進化する中国新興EVブランドの車室内デジタルコンテンツは…日本総研 シニアマネジャー 程塚正史氏[インタビュー]

進化する中国新興EVブランドの車室内デジタルコンテンツは…日本総研 シニアマネジャー 程塚正史氏[インタビュー]
進化する中国新興EVブランドの車室内デジタルコンテンツは…日本総研 シニアマネジャー 程塚正史氏[インタビュー]全 1 枚

SDVに注目が集まるなか、あらためてテスラの先進性が評価されているが、実は中国市場において、テスラとはまた違う方向性で、新興EVブランドが車室内空間の変革を果敢に進めている。それらの実際の事例と共に、車載コンテンツ市場とその可能性について、中国の自動車市場に詳しい株式会社日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャーの程塚正史氏に聞いた。

程塚氏は、11月15日に開催される【オンラインセミナー】「車室内デジタルコンテンツの進化の現在地と今後の展望~中国の新興EVブランドの事例紹介とともに~」に登壇する。この記事で紹介する事例のほか、日本人から見ると突飛な発想でありながら、なにかしら可能性を感じさせる中国メーカーの多様な提案を紹介しながら、車載コンテンツに関連するソフトウェアや、周辺メーカーに広がるビジネスチャンスについて論じる。セミナー題目は以下の通り。

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車室内デジタルコンテンツの進化の現在地と今後の展望
~中国の新興EVブランドの事例紹介とともに~
1.ポストCASEの自動車産業
(1)予定された未来と見えない未来
(2)エンドユーザーからも望まれるConnectedによる変化
2.要素技術が導く新たなクルマ
(1)各種要素技術の進化
(2)現在の量産車種に垣間見る方向性
(3)「実験市場・中国」で進む様々なトライアル
(4)自動車の価値そのものの変化
3.車載コンテンツ市場の可能性
(1)デジタルコンテンツの社会的意義
(2)産業構造の大変化
(3)今後の進化が期待されるミッシングリンク
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HMIはセンシング機能を持つようになっている

---:セミナーの見どころについてお聞きしたいと思います。テーマの一つに要素技術の進化とありますが、これはなにを指しているのでしょうか。

程塚:ヒューマンマシーンインターフェースは、人間に対するアウトプットとしてのHMI機器であり、インプットとしてのセンシング機器でもあり、ここの要素技術が進んでいると捉えています。HMI機器の視覚の領域では、ディスプレイが大型化しているのは当たり前の話ですが、日本精機などによるヘッドアップディスプレイのように窓に何かを映すという技術も進化していますし、窓自体がディスプレイになるという世界も想定できると思います。また将来的にはホログラムが使えるのではないかという話もあります。

聴覚においても、もともと車の中は、音響に関する機能は高度化されていましたが、最近進んでいるのはドルビーのようなソフトウェアによる音響の制御です。大がかりなハードウェアを搭載しなくても、立体音響を表現するのにソフトウェアで制御できるようになっています。そのほか、ハプティクス技術(*)も進化していますし、この後お話する中国の自動車にもつながりますが、嗅覚を刺激するような装置が搭載されていたりして、味覚を除く五感が車の中で高度に刺激できるという状況になりつつあります。

*ハプティクス技術:タッチパネルやジェスチャー入力などの動きに対して、触角を通じてフィードバックする技術。ボタンがないのにクリック感があるタッチパネルなど。

---:嗅覚ですか。それはまた意外ですね。

程塚:センシングに関しても、表情分析は自動運転システムとともに実装されつつありますが、これからは表情分析だけではなく、AI スピーカーと合わせて声音の分析や、体温や心拍などバイタルサインを取ることにより、疲れや眠気、ストレス、さらには喜怒哀楽全般を分析できるようになります。もちろんメディカルレベルの分析はかなり困難だと思いますが、インフォテインメントで使うには十分な精度で取れるイメージです。なので、五感刺激と喜怒哀楽の分析が要素技術から導き出される進化の方向性なのかと捉えています。

---:感情を読み解き、五感に訴えるわけですね。

進化したハードウェアで新たな体験を提案

程塚:そういう方向性を考えたときに、実はテスラよりも中国新興ブランドのほうがいろいろな動きを見せていると考えています。具体的なブランドでいえば、中国の新興ブランド御三家のNIO(蔚来汽車)、Xpeng(小鵬汽車)、Li Auto(理想汽車)、これら3社の頭文字をとって蔚小理(ウェイシャオリー)と呼ばれる3社が一番進んでいるといわれています。

さらに、IT 企業が関わっている、あるいは主導しているブランドでのコネクティッドサービスの進化が著しいですね。ファーウェイと北京汽車がやっているArcfox(極狐)であり、アリババと上海汽車がやっているIM Motors(智己汽車)です。また、ファーウェイ直下のブランドとして注目されているAITO。このあたりのブランドが、いろいろなコネクティッドサービスをしているブランドとして注目されています。

---:なにか先進的な事例はありますか。

程塚:HMIやセンシング機能などハードウェアの進化と、コンテンツとしてのソフトウェアが高度に連携した事例として、車内の瞑想アプリケーションがあります。

---:車内で瞑想、ですか。

程塚:車の中がまさに瞑想の雰囲気になるアプリで、どういうことかというと、シートはリクライニングポジションになり、マッサージ機能が働いています。アンビエントライトが落ち着いた雰囲気を醸し出し、窓は開いていたら閉まって調光ガラスになって、外の光が入ってこないようになります。スピーカーからは瞑想に適した音楽が流れ、エアコンも瞑想に適した少し涼しいぐらいの温度になります。香りもマインドワンダリングできるような香りを発します。そして、瞑想の時間がそろそろ終わりになると、シートが勝手に起きてきて、照明が明るくなってきて、アップテンポな音楽に変わっていきます。

まさに五感を刺激するいろいろな装置をソフトウェアで制御して、車の中での体験ができるようになります。これが車ならではのコンテンツということでとらえています。受け入れられるかどうは未知数ですが(笑)

---:しかし、車内であれば遮音も効いているし、照明もアンビエントライトで雰囲気を出せますし、音響もいいですから、リビングでやるよりもよっぽどいい環境ですよね。

程塚:そうですね。もしかしたら車の中でこそ実現できる体験という話にもなるかと思います。

新たなユーザー体験が価値を生む

---:移動する以外の、要するにドライブ体験とは関係のないユーザー体験を、いろいろな方向で追求しだしているんですね。

程塚:そうですね。中国の企業はそういうところに貪欲ですよね。既存の車メーカーでそういうコンテンツ、ソフトウェアを導入しようとしたら、まず企画がつぶされると思います。瞑想アプリが何の役に立つのかと(笑)

---:一見突飛なアイデアを真面目に追求しているところが面白いですね(笑)

程塚:そうだと思います。いろいろなコンテンツが試されて、そのなかには普及しないもののほうが多いかもしれません。でもそういうトライアルをやっていく中で、いろいろな可能性が見えていくのではないでしょうか。

---:クルマというハードウェアを使った、いろいろな提案がありそうですね。

程塚:瞑想アプリに限らず、移動中に新しい体験ができることで、一緒に移動している家族や恋人とかともっと仲良くなれるとか、これまで興味がなかった目的地に行ってみたいと思うようになるとか、そういった価値が生まれてくるのではないか、それを実現するのはコンテンツなのではないかと考えています。

そうなると、必ずしも車メーカーがコンテンツを作るという話ではなくなるのかとも思っています。先ほどの瞑想アプリも、外部のアプリケーションベンダーが作っているもので、サードパーティの役割が重要になるかもしれません。新しいアイデアを生み出すのに、外部のプレイヤーの役割が大きくなる、その巻き込みが大事なのではないかということをお話できればと思っています。

程塚氏が登壇するセミナーは11月15日開催。詳細はこちら

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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