ランチアが突然の復活宣言、タイヤすらない“オブジェ”と新ロゴが示す新生ランチアの姿とは

ランチアの新ロゴとデザイン・スタディを発表したルカ・ナポリターノCEO
ランチアの新ロゴとデザイン・スタディを発表したルカ・ナポリターノCEO全 20 枚

去る11月28日の欧州時間14時より、ランチアがトリノのパラッツォ・レアーレ・ディ・トリノにて「ランチア・デザイン・デイ」を開催し、近い将来に登場するランチアのデザイン・スタディとして『Pu+Ra ZERO』(ピューラ・ゼロ)を発表した。

ランチアの新ロゴと、タイヤすらない“オブジェ”

壇上にてスピーチしたランチアのルカ・ナポリターノCEOは、ランチアが2024年前半に新型『イプシロン』を発表する予定であり、ステランティス・グループ傘下で電動化ブランドとしてリブートするランチアには、5つの柱があると述べた。

ランチアの新ロゴランチアの新ロゴ

ひとつ目は、アルファロメオやDSと並んでステランティス・グループ内でハイエンドを担う以上、それに相応しいクオリティは欠かせない。ふたつ目は電動化で、新型イプシロンを含め2028年にかけて100%電動化されたラインナップを形成していくという。みっつ目はサステナビリティで、インテリアの目に見える表面の50%以上をリサイクル可能な素材にするとか。4つ目は新しいアイデンティティ、これは後述する新ロゴが象徴的に表すところだ。そして5つ目は新たな流通モデルを構築することで、オンラインでの販売をはじめとするネットワーク化を視野に入れているという。

◆プレミアム市場での再出発を掲げた新ロゴ

旧フィアット・グループの時代に、故セルジオ・マルキオンネ社長が揮った大ナタにより陰に隠れてしまったランチア・ブランド。復活させるにあたってルカ・ナポリターノCEOは、どう決断し、白紙から新しいデザインを興したか、その道程を分かち合いたいとまず述べた。

ランチアが過去、積み上げてきた伝統とは、イタリアン・エレガンスであることに疑いはない。だがイタリアン・エレガンスとは何か? 視覚的にも触覚的にも聴覚的にも、ファッションや音楽を通じて定義されうるだろうが、それはたった一言で言い表せるもの。それが「EMOZIONE(エモーツィオーネ、エモーションのこと)」だという。

『ストラトス』を筆頭に往年のランチアの名車たち。『ストラトス』を筆頭に往年のランチアの名車たち。

イタリアという国の2000年以上にも及ぶ美の歴史の中で、エモーショナルでいて、新しいエレガンスのコードを打ち立てること、それが常々、進歩的かつ未来的なブランドであり続けてきた、ランチアに必要なことだという。今回の発表の場となったパラッツォ・レアーレとは旧サヴォワ王国の王宮で、トリノはよく言われるようにインダストリアルな大量生産工場の街ではなく、一国の首都としての格、カルチャーを備えた都市といえる。

ランチアのグローバル・デザイン担当のテレーザ・メンディチーノ氏は、新たなロゴについて、次のように説明する。

「過去すべてのランチア・ロゴを研究しました。ここに並べたのは順に、1911年、1957年、直近の2010年のものです。以前のランチア・ロゴは1957年来のデザインをベースとしていて、それぞれ時代ごとのモダンさに着目しつつ、カタチとしての簡素さにこだわって刷新する方向でした。それらから抽出された要素は、3つに集約できます。外枠としてのシールド状の盾、その中に収まったステアリングホイール、そしてランチアの文字を載せてなびくフラッグ。これらの要素を整理して現代風にフラットにしたのが今回発表した新ロゴです。新しいイプシロンをはじめ新デルタ、また新たなフラッグシップに採用されます。LANCIAというアルファベットの書体も、自動車メーカー風よりはファッションの老舗メゾンが用いている雰囲気のクラッシックで優雅なもので、Lを組み合わせたモノグラムともども、ランチアとして相応しい書体、エレガントで署名性あるものを心がけました」

つまり近い将来、プレミアム市場で再出発するにあたり、ランチアは「プログレッシブ・クラシック(進歩的な古典)」なブランドになるというのだ。

◆デザイントップが語るイタリアン・エレガンス

ランチアのデザインチーフ、ジャン・ピエール・プルエ氏と『Pu+Ra ZERO』ランチアのデザインチーフ、ジャン・ピエール・プルエ氏と『Pu+Ra ZERO』

今回の発表にはステランティス・グループの取締役にしてデザインのトップ、そして昨年よりランチアのデザインチーフを兼務しているジャン・ピエール・プルエも登壇した。1990年代に前職ルノーにて初代『トゥインゴ』のエクステリアを担当し、2000年代からPSAに移籍してシトロエンで初代『C4』や『C3』を手始めに、クオリティ感を高めたデザインでブランドの市場での立ち位置を引き上げた、功労者にして立役者だ。今もグループ内はいうに及ばず、メルセデスやBMWなどドイツ・メーカーのデザイン中枢にもプルエ・チルドレンは少なくない。その彼が、2021年6月より、トリノのチェントロ・スティーレに籍を置いて新しいランチアのデザインの指揮を執っているのだ。

イタリアン・エレガンスを新しアイデンティティで継ぐにあたって、ランチア・デザインを率いるジャン・ピエール・プルエは、興奮を隠さない。

往年のランチアの名車たち。往年のランチアの名車たち。

「ランチアとは、時代を超えたモダニティそのもの。ベルトーネやフィオラヴァンティ、ジウジアーロやガンディーニといった名だたるカロッツェリアを輩出したトリノに引っ越して来て、彼らが深く関わった、イタリアを代表する自動車ブランドのひとつを手がけるのですから、エキサイティングでないはずがない。ランチアはつねにヘリテージとモダニティの間で動き続け、イタリアン・デザインとして『アウレリア』や『ストラトス』、『037ラリー』や『デルタ』で、新しいエモーションを作り出してきたのです」

では新しいランチアは、どのような外観をまとうのか? するとプルエはこう答えた。

「建築的で、ルーツに根差したもの、さらにエフォートレス・テクノロジーにサステイナブルな素材が挙げられます。純粋さと過激さを同時に備えるような。ブランドの優れた部分として近未来のランチアは、時代を感じさせず、古びにくく、独特であり、ピュアでベーシック、かつアイコニックで未来的ながら、まごうことなく自動車らしいデザインであるところも、ランチアの伝統的なところです」

◆タイヤすらない“オブジェ”が示す新生ランチアの姿

新生ランチアの方向性を示すデザイン・スタディ『Pu+Ra ZERO』(ピューラ・ゼロ)新生ランチアの方向性を示すデザイン・スタディ『Pu+Ra ZERO』(ピューラ・ゼロ)

あらゆるキーワードが尽くされた後、ナポリターノCEOに促され、来場者たちは会場の奥へと場を移した。そこで二人の手によって、この日の主役である「Pu+Ra ZERO」(ピューラゼロ)がアンヴェールされたのだ。

それは今はタイヤすら備えておらず、通常のコンセプトカーやデザイン・スタディからもほど遠いほどに隔てられた、まさしくオブジェという他ない創造物だが、はっきり進行方向を感じさせつつ、地面から浮いているようで踏ん張り感のある、確かに自動車らしいデザインだ。全体として幾何学的なシェイプに、イタリアの寺院建築を彷彿させるルーフの丸い天窓、そしてストラトスをどこか彷彿させるリアパネルの鋭角オーバーハングに、丸いテールランプを備えている。

新生ランチアの方向性を示すデザイン・スタディ『Pu+Ra ZERO』(ピューラ・ゼロ)新生ランチアの方向性を示すデザイン・スタディ『Pu+Ra ZERO』(ピューラ・ゼロ)

しかもランチア・デザインはインテリアに関して、生きたドライビング・エクスペリエンスをもたらす場でありながら、家で寛ぐかのようなホーム感覚も重視するという。そこにイタリアのデザイン家具ブランドとして名を馳せる、カッシーナと協業する余地が生まれた訳だ。この日、壇上に立ったカッシーナのルカ・フーゾCEOは次のように続けた。

「ランチアとカッシーナ、私たちのパートナーシップにはイタリア的なスピリットと伝統があり、多大なエネルギーを感じています。過去の記憶のみならず、将来についてもカッシーナはランチアと協業し、ハンドメイドの卓越した匠の技にスポットを当てていきます。新しいライフスタイルを、我々の作品を通じて表現すること、既存のものを破る革新的なデザインは、カッシーナとランチアが同じくする展望です。すでに半年近く、我々はともに作業をしています。アウレリアやフラミニアのように、エモーショナルだけどアンダーステイトメント、それでいてドライブ、操りたいと思わせることです」

非常にエッセンシャルでいて、時には過激だからこそ、時代の数歩先を行くクラシックであること。新しいランチアの未来を予言するデザインは、まだ始まったばかりだが、造り手たちを饒舌にさせずにはいられないことからして、イタリアンなエモーションの産物といえそうだ。

《南陽一浩》

南陽一浩

南陽一浩|モータージャーナリスト 1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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