中国OEMのスピード感を危惧する声は少なくない。中国国内市場では、BYD(比亜迪汽車)、CHERY(奇瑞汽車)、Geely(吉利汽車)。理想汽車、シャオミといった新興ブランドの躍進の陰で、日欧OEMが軒並み販売台数を落としているからだ。しかし、上海モーターショーを取材すると、今年の日欧サプライヤー、OEMは少し様子が違うようだ。
中国市場でビジネスを拡大するサプライヤー
現地の消費者に受け入れられるには、単にNEV(New Energy Vehicle:EV、PHEV)というだけでなく、L2+といった自動運転機能やさまざまなアプリと連動するコネクテッド機能と先進IVIシステム、さらにはエンタメ性やコミュニケーション機能を持った灯火類(マトリックスOLED、プロジェクター)といったギミック的なものまで不可欠であり、それらの新車を18か月という短期間で市場に投入していく必要がある。
これに対応する主要OEMは、バッテリー調達や新しいE/Eアーキテクチャに対応するための工場ラインやサプライチェーンの再編など大きな投資がともない、規模が大きい分どうしても意思決定や動きが遅くなる。そのため、現地合弁企業から人気のNEVの供給を受けるか、現地OEMのプラットフォームをベースにアウディやトヨタブランドの車両を開発する戦略が広がっている。
苦戦するOEMと同様、サプライヤーも楽観できる状況ではないが、ティア1サプライヤーは、幅広いポートフォリオによって柔軟に対応しようとしている。というのは、NEVを製造販売しているのはBYDやGeelyのような比較的新しいOEMだけではない。広州汽車、第一汽車、上海汽車、北京汽車、長城汽車といった歴史あるOEMも次世代EV、PHEVを開発投入している。上海ショーでも、OEMとサプライヤーのホールは分かれているが、ボッシュやファーウェイ(HUAWEI)は車両と同じエリアに出展していた。
少し前の中国OEMは、欧州からエクステリアデザイナーを招聘し、中国車のデザイン変革に成功している。現在は、国内外のサプライヤーを駆使して、L2+自動運転、インテリジェントコックピット、次世代IVIを実装している。2021年、2022年にミュンヘンやパリで発表されていたソフトウェア、ECU、センサー、熱マネジメント、ライティングに関する技術が現在の中国車では当たり前に搭載されている。
すべてのOEMがテスラのような体制および車両アーキテクチャでSDVを実現できるわけではない。車両ハードウェアからクラウドソフトウェアまでを統合管理するECUも、既存OEMのアーキテクチャでは実現容易ではない。インテリジェントなセンサーやモジュールからゾーンコントローラー、その先を見据えたHPCまでをカバーしているティア1サプライヤーは、中国市場で事業を拡大している。
垂直統合型ではない中国NEV・SDVに欠かせないパートナーシップモデル
今回、日欧OEMともに新型NEVの投入で活気付いている。前述の中国戦略で、トヨタ、日産、ホンダ、マツダは新型EVを投入している。各社ともに日本で販売しているEVより、内外装のデザインも洗練されEV、SDVとしての機能(L2+自動運転、デジタルコックピット、コネクテッド機能)も惜しみなく搭載。アウディは中国専用のロゴとプラットフォームを投入し、日米欧とは違った顧客層を取り込もうとしている。
各社が中国市場での巻き返しを狙う中、サプライヤーも負けてはいない。NEV、SDVの洗練されたコックピットや自動運転技術は、垂直統合に向いているとされているが、現実にはコスト的な課題もありサプライヤーの力が必要となる。各社のNEV、SDVを支えているのは、ドメイン単位、ゾーン単位でソリューション、コンポーネントを一式で提供できるサプライヤーだ。したがって、彼らのブースは新車のショールームのように洗練されていた。それだけ力を入れているということだろう。
ヴァレオは1994年から中国市場に進出しているが、すでに中国でのビジネスの60%が国内自動車メーカーによるものとしている。スマート電動化、ADASおよびUX、ライティング、アフターマーケットを4つの重要分野として、デジタルコックピットとライティング、eアクスル、HVACとNEV、SDVのコアコンポーネントを押さえている。
ヴァレオの戦略:コストパフォーマンス重視のインテリジェントモジュール
ブースおよびホテルの駐車場を利用した特設会場で、主な技術を取材した。eアクスルでは、液冷放熱フィンを特殊製法で薄くして小型化を実現したインバーターやDC/DCコンバーター、オンボードチャージャーを展示していた。モーターやギアボックス(差動ギア)などを含めると全部で6in1まで可能だ。担当者によれば中国OEMでの主流は6in1だという。展示は基本的な3in1タイプだったが、インバーターやECU部分がかなり薄型だ。OEMの仕様に応じて任意の組み合わせが可能で、ハウジングを含めて設計する。

ADAS系では、世界初とするLiDARのクリーニングシステムを開発したという。小型ポンプとノズルによってLiDARの泥、汚れを落とし、雪や凍結にも対応する。L2+では、ドライバーの監視下ではあるが各社ともエンドツーエンドの自動運転を目指している。地味な技術だが天候や悪路などの物理的な問題には物理的な対策がコストパフォーマンスに優れる場合がある。