポイントは、コスト高になる中で、バッテリーをいかに有効活用していくか、だと考えております。例えばフォルクスワーゲンは、自社でバッテリーのセル工場を作り、バッテリーの流通をできる限り差配しながらリユースもしくは最終的なリサイクルまで回しながら工場に返していくというクローズドループのモデルを作ることによって、バッテリーコストを下げつつ、サステナブルな世界観を描いています。欧州ではこれがトレンドになりつつありますし、米国でも、流通構造に違いはあれどGM、フォード、テスラも近しいの思想であると理解しています。

EV化によりバッテリーのバリューチェーンマネジメントが求められていく中で、それをより完成車メーカー側が差配しやすくするための手段の一つとして、デジタルを活用した販売手法が拡大していくというのが我々の考えです。地域や完成車メーカーによっては直販を志向するところもあれば、販売店・ディーラーを受け渡しに活用していく等、その普及の仕方はかなり多様化していくと考えております。直販が先にくるというよりも、あくまでもバリューチェーンマネジメントのためのイネーブラーの一つ、という位置づけです。

他にも販売金融の手法としてサブスクが注目されているのも同様の理由と考えております。サブスクは6年~10年のあいだは販売金融子会社がコントロールし、契約が終わったタイミングで、車とバッテリーが確実に返ってくる形になりますので、回収・リサイクル・リユースのコントロールをしやすくなる取り組みであると考えます。このようなものが増えていくところが一つのポイントになると思います。

---:整理すると、バッテリーのコストが課題として挙がる中で、完成車メーカー側としては、クローズドループというエコシステムも含めたバッテリーのマネジメントを考えていて、そのために適した販売方法を取っていくだろうということですか。

岡田:そうです。勿論、EV市場黎明期においては、バッテリーの性能要件を踏まえて回収しやすい体制を整える、という品質の観点もあると理解しております。

---:EVを契機に、それがサブスクであったり場合によってはデジタルを活用した直販であったり、完成車メーカーや直営ディーラーを活用した囲い込みが今後増えていくのではないかという流れですね。

岡田:その通りです。ただ、実態としては100%クローズドループにしていくのは不可能です。特に日本の場合は、中古車輸出の比率が大きい国でもあるのでなかなか難しいですが、できる限りそういったコントロール下に置くような取り組みをしなければならない時代がくると思います。

そうなってくると、これまでも完成車メーカーに紐づかない独立系事業者と付加価値の奪い合いを行ってきた訳ですが、自動車ディーラー側は完成車メーカー側と付加価値のカニバリが一定発生していく形になると思います。ディーラー側に求められているのは、新たに完成車メーカーとの付加価値の綱引きの中で、新しい収益源を確立していけるかどうかが大きなポイントの一つになってきます。

効率化だけではサステナブルな未来はない

---:独立系のディーラーの立場になって考えると、自分たちがいくら頑張っても、大きな流れとしてはビジネス機会が狭くなってくるような心境になってしまいますが、これを打破するヒントはあるのでしょうか。

岡田:こうしたトレンド自体が日本においてマスを占めていくにはそれ相応の時間を要するとは考えております。足元日本市場では販売台数は減少傾向も、保有台数ベースでは横ばいもしくは微増傾向にありますから、この堅調な従来事業を基盤としながら、萌芽が見え始めているこのタイミングで新しいチャレンジができるかどうか、が中長期的な会社のサステナビリティを分けると我々は考えております。

「店舗の統廃合を進めていきましょう」「デジタルを活用して自動車販売もしくはメンテナンスを効率化していきましょう」「顧客との接点を強めていきましょう」といった従来事業を効率化、強化していく取り組みは勿論重要です。自動車流通業界におけるDXの話はいろいろありますが、そこからもう一段先、もしくは戦う場所を転じたような取り組みがないと、本当に中長期的な視点で持続的ではないというのが、今回のEV化が進展した後の世界だと思っています。

新たなチャレンジをどこまでやれるかを、セミナーのメインのトピックとして皆様にお伝えしたいというのが、今回の趣旨です。

ディーラーによる新規事業の成功事例とは

---:今回のセミナーでは、新しいチャレンジへのヒントが得られるのでしょうか。

岡田:はい。新しいチャレンジに向けて、ポイントの一つ目は、必ずしも完成車メーカーとの関係性に依存しない形で自動車関連バリューチェーンのビジネスを広げること、二つ目は、自分たちの強みである実店舗や人員資産を活用して、自動車以外のところも含めた新たなチャレンジをしていけるか。三つ目は、ディーラー・販売店は地域に根ざしたビジネス展開を歴史的に続けてきましたので、その地域コミュニティーの中での付加価値をどこまで広げていけるか、という三つがポイントとして挙げられると思います。

一つ目のポイントは、これまでも複数の完成車メーカーと販売店契約を締結してディーラーを展開するとともに、独立系の中古車販売、輸出入を担う会社も運営する企業が実際におります。また、EVを契機に完成車メーカーフリーで整備を担う動きも出てきております。

二つ目や三つ目の視点は、まさに今回のセミナーにご登壇いただく2社からお話し頂ける点と考えております。自動車ディーラーほど、地域経済において質の良い営業人員や店舗をもつ業界は中々存在しないのが実態であり、そこをいかに活かしていくかがポイントになると考えております。また、全国規模に広げていくというよりも、地域に根ざしながら、自動車以外の部分に対しても業容を展開し、より地域との繋がりを深めていき、ローカルビジネスを突き詰めていく方向性もあると考えております。

実際に取組を進められている企業の皆さまからもお話を伺いながら、今回のセミナーを通じて、この新しいチャレンジの重要性をお伝えしていきたいというのが我々の思いです。

勿論、その地域ごと、もしくは自分たちの会社ごとに持っている規模も違えば人の特性があるので、必ずしもその事例をまねすればすべての会社が上手くいくという訳ではありません。その最適解は、それぞれの会社ごとにあるというのが我々の理解です。今回のセミナーが、その最適解を考えるきっかけになればと考えております。

岡田氏が登壇する無料のオンラインセミナー自動車流通業界における新たなチャレンジ~Honda Cars 川越・横浜トヨペットの取組み~は7月26日(火)正午申込締切。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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