集合住宅のEV充電問題を解決するユビ電 「WeCharge」【特集 EV充電インフラビジネス最前線】

ユビ電 取締役 COOの白石辰郎氏
ユビ電 取締役 COOの白石辰郎氏全 10 枚

日本の4割にのぼる集合住宅の世帯にとって、電気自動車(EV)の購入はハードルが高い。このような状況の改善を図るため、集合住宅への充電器設置を推進する目的で「クリーンエネルギー自動車・充電インフラ導入促進補助金」が2021年からスタートしている。

この補助金を背景として、既設のマンションに充電器を設置する事例が増えるとともに、補助金の手続きや充電器設置のコンサルティング、実際の設置作業を行う企業が登場し注目を集めている。

今回取り上げるユビ電もそのような企業のひとつだ。ソフトバンクの社内起業制度から事業をスタートし、2019年にカーブアウトし企業として独立。「電気の未来を描くんだ。」をスローガンに、充電サービスブランド「WeCharge」を展開してきた。

ユビ電 取締役COOの白石辰郎氏に、サービスの特徴や現在の事業展開、競合他社との差別化ポイントについて聞いた。

従量課金の料金体系を開始

---:まず御社の事業内容についてご紹介いただけますか。

白石辰郎 取締役COO(以下敬称略):EVの時代になるとなぜか、ガソリンスタンドの延長で急速充電スタンドというものが街中にできて、クルマをそこに持って行って充電しなければならない…と思われがちなのですが、200Vのコンセントで充電が可能です。

200Vのコンセントは、ご家庭ですと食洗機やIHクッキングヒーター、ビルトインのエアコンで使われている電源とまったく同じです。電気自動車が普及しているノルウェーでも、所有者の9割以上が自宅で充電しています。集合住宅の方もです。それから、職場でも充電ができるようになっています。

EVについては皆さん、充電時間が長かったり、航続距離が短かったり、充電場所が少なかったり…という点を心配していますが、実際にお持ちの方は自宅充電ができればそこは大きな課題だとは思っていないのではないでしょうか。

EV所有者は基本的に自宅で充電できる環境を持っているため、充電時間の長さや航続距離の短さを課題と思っていない

---:自宅での充電が重要、と言うことですね。

白石:そうです。特に、充電器の設置がなかなか進まない集合住宅への設置に取り組んでいます。東京だと7割の方、あるいは政令都市の中で一番多い福岡市だと8割の方がマンションアパート住まいです。こういった方々は、自分の意思で駐車場に充電器を置くことができないので、そういった状況を解決するため「WeCharge(ウィーチャージ)」というサービスを展開しています。

集合住宅では基礎充電を使えないことが問題

WeChargeは、分電盤やブレーカーなど充電用の機器が入ったボックスと、そこから伸びる複数のコンセントで構成されています。これらのコンセントや充電設備は遠隔でコントロールできるようになっています。

充電の仕方はコンセントに貼ってあるQRコードをアプリで読み込んで、充電する時間、あるいはkWh数を指定して、充電をするというものです。料金はアプリで支払っていただき、我々から施設に対して電気料金の精算を行います。このように、集合住宅やアパート、もしくは職場やオフィスビルなどでも、駐車場に停めたまま充電ができる環境を広めるために取り組んでいます。

奥に見えるボックスに配電盤などが収納されている

---:料金はどのような体系になっているのでしょうか。

白石:料金プランは利用量に応じて用意しています。例えばMiddleという2200円のプランだと、60kWhまでは定額で、それ以上は1kWhごとに42円という形です。そのほか、たまにしか使わないという方にはGuestプランがあります。月額料金はゼロですが、使った量に応じて料金がかかるというプランです。

---:月額プラス従量課金という形で、使う量に応じて選べそうですね。競合他社も同じような料金体系なのでしょうか。

白石:時間課金で設定しているところが多いですね。当社では10月からkWhを計測する仕組みを用意して、従量課金ができるようになりました。当社のすべてのコンセントで使えるようになっています。

---:なるほど。利用者の立場だと、従量課金の方が納得感はありそうですね。どのプランを利用する方が多いのですか?

白石:1kWhでおおよそ5kmほど走れると思いますので、Longプランだと120kWh、つまり月600kmくらい走行できる計算です。日本人の平均が年間8000km、東京都だと年間6000kmですので、Longプランだとちょうどいいかなと思います。

ただ、私たちのお客さまでも、『プリウスPHV』や小型のEVの方もいらっしゃるので、ShortもしくはMiddleプランの方も多いですね。

電力需給に応じた充電が可能

---:充電器を遠隔でON/OFFできると、電力需給に応じた充電ができますね。

白石:はい。電力が逼迫するようなタイミングや、あるいはウクライナ戦争の影響で燃料費が上がって電気代も上昇していますので、適切に充電するということが今後求められてくるだろうと思っています。

イギリスやヨーロッパの事例では、電力が余っている時間に充電するとその際にネガティブプライスといって、電気代を払うのではなく、逆にお金がもらえるというサービスも実際に始まっています。日本でも、お金がもらえるところまではいっていませんが、太陽光発電の発電量が多い時間帯に電気料金が安くなるしくみができています。

WeChargeでは、マンションやアパートに向けて、すべての区画にコンセントを設置できるように提案しているので、電力の需給に応じて充電ができる環境を用意していきたいと考えています。

WeChargeはそれぞれの車室にコンセントを配備

---:すべての車室に充電設備があるというのが特徴なんですね。

白石:競合他社の中には、100台や200台分の駐車場に対して1台か2台の充電器を置いて、みんなでそれを共用して使う“シェア型”と言われるサービスを展開しているところもありますが、私たちとしては、電気が安くなったタイミングで常に充電できるようすべての車室にコンセントを設置できるように取り組んでいるところです。


《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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