マツダ、環境対応でもロータリーエンジンへのあくなき挑戦…オートモビルカウンシル2023

オートモビルカウンシル2023 マツダブース
オートモビルカウンシル2023 マツダブース全 8 枚

マツダはオートモビルカウンシルにおいて、“ロータリーエンジンの可能性の追求と新しい価値への挑戦”というテーマのもと、国内初公開の『MX-30e-SKYACTIV R-EV』ほか3台を展示している。

◆ロータリーファンの熱い思い

マツダ取締役専務執行役員の青山裕大氏は、今回のテーマを決めるにあたって、「(現職に移ってからも)ロータリーエンジンファンの強力な情熱を感じる機会が多々あった。2015年東京モーターショーでの『RX-Vision』に寄せられた期待、2017年ロータリーエンジン生誕50周年イベントが台風で中止された中でも、三次試験場に集まっていただいたファンの皆様の想い、またマツダ車ではないが、ロータリーエンジンを搭載し、市販されたNSU『R080』をドイツから広島まで運転して来られた夫婦の方など例を挙げると枚挙にいとまがない」とファンからの熱い思いを受け止めていることを語る。

マツダ取締役専務執行役員の青山裕大氏マツダ取締役専務執行役員の青山裕大氏

そして今回、MX-30e-SKYACTIV R-EVを日本で初お披露目するにあたり、「私たちマツダは、ロータリーを諦めたくない。やっぱり作り続けたい」という気持ちを吐露。「私たちは2012年以降、ロータリーエンジンの量産をしばらくストップしていた。ロータリーの灯がここで消えてしまうのではないか。特にロータリーファンの皆さまには本当に心配をおかけしてきた。しかし、ロータリーエンジンは、私たちマツダの“飽くなき挑戦”の精神の象徴であり、マツダのアイデンティティとして、未来へ受け継いでいかなければいけないものだ」とマツダの決意ともいえるものを述べる。

そして、「ロータリーにはまだまだ可能性がある。私たちマツダ全員の思いと情熱がある。どのような形でも、たくさんではなくても、作り続けることが大事であると考えている」とコメントした。

◆ロータリーがもたらす環境対応

ロータリーエンジンは、“三角形のローター”が回転することによって動力を取り出すユニークな構造を持っている。56年前、そのロータリーエンジンをマツダが世界で初めて量産化に成功。1960年代、輸入自由化を求める海外からの圧力の高まりを受け、政府はその対抗措置として、国内の中堅自動車メーカーを大企業に吸収させるという業界再編成構想を打ち出していた。自らの存在価値を示せない企業は、この荒波を乗り越えられない。マツダは、存在価値をロータリーエンジンに賭け、その開発を成功に導くことが至上命題となり、マツダの未来を賭した不退転の挑戦が始まるのだ。

ロータリーエンジン実用化の開発は6年間にも及んだ。「夢のエンジンの開発は、どこまでも続く、いばらの道だった。予想をはるかに超える技術的課題が次々と立ちはだかり、万策尽き果て、解決不可能に思えた瞬間は一度や二度ではなかった」と青山氏は当時の苦労を語る。

そしてようやく量産化に成功しても、1970年代には、オイルショックをきっかけにしたロータリーエンジン撤退の危機が訪れ、それを乗り越えるために技術者たちは常に挑戦を続けてきた。

これらの挑戦はいずれも、「当時のマツダにとっては、社運に関わる大きな出来事だったが、技術者たちが困難な壁を乗り越えられたのは、3つの要因があったと私たちは考えている」という。

1つめは、「工業で世界を良くしたい。モノ造りの技術によって世の中に貢献したいという、マツダの実質的な創業者である松田重次郎が抱いていた“志”だ。この志が、脈々と受け継がれ、困難だったロータリーエンジン実用化に向けた開発を下支えしてきたのである」。

2つめは、「広島で戦後復興を強く進めていった人々の“困難に果敢に立ち向かうチャレンジ精神”が、マツダ社員の心にも刻まれていた」。

そして3つめは、「オイルショックによる撤退危機との闘いの裏には、“ロータリー車のお客さまやファンの方々を裏切ってはならない”。そのために、“技術で失ったものは技術で取り返せ”をスローガンとする、“技術者たちの強い使命感”があったからだ」。ここからマツダの大切な価値観である“あくなき挑戦”につながっているのだ。

◆ロータリーエンジンの可能性の追求

そうした歴史的背景をもとに、マツダブースではロータリーエンジンが持つ、燃料の多様性や拡張性の高さを活かし、走る歓びと優れた環境性能の両立を追求してきた歴史と、未来に向けたマツダの挑戦を紹介している。

まず『コスモAP』は、マツダ初のロータリーエンジン搭載車となった『コスモスポーツ』の名前を受け継ぐ高級スペシャリティカーとして1975年に発売された。当時、公害対策のために、各社が動力性能を落として対応する中、従来性能を維持したまま燃費を改善したロータリーエンジンの開発に成功し、業界に先駆けて排ガス規制をクリアしたことから、“アンチポリューション”の頭文字を取った“AP”の名を冠したクルマだ。

マツダ コスモAPマツダ コスモAP

『RX-8ハイドロジェン』は、マツダが世界で初めて実用化した水素ロータリーエンジン搭載車だ。国内では官公庁を中心に8台を納入。2007年には、ノルウェーの水素インフラ構築を目指した国家プロジェクト、“ハイノールプロジェクト”に参画し、このクルマを使ってノルウェーで実証実験が行われた。内燃機関ならではのトルク感、加速感、排気音などを損なわずに、CO2排出量はゼロ、NOxもほとんど発生しない優れた環境性能を実現。また、水素燃料でも、ガソリン燃料でも走行可能なデュアルフューエルシステムで、インフラが未整備な地域でも不安なく走行できた。これは、マルチフューエルに対応可能なロータリーエンジンの特性を活かし環境への貢献に挑戦したクルマなのである。

マツダ RX-8ハイドロジェンマツダ RX-8ハイドロジェン

そして、国内で初めてのお披露目するMX-30e-SKYACTIV R-EVは、ロータリーエンジンを発電機として採用したマルチ電動化技術を搭載したモデルだ。発電用ロータリーエンジンは、必要とされる出力性能をコンパクトに実現できるロータリーエンジンの特徴を活かし、高出力モーター、ジェネレーターと同軸上に配置して搭載。そして、このコンパクトなユニットに、17.8kWhのリチウムイオンバッテリーと50リットルの燃料タンクを組み合わせることで、電欠を心配することなく、モーター駆動ならではの、「より緻密なクルマの反応を作り込んだ、マツダの意のままの走りを楽しんでもらえるクルマだ」と青山氏はいう。

マツダ MX-30e-SKYACTIV R-EVマツダ MX-30e-SKYACTIV R-EV

そして、「地球温暖化抑制、カーボンニュートラルへの対応は、将来から借り受けている今を生きる私たちの大きな社会課題だ。一方で、心ときめく移動体験が作り出す、今を生きる私たちの“活き活きと暮らす愉しさ”と“生きる歓び”も大切に、マツダらしいやり方で“あくなき挑戦”を続けていく」と語る。

◆ロータリーファンの思いを胸に

そして最後に青山氏は、「今も歴代のロータリーエンジン搭載車は世界中のファンの皆さまに愛され、大切に乗ってもらっている。毎年コスモスポーツの誕生日である5月30日には、コスモスポーツファンやロータリーエンジンファンのお客さまからバースデーカードを頂戴している。ロータリーエンジンの歴史をともに創ってくださったのは、マツダを愛し、応援してくださる世界中のお客さま、ファンの皆さまの想いだ。その想いに励まされ、歩みを止めてはならないと、我々自身を鼓舞している。お客さまとこのような特別な絆を育んでもらったことを誇りに、マツダは、これからもお客さまの心を捉えて離さない魅力的なクルマを生み続けていくこと、そして、時代を超えて、クルマを愛してやまない皆さまと一緒に、クルマのある人生の楽しさを追求していくことを約束する」とプレゼンテーションを結んだ。

会場には、MX-30のモチーフになったともいわれる『MX-81アリア』や、ロータリーエンジンの模型や当時の資料などもので見どころ満載である。

マツダ MX-81アリアとMX-30e-SKYACTIV R-EVマツダ MX-81アリアとMX-30e-SKYACTIV R-EV


《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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