Hondaが描く「事故ゼロ」への緻密なロードマップ、ADASの進化とデジタルツインが拓く安全の未来[インタビュー]

Hondaが描く「事故ゼロ」への緻密なロードマップ、ADASの進化とデジタルツインが拓く安全の未来[インタビュー]
Hondaが描く「事故ゼロ」への緻密なロードマップ、ADASの進化とデジタルツインが拓く安全の未来[インタビュー]全 4 枚

2050年までに交通事故死者ゼロ

「2050年までにHondaが関係する交通事故による死亡者をゼロにする」という高い目標を掲げるHonda。いかにしてそのような高い目標にアプローチするのか。

そこにあるのは、理想論ではない、データと戦略に裏打ちされた道筋であった。Hondaの先進安全技術開発をリードする本田技研工業株式会社 四輪事業本部 SDV事業開発統括部 先進安全・知能化ソリューション開発部 エグゼクティブチーフエンジニアの波多野邦道氏に話を聞いた。

波多野氏は8月29日に開催するセミナー、運転自動化技術の進化における「Hondaのビジョン」に登壇し、今回の内容について詳説予定だ。

Hondaが取り組むべきマテリアティ

Hondaの安全思想には「Safety for Everyone」というグローバル安全スローガンがある。これは、ドライバーや同乗者だけでなく、歩行者や自転車など、道を使うすべての人々の安全を追求する思想だ。この思想に基づき、2050年にHondaの二輪・四輪が関与する交通事故死者ゼロという目標達成に向けたロードマップが描かれている。

この野心的な目標を達成するため、Hondaは大きく3つの要素で取り組みを進めているという。

第一の要素は、本稿の主題でもある、モビリティの性能そのものの技術進化だ。「運転支援の技術と自動運転の技術というのを可及的速やかに普及拡大させていくということが非常に重要」と波多野氏が語るように、ADASや自動運転機能の高度化と普及が戦略の中心となる。

第二の要素は、Hondaが「交通エコシステム」と呼んでいる、「交通参加者との安全の確保」である。これは、クルマ単体で完結する安全ではなく、交通社会全体で安全を築くという考え方だ。

「弊社では、安全・安心ネットワークという呼び方をしています。セルラー網を使って、走行車両および走行車両や歩行者にも何らか告知するというような技術ですね。既に普及している通信手段を使って車両および歩行者などの交通参加者に情報提供し、リスク回避行動を促すという取り組みです」

これは、クルマとインフラ(V2I)やクルマと歩行者(V2P)などがセルラー網を介して直接通信し、見通しの悪い交差点での出会い頭の事故などを未然に防ぐことが期待される、次世代の安全技術だ。

そして第三の要素は、Hondaの安全への取り組みの深さを示す「人の能力(啓発活動)」である。

「人から人への手渡しの安全」と「参加体験型の実践教育」を基本として、運転技術、認知・判断能力だけでなく、周囲に対する思いやりといった心の部分までを含めた人の能力を高めることをめざしています。

ほかにも、「人がなぜ事故を起こすのかというようなところに対して、かなり踏み込んで人の能力の研究をしています。その結果も活用して、ゼロに届くようにしていきたい。人が事故を起こしてしまうときの脳波の状態を知ることによって、潜在的な危険状態を事前に知り得るのではないか、といった研究をしています」

「MRIで脳波をモニターし、脳のどの部分がどんな反応をすると、どんな身体的な行動になるかという因果関係は把握できるようになっています。それをさらに推し進めるとヒューマンエラーの兆候が見つけられるのではないか、という研究をしています」

波多野氏は「まだまだ研究段階」としながらも、ヒューマンエラーの根源に迫ろうという強い意志の現れが見える。

これら3つの取り組みの中でも、当面の戦略の核となるのは、第一の要素である運転自動化技術の進化だ。

ADASの進化と普及戦略

HondaのADASは「Honda SENSING(ホンダセンシング)」のブランドで知られる。その進化は、2030年代の中間目標達成に向けた重要なイネイブラーだ。波多野氏によれば、その進化は2つのアプローチに基づいているという。

「運転支援を『事故を回避する技術』という領域と『運転負荷を軽減してヒューマンエラーを減らしていく』という技術の二つのアプローチで取り組んでいます」

このアプローチは、製品ラインナップにも反映されている。「Honda SENSING 360」までは前者の事故回避技術に主眼が置かれ、そして先日、アコードに搭載された「Honda SENSING 360+」は、後者の運転負荷軽減を新たな次元に引き上げた。ハンズオフ(手放し運転)機能がそれだ。

この技術進化を踏まえ、Hondaは今後の普及戦略を3段構えで進める。

「Honda SENSING 360を主に先進国を中心とした次世代のベーシックラインとして普及拡大させ、さらにアッパートリムでHonda SENSING 360+を提供し、ハイエンドにはレベル3の自動運転であるHonda SENSING Elite、という3段構えです。Honda SENSINGは、世界中すべてのHonda車に付いている、というところが基本になります」

全方位のセンシングで死角をカバーし事故回避に貢献する「Honda SENSING 360」を、車種やグレードを問わず標準装備化し、安全のベースラインを引き上げる。その上で、ハンズオフ機能による高度な運転負荷軽減を提供する「Honda SENSING 360+」を、アコードのような上級モデルへ搭載しています。

中国市場の激変にどう向き合うか

Hondaがこのようなロードマップを着々と進める一方、世界の市場、特に中国ではADASをめぐる競争環境が激変している。高速道路のみならず市街地での高度な運転支援(NOA: Navigate on Autopilot)機能の搭載が急速に進んでいる。ユーザーもそれを重要な差別化ポイントと捉えており、それに応えるべくメーカー各社が鎬を削っている。

このような状況を、Hondaはどう見ているのか。この問いに対し、波多野氏は冷静な分析を示した。


《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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