NVIDIAとMediaTekの協業が示唆する、SDVと自動運転車のプラットフォームビジネス

NVIDIAが提供するSDVコックピットの例
NVIDIAが提供するSDVコックピットの例全 4 枚

5月30日から6月2日まで開催された「COMPUTEX Taipei」は、名前のとおりPCやプロセッサの最新技術の国際カンファレンス・見本市だ。本来であれば自動車業界は直接関係ないイベントだが、今年はNVIDIAが車載SoC大手MediaTekとの協業を発表した。この協業が意味するところを掘り下げたい。

産業のAIプラットフォームを目指すNVIDIA

2023年の「COMPUTEX Taipei」の基調講演はNVIDIAの創設者でありCEO ジェンスン・ファン氏の「レイトレーシング」技術の話から始まった。レイトレーシングとは物体に反射する光の状態をシミュレーションすることで画像を生成するレンダリング技術のひとつ。物体の印影やハイライト、映り込み、鏡に映る画像などを実物のように表現できることから、古くからゲーム、CG映画、コマーシャルフィルムに多用されている。

ファン氏は「みなさんの前で話すのはじつに4年ぶりだ」と興奮を隠さない。続けて5年前のNVIDIA GTXによるレイトレーシング画像を見せながら「当時はこれの描画に1時間ほどかかっていた。5年の技術革新により現在は秒はおろかリアルタイムでの動画生成が可能だ」とデモンストレーション動画で会場を沸かせた。

「COMPUTEX Taipei」で基調講演を行うNVIDIAのジェンスン・ファンCEO

その後の発表は、最新のCPU/GPUである「NVIDIA GH200 Grace/Hopper」をベースとしたスパコン、サーバーシステムの機能、リアルタイムシミュレーションプラットフォームである「Omniverse」の紹介が続き、これらの応用分野としてPCやデータセンターサーバー、クラウドコンピューティング、ゲーム・エンターテインメント、産業ロボット、ロボタクシー、ヘルスケアでの活用を紹介した。そして、これらの技術すべてにAIが深く関わるものになっている。プレゼンテーション半ばには、ファン氏のCGアバターがリアルタイムで(AI翻訳の)日本語をリップシンク、フェイシャルシンクを伴って喋るデモも行われた。

MicrosoftのOpenAI(ChatGPT)やGoogleのBardが、AIによるサービスビジネスのUIプラットフォームを目指すなら、NVIDIAはさしずめ産業・工業のAIプラットフォームを目指すといったところだ。

NVIDIAチップレットとオートモーティブSoCの融合

基調講演は、AIベースのビジネスへのパラダイムシフトを示唆するもので、ハイパフォーマンスコンピューティングやAI技術者にはインパクトのあるプレゼンテーションだったが、オートモーティブに関する直接の言及はなく、自動車業界的には少々さびしい内容(COMPUTEXとしては平常運転だが)で、あまり大きな発表がなかった印象を持ったかもしれない。

しかし、NVIDIAはイベントの直前のメディア向けブリーフィング(オンライン)を開催しており、その中でオートモーティブ分野での事前発表とQAを行っている。その発表とは、NVIDIAがMediaTekとSDVや自動運転車に関して車載システム向けのSoC開発で協業・提携するというものだ。MediaTekはスマートフォン向けのSoCやWi-Fi、5Gなど無線通信技術に強い台湾のファブレスチップメーカーだ。オートモーティブでは、「Dimensity Auto」というSoCを開発・提供している。

MediaTekの車載SoC

協業は主に車載システム、とくにデジタルコックピットや外部との通信レイヤーとなる予定だ。両者の協業技術(NVIDIAチップレット+MediaTekのSoC)が、OEMやティア1に供給され製品として日の目をみるのは2026年頃だという。注目したいのは、NVIDIAのCPU/GPU(チップレット)が、IVIやデジタルコックピット向けのSoCが統合ソリューションとして提供されるという点だ。

リリース文と関連資料だけを見ると、両者が新しいデジタルコックピットのUIやデザインを提供するという捉え方をされるかもしれない。だが、この協業の先に見える可能性はそれだけではない。コックピットのディスプレイなどは文字通りのインターフェイス部分でしかなく、ここはおそらくOEMやティア1の要件やデザインで変わってくる部分だ。発表の本質は、AIエンジンと車載SoCの融合が、SDVやロボタクシーの通信・インフォテインメント・車両制御のオープンプラットフォームになる可能性があるという点だ。


《中尾真二》

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