安全な自動運転レベル3の実現とさらなる進化 – 本田技研 エグゼクティブチーフエンジニア 杉本洋一氏[インタビュー]

安全な自動運転レベル3の実現とさらなる進化 – 本田技研 エグゼクティブチーフエンジニア 杉本洋一氏[インタビュー]
安全な自動運転レベル3の実現とさらなる進化 – 本田技研 エグゼクティブチーフエンジニア 杉本洋一氏[インタビュー]全 3 枚
ナカニシ自動車産業リサーチ 代表 アナリストの中西孝樹氏がモデレートする連続セミナー『中西孝樹の自動車・モビリティ産業インサイト』第12回は、株式会社本田技術研究所 先進技術研究所 エグゼクティブチーフエンジニアの杉本洋一氏をゲストスピーカーに迎え、10月28日に開催される。セミナーはこちらから。

2050年交通事故死者ゼロ(*)という高い目標に向けて、ホンダはどのようにアプローチするのか。また世界初の自動運転レベル3を実現した『レジェンド』の技術的なバックボーンはどのようなものなのか。セミナーの見どころについて杉本氏に聞いた。

【画像全3枚】

*2050年交通事故死者ゼロに向けた、先進の将来安全技術を世界初公開
https://www.honda.co.jp/news/2021/c211125.html

世界初の自動運転レベル3を実現した技術的な裏付け

---:まずセミナーのテーマである自動運転レベル3についてお聞きします。レベル3を実現したレジェンドには、どのような技術的な裏付けがあったのでしょうか。

杉本:まず理解していただきたいのは、運転自動化のレベル2とレベル3の間には、大きな壁があるということです。レベル2までは、あくまで運転支援、レベル3以上が自動運転です。

安全な自動運転レベル3の実現とさらなる進化 – 本田技研 エグゼクティブチーフエンジニア 杉本洋一氏[インタビュー]安全な自動運転レベル3の実現とさらなる進化 – 本田技研 エグゼクティブチーフエンジニア 杉本洋一氏[インタビュー]

自動運転とはつまり、システムが運転をつかさどるということですので、安全技術ガイドライン(*)にあるように、「合理的に予見される防止可能な人身事故が生じない」ということが求められます。分かりやすく言うと、自動運転のシステムのせいで事故が起きるようなことがあってはいけないということです。

*国土交通省自動車局 2018年9月発行 自動運転車の安全技術ガイドライン
https://www.mlit.go.jp/common/001253665.pdf

そのために自動運行装置(カメラ・レーダー・LiDAR・360°状況検知・安全論証・実車/シミュレーション検証など)を開発したのですが、新しい技術も開発し、その安全性を証明するための論証というスキーム、あるいは、いろいろな検証をするための仕組みをつくることによって、初めてこの壁を乗り越えることが可能になりました。

システムの構成ですが、まず、自車の位置を認識するためのマルチGNSSです。よくGPSといわれるものです。これは「みちびき」(日本の準天頂衛星システム)の情報も使っています。

そして高精度地図についてです。これは高速道路の車線の形状などが入っている地図で、道路工事などで車線形状の変更があればアップデートが必要になるので、定期的にサーバーからデータをダウンロードしてアップデートをかけます。

---:高精度地図というのは、ダイナミック基盤のHDマップのことですか。

杉本:そのデータがベースになっているものです。それから外界認識のセンサーとして、前方のカメラは2台で冗長化しています。それからレーダーとLiDARですね。ミリ波の電波を使ったレーダーと、レーザーを使ったLiDARが車両の全周囲に5台ずつ付いています。それぞれサブECUで一度情報を処理して、メインECUに情報を送ります。

加えてドライバーモニタリングカメラも搭載していて、ドライバーがきちんと運転を引き継げる状態にあるかを見守っています。そして、メインのECUで行動計画を立て、システムがどういう状態にあるかを分かりやすくドライバーへ伝えるためのHMIを装備しています。

そして、実際に車を制御するアクチュエーターですね。ここも特に重要な「止まる」のアクチュエーターであるブレーキと、「曲がる」のアクチュエーターであるEPS、つまり電動パワステに関しては冗長化、二重化を図っています。電源系に関しても、セカンドバッテリーを設けて二重化を図りました。

MRMはレベル3にもあるべきと判断

杉本:また、自動運転レベル3においてもミニマル・リスク・マヌーバー(*)を装備することにしました。

*ミニマル・リスク・マヌーバー(MRM)とは、人間がシステムから運転を引き継げない場合には、システム自身が車両を安全に停車させる技術のこと

ドライバーが万が一運転を受け取れない状態にある時に備えて、やはりこのミニマル・リスク・マヌーバーの機能を設けようということで、国土交通省の基準に先駆けて、2017年にはこの導入を発表しました。

---:ずいぶん早かったのですね。

杉本:はい。安全な運転交代要求をするために、HMIで徐々に強く運転操作要求を出し、それでもドライバーの反応がない場合には、緊急時停車支援機能で車を止めにいきます。

一般道での自動運転レベル3に向けて

---:今後について、交通事故死者ゼロに向けてどのように進化していくのでしょうか。

杉本:(レジェンドでは)高速道路は歩行者や自転車がいない比較的シンプルな環境ですので、まずここでレベル3を実現しました。

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ただ、一般道では非常に難しいシーンがあり、そこに対してはやはり高度なAIが必要であると考えています。それによって、危険に近づかない予知・予測や互いに分かり合える協調行動を実現していきたいと考えています。

われわれの人工知能の考え方として、協調人工知能(Cooperative Intelligence)というコンセプトを掲げています。

われわれのモビリティの中に人工知能があるわけですが、人の意図や状態をきちんと理解し、機械の意図や状態もきちんとコミュニケーションを取って人が理解できる。同じように、周りの交通参加者や交通環境に対しても協調して、共存できる。そのような人工知能を目指したいと考えています。

その中で、まず予知・予測で熟練ドライバーのような予防安全運転を実現したい。そのために、交通参加者の行動を読む、また潜む危険に備えるという、いわゆる「かもしれない運転」ができるようにしたいという取り組みを進めています。

具体的には、歩行者の顔や体の向きなどを検知して、そのあとの動きを予測するという取り組みをしています。歩きスマホでふらふらしている人がいれば、余裕をもってよけたり、向こうからやってきた自転車があれば、道路を横断するかもしれないと予測し、あらかじめスムーズに減速したり、子どもがこちらを向いたので一度停止したり、という判断ができるようになっています。

---:歩行者の様子を検知して、次にこんなふうに動くかもしれないというリスクを評価しているということでしょうか。

杉本:その通りです。それから、潜在リスクの予測についてです。渋滞している対向車線の車間から歩行者が飛び出すというのはよくあるシーンですが、こういう状況をしっかり理解していないと、歩行者が見えてからでは止まりきれない状況になりかねません。

ですので、そのような可能性があるということを理解して、もし距離を取れない場合であれば徐行をする、などという判断をしています。できるだけ距離を取りながら走行して、歩行者が検知されればブレーキをかけ、歩行者が反対方向を向いたのであれば動き出す、という動きですね。

---:賢いですね。

杉本:リスクに直面してから緊急自動ブレーキをかけることもできますが、こういった知能化の技術と、さらにドライバーがそのリスクを理解しているかどうかも検知しておいて、できるだけリスクに近づかないようにしていこうという取り組みをしようとしています。

外界を認識してリスクの予測判断をする時に、ドライバーがそれに気が付いているのか、気が付いていないのか。気が付いていないのであれば、早めにお知らせしてあげようというコンセプトを今つくっています。

ドライバーに対しての注意喚起をLEDの発光で促し、それと同時にシートベルトを少し引っ張ることで、気を付けた方がいいことをできるだけさりげなく教えるような取り組みをしています。

また、例えば右車線に車線変更をする時に、後方からバイクが近づいていることをドライバーが気付いていない場合には、立体音響で後ろからバイクが来ていることをお知らせします。

---:立体音響というのは、右側から警告音が聞こえるように音が出るということですか。

杉本:そうですね。それから、(他の交通と)協調しながら走ることにも取り組んでいます。渋滞しているところの合流で「入れてほしい」という意志表示は、人間でもなかなか難しいものですが、自動運転では、一度左に鼻先を振って「入れてほしい」という意志表示をします。その時に後ろの車が減速してくれたら、すかさず入っていくと。

---:すごく人間っぽいですね。こういう機能は初心者にもありがたいですね。

運転支援レベル2の進化

---:レベル3のHonda SENSING Elite とともに、レベル2も新世代のHonda SENSING 360がありますね。

杉本:そうですね。レベル3に関しては、高速道路の自動運転から、自動走行領域の拡大という開発を進めていくのですが、自動運転の普及にはまだ時間がかかりますので、ここで培った技術を、運転支援の進化につなげていくため、360度全周囲センシングにして運転をサポートするという機能を投入しようとしています。

---:これは普及価格帯のモデルにも搭載されるようですね。

杉本:はい、2030年には先進国で販売するすべてのモデルへ適用していこうと計画しています。

---:事故ゼロに向けて、レベル2もより性能を高めていくということですね。

杉本:そうですね。

杉本氏が登壇する10月28日開催のオンラインセミナー『中西孝樹の自動車・モビリティ産業インサイト』はこちらから。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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