東レ、偏光サングラスでの利用を可能にする新たなHUD技術を開発…フロントガラス全面展開も視野に

東レが将来の「全面AR-HUD」の実現に向けて開発した広幅ナノ積層フィルム「PICASUS VT」を開発した
東レが将来の「全面AR-HUD」の実現に向けて開発した広幅ナノ積層フィルム「PICASUS VT」を開発した全 13 枚

東レは3月18日、斜め方向からの光にのみ反射する特性を備えた広幅ナノ積層フィルム「PICASUS VT」を開発し、有償販売を開始したと発表した。二重像がなく偏光サングラスにも対応できる特徴を活かし、ヘッドアップディスプレイ(HUD)への採用を進めていく考えだ。


安全運転にも寄与するHUD、二重像対策や偏光サングラス対応が課題

HUDは、運転に関連する情報をフロントガラス上に表示することで、少ない視線移動でその情報を確認できることが最大の特徴。そのため、走行中のいわゆる“わき見運転”を減らすことにつながり、これが安全性向上に貢献するとして評価され、主に高級車を中心として搭載が進んできた。

見逃せないのはその高い将来性だ。現時点ではフロントガラスの運転者正面の一部分に速度や交差点案内などの情報表示を行っているのにとどまるが、近年はマップナビゲーションや警告表示などのタイムリーな運転支援情報をフロントウインドウ下部など、より広い範囲に鮮明に表示する新たな投影技術の検討が進み始めている。

さらに、将来的には「拡張現実型(AR)HUD」の開発により、フロントガラス前面を使って近方・遠方の情報を同時に表示する技術が広がっていくと予想されている。

これは、フロントガラス越しの実際の風景に情報を重ね合わせてドライバーに伝えるもので、たとえばナビゲーションと連動して車線移動を促すガイドや、先行車が速度を落としたことを注意喚起として伝えたりもする。このように、HUDの活用範囲は今後ますます拡大していくとみられているのだ。

その一方で、これまでのHUD技術のままでは、二重像の発生や、偏光サングラスを使用すると表示が見えにくくなるという課題を抱えているのも事実。特に偏光サングラスを使う人が多い欧米ではこの課題解決は重要な要素とされていた。さらに「全面AR-HUD」を実現するには多焦点化への対応も欠かせない。

HUDにおける二重像の発生や偏光サングラスで見にくい事象はなぜ発生する?

では、どうしてこのような事象が発生するのか。その理由を紐解いてみたい。

そもそも光は電磁波の一種であり、身の回りにある光は2種類の波長が異なる光“S偏光”と“P偏光”が混じり合った状態で存在している。

一般的には垂直に伝播されるS偏光が活用されることが多く、HUDの映像にもこの光が採用されてきた。ところが、このS偏光の光源を一般的なフロントガラスに照射すると、ガラスの表面と裏面それぞれに反射されることになり、ここで二重像が発生してしまう。さらに偏光サングラスはこの垂直の光を遮ることで眩しさを抑えていることもあり、これが要因でHUDの表示を見えにくくする事象を発生させるのだ。

身の回りにある光は2種類の波長が異なる光“S偏光”と“P偏光”が混じり合った状態で存在する

そこでこの対策として採用されてきたのが、表裏面にわずかな角度を付けた“くさび形特殊ガラス”を挟み込む方法である。この方法を採れば二重像の問題は解決できる。ところが、この方法では車両組み立てラインでの実装が不可欠で、これがコストアップの原因にもなっていた。つまり、これがHUD搭載の普及を阻む要因の一つともなっていたのだ。

加えて、この方法で悩ましいのは、構造上、二重像なしに投影できる面積に限りが出てしまうことだ。そのため、“くさび形特殊ガラス”を使用する限り、二重像なしに全面AR-HUD化することは難しい。さらに偏光サングラスでの表示が見えにくくなる課題も残る。

“くさび形特殊ガラス”を挟み込む方法では、エリア限定で二重像防止は対応できるものの、偏光サングラスや全面展開には対応できない

「P偏光」に対応できるナノ積層フィルムの開発が課題解決に

こうした課題解決のために東レが開発したのが広幅ナノ積層フィルム「PICASUS VT」なのだ。

この課題解決につながった最大のポイントは、光源として従来のS偏光ではなく、斜め方向からの波長を持つP偏光の光を組み合わせて使うことにある。実は、このP偏光の光源を使えばこれらの課題解決につながることは、以前からわかっていたようだ。しかし、それが実現できなかったのは「これに対応できるフィルムの開発ができていなかったから」と、東レ フィルム研究所 研究員の松居久登氏は話す。

広幅ナノ積層フィルム「PICASUS VT」記者説明会。左が東レ フィルム研究所所長の長田俊一氏、右がフィルム研究所 主任研究員の宇都孝行氏

《会田肇》

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