スズキ クロスビー 開発担当者…投入のきっかけやハスラーとの差別化[インタビュー]

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スズキ・クロスビー
スズキ・クロスビー 全 24 枚 拡大写真

スズキ『クロスビー』は、軽自動車『ハスラー』のデザインモチーフを取り入れながら、小型車として作られた。ではなぜスズキはクロスビーを作ったのか。また、ハスラーとの関係性をどう捉えているのかなどについて開発担当者に話を聞いた。

◇多くのお客様の声をもらって

---:現在スズキには多くの小型車がラインナップされています。さらにこのセグメントは競合が多数ありますが、そこにあえてクロスビーを投入した理由はどういったものでしょう。

スズキ四輪商品第一部チーフエンジニア工学博士の高橋正志氏(以下敬称略):きっかけは4年前の東京モーターショーでした。

そこにハスラーを出展した時に、それを見たお客様の評判が我々の予想以上に良くて、実車を見た人が、とても楽しそうにこれ欲しいねといってくださいました。同時に、こういうタイプの小型車を出してくれないのかという声も多く聞かれたのです。

私もハスラーに初めて乗った時に、今までにない日本車のスタイリングで楽しい気分になりました。その一方、実用性も『ワゴンR』譲りの居住性を持っていますので申し分なく、面白い軽だなと思っていました。

これまでは、スタイリングを重視すると居住性などで我慢したり、逆に居住性や使い勝手を重視するとスタイリングを我慢したりすることが多いですよね。その中間ぐらいで上手く両方を兼ね備えたものがないという感覚を持っていたのも事実です。その時にお客様からそういう声をもらったので、需要はあるのだなと感じていました。

実はその時はそれで終わってしまったのですが、実際にハスラーを発売しましたら、販売サイドやお客様相談室などからこの小型車が欲しいという声がずっと継続してあったのです。そこで、我々としても商品として成り立つのかを考え始めました。

我々は軽自動車を比較的昔から長くやっていて得意分野ですが、小型車はそれほど甘い世界ではなく、競争も激しい。そのうえで、どのくらいの大きさでやったら可能性があるのかなど色々検討していきました。また出したけれども本当にお客様に支持してもらえるのか、一部のお客様の声はあるにしても、それが本当に台数に結びつくのかは社内でもかなりの議論がありました。

デザインにおいても、お客様にハスラーの小型車がいいといわれて、そのままハスラーをぐっと大きくしただけにはしたくはありませんでした。それほど甘くはないという思いもあり、これも社内で議論や検討をしていったのです。

◇ハスラーで出来たこと、出来なかったこと

---:その際の議論や検討は具体的にどういう内容だったのでしょう。

高橋:はい、ハスラーの良さをお客様はどういうところで支持しているのかを、改めてお客様の声を聞き取りながら、販売サイドや営業と一緒に先行検討しました。

そうした中で、ハスラーの支持されている部分と同時に、荷室をもう少し大きく使いたいなど、ハスラーでは出来なかったことが見えてきたのです。ハスラーは軽枠いっぱいいっぱいで作るので、乗員を重視すると当然荷室はほとんどないような状態になってしまいます。その分はリアシートを倒すことで荷室を確保しています。そういったことをもう少しボディを大きくすることで出来ることがあるかもしれないと検討しました。

ハスラーの良さはワゴンのパッケージです。そこでクロスビーもワゴンのパッケージを採用しましたし、我々としても一番こだわったところです。日本市場は、道路事情や家の事情も含めて、取り回しの良いコンパクトなサイズでありながら中は広いという需要があります。これはミニバンや軽自動車が受け入れられている日本特有のものです。そういった組み合わせであれば面白い商品になるのではないかと考えました。

また、ハスラーの特徴は、ガラスを立たせて丸目のモチーフを取り入れているのですが、普通にそのままデザインすると単なるボックススタイルになってしまいます。そこに丸目のモチーフなど違う特徴を取り入れることで、あまり箱のワゴンには見えないようにして、色の可愛さなどを含めて男女年齢問わず多くの方に愛され、キャラクターとしても親しまれるクルマになりました。そういった考え方を引き継ぎ、さらに遊びにも使えそうな用品開発や、室内の仕組みなどの考え方を取り入れると、小型車の新しいジャンルが作れるのではないか。それがクロスビーの開発のきっかけでもあります。

◇ハスラーの大きいバージョンではない

---:先ほどハスラーの単なる大きいバージョンは作りたくないとおっしゃいましたが、その理由は何ですか。

高橋:まず小型車なりの質感は求められますので、そこはきちんと表現しないといけない。そのまま大きくというのは縮尺として大きくしただけというものはしたくないということです。

そのまま大きくしてしまうと単なる箱になってしまうでしょう。アイディアとしては、ある程度箱っぽくして、広さを感じさせるものもありました。しかし、それだと、我々には『ソリオ』があり、その顔つきが変わっただけと捉えられるかも知れませんし、単純にハスラーを大きくしただけのようにも見えてしまうでしょう。

そうではなく、ぱっと見、丸目なのでハスラーのような人を惹きつけるようなキャラクター的な要素はあったとしても、ちゃんと見ると、質感や他の小型車にはない特徴を車体のボリュームなどで演出することで、ワゴンの背の高さを外から見た時には感じさせないようにしたいというのが、変えたいと思ったところです。

とにかく、ハスラーではやれなかったことをやりたかったのです。ハスラーは軽枠の中で頑張ってスタイリングをしましたが、では軽の枠を取り払った時に、どういった表現が出来るか。今回デザイナーがこだわったのはバックドアを傾斜させたことです。本来スペースのためであればそのまま立てることが正解ですが、今回傾斜させたのは軽自動車ではやれないことです。そのように軽では出来ないことがいくつもあるのです。

◇クロスビーというブランド名採用のわけ

---:ハスラーという名前は市場に浸透しています。例えば“ハスラーワイド”や“ハスラー1000”といえば、ハスラーの大きなクルマだというイメージが確実に伝わるでしょう。しかし何も知らない人が単純にクロスビーという名前を聞けば、どんなクルマかというところからスタートしてしまいます。なぜあえてブランド名まで変えたのでしょう。

高橋:そこは社内でも議論がありました。そのままハスラーを使った方が浸透させるのはとても簡単です。しかし、ハスラーはハスラーで進化を続けるでしょうし、今回小型車として出すからには、このクルマはこのクルマで進化の形をとっていくでしょう。

そうはいっても考え方は丸目のモチーフなどは踏襲していますので、見てもらえればお客様はハスラーの仲間っぽいと思ってもらえます。そこで我々としてはあえて名前をつけなくても良いと判断したのです。

名前の浸透に関しては販売する側で努力をする。しかしお客様に見てもらえればキャラクターとして印象に残るというところは十分クルマに盛り込まれていますので、あえて車名を変えて挑戦してみようという決断になりました。

◇キャラクター性は共通させつつもそれぞれの世界観を作っていく

---:それぞれが進化をするということは、ハスラーはハスラーとして独自の世界観をこれからもっと作っていって、クロスビーはまた別の世界観が改めて出来ていくように期待してしまいますが、いかがでしょう。

高橋:ただし理念である愛されるキャラクター性というものは両方とも持ち続けます。その根底のところは外さないのです。

---:つまり、次のフルモデルチェンジで、2代目のハスラー、2代目のクロスビーとなった時に、同じモチーフを持っているかどうかはまだわからないということですか。

高橋:その通りです。しかしどこか似ていると思います。例えば丸目は愛着を持たれやすく、また日本のお客様は比較的好きな方が多いですから。軽自動車は丸目モチーフっぽいものはいくつか見られます。しかし小型車ではあまりなく、格好良くてスタイリッシュなクルマはたくさんあります。

そういった中でクロスビーが持つ可愛いらしさ、懐かしさを感じさせる個性や、パッケージだけではなく、スタイリング的にも小型車の中では少し際立つ、他車にはない特徴が出せていると思います。そこはハスラーと共有したかったところでもあり、今後もこのクルマが持ち続けたいところでもあります。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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