BRTやAIオンデマンドバス、グリーンスローモビリティ…独自のポジションを占める茨城の多様性【MaaSがもたらす都市変革】

水戸、ひたちなか、大洗を網羅する「茨城MaaS」

茨城交通のAIオンデマンドバス「MyRideのるる」

着々とメニューを増やす「つちうらMaaS」

BRTは県南エリアでも

つちうらMaaSのAIオンデマンドバス
つちうらMaaSのAIオンデマンドバス全 6 枚

関東地方の1都6県の中で、茨城県は独自のポジションにあると考えている。平地が広く山が低いので、可住地面積は全国第4位であるうえに、日本で2番目に長い利根川、2番目に広い湖である霞ケ浦など水にも恵まれている。よって農産物の生産が盛んで、栗の収穫量やメロンの出荷量など日本一に輝くものが数多くある。

一方で県南や県西は、東京都心から鉄道で1時間以内という通勤圏にあり、新型コロナウイルス感染症の流行による地方移住の流れを受けて、人口増加となっている地域もある。県全体でも人口推移は横ばいで、同じ北関東の栃木県や群馬県とは異なる状況と言える。

この連載では以前、つくば市境町を取り上げたことがあるが、前者はつくばエクスプレス、後者は自動運転に焦点を当てた記事であり、県内には他にもMaaSをはじめとするモビリティサービスの取り組みはあるので、今回はその視点で紹介していく。

◆水戸、ひたちなか、大洗を網羅する「茨城MaaS」

まずは茨城MaaSである。こちらはみちのりホールディングスの一員である茨城交通が2019~2020年度に日立市、京成グループの関東鉄道が2020年度に土浦市で、それぞれMaaSの実証実験を実施したことが契機となる。その後県内統一の動きが起こり、2021年度に県の補助金を活用して「茨城MaaS」の取り組みを開始。スマートフォン向けウェブサイトの形で提供をしている。

現在は県庁所在地でもある水戸市の他、ネモフィラやコキアが咲き誇る海浜公園が人気のひたちなか市、海水浴場や水族館がある大洗町などを網羅。茨城空港や大子町へ向かう高速バスのチケットも買える。ひたちなかエリアでは、市内路線バスとひたちなか海浜鉄道の1日フリーきっぷ、JR東日本・ひたちなか海浜鉄道勝田駅~海浜公園バス1日フリーきっぷなどがあり、現地の飲食店での割引やドリンクサービスなどが受けられる。

ちなみに茨城MaaSで重要な役割を担っている茨城交通は、AIオンデマンドバスやBRTにも関わっている。

◆茨城交通のAIオンデマンドバス「MyRideのるる」

AIオンデマンドバスは「MyRideのるる」と名付けており、2021年7月から実証運行を始め、翌年10月より本格運行に移行している。朝夕は定時定路線としつつ、日中をAIオンデマンドに転換することが特徴で、既存のバス停に、オンラインで設定したバーチャルバス停を追加することで、合計200か所での乗降が可能だ。予約はアプリあるいは電話で受付。茨城MaaSの「高萩市内路線バス1日フリーきっぷ」でも利用できる。

AIオンデマンド交通のシステムは、世界35カ国以上で500を超える自治体、交通機関、民間企業、教育機関等にサービスを提供している米国Via Transportationおよび日本法人Via Mobility Japanが提供している。

BRTは「ひたちBRT」という名称で、2013年に一部で運行を始め、2019年に現在の路線になっている。この地域を走っていた日立電鉄が廃止となったことを受け、日立市が市内の廃線跡を道路化し、茨城交通がバスを運行する公設民営のBRTとしたもので、茨城MaaSの「日立市内路線バス1日フリーきっぷ」で利用できる。

この茨城MaaSで気になるのは、展開エリアの多くが水戸市を中心とする県央とそれより北の県北に集中しており、おおむね水戸市に本社を置く茨城交通の運行エリアと重なることだ。それが理由かどうかは定かではないが、県南の中心都市である土浦市に本拠を構える関東鉄道では、独自にMaaSを進めている。その中から土浦市および隣接するかすみがうら市で展開している「つちうらMaaS」を紹介していきたい。

◆着々とメニューを増やす「つちうらMaaS」

つちうらMaaSはまず2020年度に国土交通省の「令和2年度日本版MaaS推進・支援事業」認定を受けて実証実験が行われた。このときは、ジョルダン「乗換案内」アプリによるキャッシュレス化実験、自転車道(つくば霞ケ浦りんりんロード)における電動キックボード走行実験、土浦市新治地区におけるAIコミュニティバス運行実験、自動運転一人乗りロボットの走行実験というメニューだった。第2弾は2022年度に実施しており、ニュータウンとして整備されたおおつ野の周辺地域でのグリーンスローモビリティおよび小型バスの運行、デジタルサイネージに夜運行状況の表示、スマートフォンアプリ「RYDE PASS」によるキャッシュレス決済が行われた。

そして今年度は、グリーンスローモビリティの運行実験、RYDE PASSアプリでのチケット販売に加えて、AIデマンドバスの運行をメニューに加えている。

AIオンデマンドバスは、土浦駅の北隣にある神立駅の東口地区を運行エリアとしており、おおつ野地区にある土浦協同病院、かすみがうら市の健康福祉施設ウェルネスプラザなど80カ所近くに停留所を用意。以前この連載で紹介した長野県小諸市の「信州こもろ・こま~す」同様、LINE公式アカウントから入る形として、MaaSの敷居を低めるとともに、多彩なメニューを掲載していることも特徴だ。

グリーンスローモビリティは現在、神立駅西口地区を循環するルートを運行。RYDE PASSアプリでは 1枚250円で購入すると、土浦・かすみがうら市内の対象施設や店舗などで300円分として利用できる「つちうらMaaSチケット」が好評だ。

◆BRTは県南エリアでも

つちうらMaaSとは関連はないが、県南にもBRTはある。関東鉄道から分社化された鹿島鉄道の廃線跡を活用した「かしてつバス」だ。鹿島鉄道は2007年に廃止された。当初は代替バスが運行されたものの、渋滞などにより所要時間が増加したことから利用者が大きく落ち込んだ。そこで廃線跡の一部を公設民営方式でバス専用道化し、BRTの実証運行を2010年に開始。2年後に本格運行に移行している。

廃線跡を公設民営によってBRT化するというプロセスでは、ひたちBRTの先輩に当たることになる。さらに2010年に開港した茨城空港とJR東日本石岡駅を結ぶ連絡バスも、BRT専用道を活用することで定時運行に貢献している。

《森口将之》

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