東京2020選手村で事故、自動運転技術のリテラシーが問われる[論点整理]

トヨタ eパレット
トヨタ eパレット全 6 枚

トヨタ『eパレット』による選手村の事故。それに合わせるかのように池袋での暴走事故の判決のニュースが流れた。にわかに自動運転や自動ブレーキなどのアクティブセーフティの技術に注目が集まっている。

事故原因や分析については、新聞から業界誌、個人ブログまであらゆるところでされている。それぞれの持っている情報や立場もあり、議論百出の感がある。それらの論点を主に技術的観点から整理してみた。

なお、本稿は特定事故の事象を前提にしているが、自動運転技術の課題や問題点を取り上げることが目的である。したがって、組織名などは極力明記しないようにしてた。

●選手村は公道か?

公道の定義は難しい。一般には国や自治体が管理する道路が公道だが、道交法では「一般交通の用に供するその他の場所」であり、駐車場や施設内の道路、テストコースなど私有地・私道も公道に含まれることがある。選手村の道路は完全な私有地だが、多数の選手や関係者が往来する道は「一般交通の用に供する」場所という解釈も可能だ。この点について、事故関連の公式発表では明記がなく警察も公表していない。

●事故時は自動運転か手動運転か?

この議論はしばしば「レベルいくつの自動運転」で、責任の所在の根拠となる。しかし、厳密な切り分けは難しい。トヨタの発表によれば、eパレットは(人間の介在を前提とする)レベル2もしくは3の状態で運行管理されていたことになる。リリースによれば交差点に入ってから少なくとも3回、オペレーターの操作が入っている。

素直に解釈すれば事故の責任は運行管理主体(大会組織委員会)、オペレーターや路上の誘導員ということになる。なお、事故原因が車両側にあったとしても、そのようなサービスを提供した主催者の管理責任の問題は残る。

●メーカーやシステムに問題はなかったか?

自動運転技術そのものが開発途上のものだ。その意味で車両側に問題があることが前提となる。しかし、公開されている情報と取材した情報からは、センサーやシステムに致命的な問題があったようには見えない。

eパレットはレベル4自動運転(制限エリアの完全自動運転=決まったエリア+想定した条件内なら無人で走行タスクを解決できる)機能を搭載しているとのことなので、むしろ交差点でもオペレータを介在させなかったほうが安全だった可能性さえある。カメラと複数のLiDARが360度をほぼ同時に監視しているという。制御によほどの瑕疵がなければ、人間の目よりも的確に障害物を検知できるからだ。

システムやセンサーに問題の可能性がないわけはない。一般的なLiDARの検知範囲は半円(180度)ではなく扇型になる。角度は製品によるが側面ぎりぎりは死角となる。これをつぶすにはセンサーを車体から浮かせるような位置に張り出す必要があるが、新たな死角や突起物といった別の問題を生む。今回の事故ではオペレーターが緊急停止ボタンを押す前にシステムが被害者を検知して先にブレーキをかけている。このことは、センサーに死角かあったか、センサーデータの認識、画像処理(点群処理)に問題があった可能性を示唆する。

その場合でも、最終的に検知され自動ブレーキが働いているので、そもそも間に合うタイミングでの衝突ではなかった可能性もある。

なお、市販車に搭載されている自動ブレーキは、「衝突被害軽減ブレーキ」であって減速Gは制限されている。乗員保護などの理由から停止最優先のフル制動をかけているわけではない。今後のレベル2以上の車両の緊急ブレーキには、このような「パニックブレーキ」を踏む機能の実装が必要かもしれない。

●自動運転は無理なのか?

組織委は、サービスをほぼ手動運転に切り替え運行再開を決定した。メーカーからは「自動運転は、車両、インフラ、人の三者の協調が重要」というメッセージも発せられた。当然といえば当然だが、見方を変えれば「しょせん完全自動運転は無理」という解釈も可能で、少なくとも選手村の(自動運転の社会実装の)実験は失敗だったといえる。

もちろん失敗で学ぶことも多いので成果がないわけではない。今回の事故は次の技術開発に大いに生かされるはずだ(そのためには適切な情報公開と共有が欠かせないが)。

月並みだが、事故の責任追求(もちろんメーカーも含む)は必要だが、技術開発や技術そのものとは切り分けて考える必要がある。感情論や精神論で科学技術を制限すべきではない。

●消費者側にも必要なリスクマネジメント

技術が、人やインフラとの協調を必要とするのは当然だ。そもそも技術はそのためにある。したがって、自動運転やAIだからといってすべてをそれに任せる前提が間違っている。「車は命を預かるので100%でなければならない」は、作る側の矜持としては重要だが、あくまで理想だ。

利用者・消費者側の考え方も同様だ。「自動運転の事故は100%許さない」というのは理想だが、そのための完璧な対策は「リスク排除」つまり自動運転を使わないことである。リスクマネジメントでは、リスクは、回避、転嫁、軽減、受容の4つの対応方法があるとされている。回避ができれば安全だが、現実にそれが可能な脅威は少ない。多くのリスク対策、事故対策は軽減措置となる。

自動運転については、思考放棄的な完全主義で「安易に自動などというな」ではなく、現状でできることとできないことを把握して技術を賢く使いこなすリテラシーが必要だ。

《中尾真二》

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  2. 高機能ヘルメットスタンド、梅雨・湿気から解放する乾燥ファン搭載でMakuake登場
  3. 最後のフォードエンジン搭載ケータハム、「セブン 310アンコール」発表
  4. 船上で水素を製造できる「エナジー・オブザーバー」が9年間の航海へ
  5. 新型『CLA』を生産するメルセデスベンツ「最新デジタル工場」の現場
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. 米国EV市場の課題と消費者意識、充電インフラが最大の懸念…J.D.パワー調査
  2. 低速の自動運転遠隔サポートシステム、日本主導で国際規格が世界初制定
  3. 「やっと日本仕様が見れるのか」新世代ワーゲンバス『ID. Buzz』ついに上陸! 気になるのはサイズ?価格?
  4. BYD、認定中古車にも「10年30万km」バッテリーSoH保証適用
  5. 「あれはなんだ?」BYDが“軽EV”を作る気になった会長の一言
ランキングをもっと見る