【ヤマハ YZF-R7 試乗】スポーツライディングの“第2章”へといざなってくれる存在…伊丹孝裕

ヤマハ YZF-R7
ヤマハ YZF-R7全 40 枚

ヤマハの新型スーパースポーツ『YZF-R7』の日本仕様が正式に発表された。発売は2022年2月14日、価格は99万9900円というもので、WGP参戦60周年を記念した限定カラーはそれぞれ3月14日、105万4900円となる。

先頃、袖ケ浦フォレストレースウェイ(千葉県)にて、その試乗会が開催された。路面にはウェットパッチがかなり残る生憎のコンディションではあったが、それがまったく気にならない。スロットルを大きく開け、どんどんペースを上げていける人車一体感は、近年乗ったニューモデルの中でも指折りのもの。ごく素直に「これは売れるな」と思えた。オーダーした人には可能な限り早く行き渡るよう、供給体制をしっかりと整えておいて欲しい。

スーパースポーツ界における良質な素材

ヤマハ YZF-R7ヤマハ YZF-R7

YZF-R7は、スーパースポーツ界における良質な素材だ。素材であるがゆえに、特別な装備は無きに等しい。電子デバイスの類は、今となっては当たり前過ぎて、誰もそのひとつに数えていないABSくらいだ。他はアップ側のクイックシフターがオプション設定されている程度で、トラクションコントロールもエンジンモードも備えず、スマホと連動するギミックもない。ただひたすらスポーツするために送り出された。

スポーツと言っても、シャープ、ソリッド、スパルタン、アグレッシブといった刺激的な文言を用いるシーンはない。ほとんどすべてが手の内にあり、右手をどれほど捻っても一定のゆとりがある。コーナーとコーナーをつなぐ区間で一端体勢と呼吸を整え、ライン取りやブレーキングポント、車体をリーンさせるタイミングを計りながら次の一手を練ることができる。

なにかにトライする過程では時に失敗し、その修正をする必要がある。それらを大きなリスクなく繰り返せるところがいい。『YZF-R1/R1M』を操っていて想定プランが崩れると冷や汗を免れない一方、YZF-R7なら大抵の場合は「てへぺろ」で済み、次のコーナーまでに仕切り直すことができる。その時間の流れ方がほどよく、爽快な汗がかけるモデルだ。非日常的で予断を許さない存在がR1だとすると、R7は日常と、そこから少し飛び出た世界を自由に行き来できるリアルな存在である。

『MT-07』との違い

ヤマハ YZF-R7ヤマハ YZF-R7

エンジンとフレームの大部分は『MT-07』と共有しているが、手軽な外装チェンジでスーパースポーツを装っているわけではない。主要な変更点は下記の通りだ。

※カッコ内で示しているのはMT-07の数値

(1)フロントフォーク:φ41mm倒立フォーク(φ41mm正立フォーク)
(2)キャスター角:23.7°(24.8°)
(3)フォークオフセット量:35mm(40mm)
(4)前後重量配分:50.7%:49.3%(49.4%:50.6%)
(5)リアサスペンションバネレート:135N(120N)
(6)リアサスペンションロアリンク:4mm短縮
(7)アンダーブラケット:110g軽量化/剛性向上
(8)センターブレース:上下締結とアルミ化による剛性向上(フローティングマウントされた樹脂)
(9)ハンドルグリップ位置:174mm下方/152mm前方へ移設
(10)ステップ位置:60mm上方/52mm後方へ移設
(11)シート高:835mm(805mm)
(12)燃料タンクキャップ位置:23mm下方/123mm後方へ移設
(13)クラッチ アシスト&スリッパークラッチ
(14)フロントブレーキマスター:ブレンボ製純ラジアルマスターシリンダー(横押し式)
(15)フロントブレーキキャリパー:ラジアルマウント(横留め式)
(16)タイヤ:ブリヂストン・バトラックスハイパースポーツS22(ミシュラン・ロード5)
(17)ファイナルレシオ:16/42(16/43)
(18)最大バンク角:53°(49°)

走りに直接関わる部分だけでもこれだけ列挙でき、フルカウル化(しかもアンダーカバーはアルミだ)やメーターの変更が他に加わる。MT-07のアイデンティティにもなっているモノアイ(LEDヘッドライト)が残されているが、これも流用品ではなく、専用に設計されたものだ。

結果、MT-07との間に18万5900円の価格差が生じているものの、バーゲンプライスとして評価したい。変更されたパーツに加飾を目的にしたものはなく、すべてが機能パーツであるところも好印象だ。ごく簡単に書くと、浅いバンク角でヒラヒラとしなやかに動くMT-07に対してYZF-R7の車体は引き締められ、高速&高荷重に対応する頑強さを手に入れている。

自分自身で管理しているという実感

ヤマハ YZF-R7ヤマハ YZF-R7

とはいえ、既述の通り、アグレッシブな走りを要求してくる車体でもエンジンでもない。188kgの車重と73ps/8750rpmの最高出力はバランスに優れ、スロットルを開け、チェーンが張られ、リヤタイヤが路面を蹴り、次のコーナーへ向かって車速が上がっていく……といった一連の流れをきちんと体感させてくれる。その間、スキップのようなトラクションが途切れることもなく、実に心地いい。

もっとも、およそ400mのメインストレートではメーター読みで180km/hを超えたため、決して非力な部類ではない。しかもその時のギアは4速までしか使っておらず、余力はかなり残っていることが分かる。タイヤ外径や減速比を元に電卓を弾くと、理屈上の最高速は250km/hに達し、無論実際にはそこまでいかないわけだが、国際レーシングコースに持ち込んだとしても不満を覚えるライダーはそう多くないだろう。

大切なのは、そこへ至るプロセスを自分自身で管理しているという実感で、YZF-R7にはちゃんとそれがある。気がつけば300km/hに達し、気がつかないうちにタイヤのスライドやブレーキの圧力を制御してくれるリッタースーパースポーツとは、そこが決定的に異なる。

一対一の対話が楽しめるマシン

ヤマハ YZF-R7ヤマハ YZF-R7

ハンドリングもそれに倣ったものだ。リーンさせる時のステアリングレスポンスにはちょっとしたタメがあり、車体が瞬間的に寝たり、一気にクリップへ向かったりはしない。鼻先が大外からジワジワと内に入ってくるイメージで、その様を擬音化すると「スパンッ」や「ビュッ」ではなく、「フワ~」や「クル~ン」が近い。

つまり、加速の時と同様、コーナリングに至る振る舞いもまた、その流れが分かりやすい。ブレーキを掛け、シフトダウンし、フォークのストロークを感じ、車体をリーンさせ、徐々にブレーキレバーの入力を抜きつつ、思い描いたラインに乗せていく。純ラジアルのマスターシリンダー(既存の製品はセミラジアル。純ラジアルはこれが世界初)もアシスト&スリッパークラッチも倒立フォークもその解像度を上げるためのツールであり、ラップタイムやコーナリングスピードはさしたる問題ではない。

リッタースーパースポーツなら歯を食いしばって無言で従わざると得ないところを、YZF-R7となら一対一の関係性でじっくりと対話を楽しめるのだ。言い換えると、(特にYZF-R1/R1Mに比べると)すべてがスローテンポなわけだが、鈍感なわけではない。乗車姿勢や乗車位置、荷重の強弱に対する反応は明確で、試したことが正解か、不正解かを的確に返してくれるからだ。その時の言葉遣いがおっとりしているだけで、押し黙ったり、ごまかしたりはしない。例えばこれが、『YZF-R25/R3』あたりだと力で組み伏せてしまえるため間違いに気づかず、すれ違ったまま過ごしているライダーは案外多い。

さて、では徹頭徹尾寛容かと言えばそうでもなく、スキルアップを果たしていくといつかリアサスペンションの許容範囲を超える日がくる。大きな曲率のコーナーでジワジワと荷重を掛けていくような区間はいいが、ヘアピンなどで素早く車体をバンクさせ、荷重変化が一気に起こるような場面では追従しきれないことがある。

ただし、不満が出てくるとすれば、ほぼこれくらいだ。乗り方やセッティング、リプレイスパーツを通してあれこれ対策できる部分でもあり、見識を広げるきっかけになるはずだ。

スポーツライディングの第2章へといざなってくれる

伊丹孝裕氏とヤマハRシリーズ。YZF-R7(左手前)、YZF-R1(奥)、YZF-R25(右)伊丹孝裕氏とヤマハRシリーズ。YZF-R7(左手前)、YZF-R1(奥)、YZF-R25(右)

250ccや400ccを経た若いライダーは黙っていてもこのモデルを手にし、正しくステップアップしていってくれるに違いない。YZF-R7を勧めたいのはむしろベテランの方で、大排気量・大パワー・電子制御全部載せのハイスペックモデルにたどり着き、「アガリ」の感覚を覚えているのなら、ぜひこの世界を知ってほしい。ダウンサイジングではあるが、それはスキルやクオリティをダウンさせるものではない。これまでの経験をフルに活かしたスポーツライディングの第2章へといざなってくれる存在であり、再び新鮮な気持ちでバイクと向き合えるはずだ。

■5つ星評価
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★★
オススメ度:★★★★★

伊丹孝裕|モーターサイクルジャーナリスト
1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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