商用バンの『eエブリイ』はあるものの、スズキにとって乗用の軽EVとしては初となる『e SKY(eスカイ)』がデビューする。公式発表の前に、そのプロトタイプを試乗する機会を得た。
筆者にとって極めて好都合だったのは、この新型eスカイ試乗の前日に、今恐らく一番注目されている軽EV、BYD『RACCO(ラッコ)』に試乗を済ませたところだったことだ。彼らにとってもラッコの情報は欲しいはずだったから、エンジニアとの話はとても盛り上がった。それに走りの性能の比較もできた。
◆なぜ売れ筋のスーパートールじゃないのか
スズキ e SKY(eスカイ)
やはりというべきか、公表されたeスカイは、4ドアのセダン系スタイルを持ち、果たしてそれがトールワゴンなのか、あるいはセミトールワゴンなのかは不明だが、いずれにせよ先発の日産『サクラ』、ホンダ『N-ONE e:』と競合するジャンルのモデルである。全高は1625mm(暫定)。サクラの1655mmとN-ONE e:の中間で、サクラ寄りの車高を持つ。
ご存じの通り、ラッコは一番売れ筋のスーパートール系で、車高は1800mmあるので、室内空間という点では勝負にならない。というかジャンル違い。何故、一番売れ筋のカテゴリーに出さなかったのかを、チーフエンジニアの津幡知幸氏に質問したところ、「初めての乗用軽EVということで、スズキとしてまとめやすい車系をチョイスした」という答えが返ってきた。
自動車の開発期間を考慮すると、ラッコは例外だが、通常は4年ほどかかる。サクラの登場が2022年で、ホンダの場合は2025年だが、サクラを起点にすれば今年が4年目だから、ライバルに直接対峙する計画が、この頃から浮上していただろうことは想像がつく。まさかBYDが軽スーパートールを出してくることなど、当時は予想もつかないことだったのでは? と考えるわけだ。
◆「EVである前に軽自動車である」
スズキ e SKY(eスカイ)説明を聞いていると、まずは「EVである前に軽自動車である」という大前提があったようだ。もちろんこの文言自体も説明で使われて、従来の軽ユーザー(スズキの)が、違和感なく新しいEVに乗り換えることができることを、最大の課題にして開発に取り組んだことがわかる。だからというべきだが、実際に試乗しても音が静かなことを除けば、ICEの軽自動車とこれと言って変わるところは何もない。
そんなわけで、インテリアの一体型ディスプレイのモダンさを除けば、エクステリアもラジエターグリルさえつければ、そのままICE車として登場しても違和感がない。
スズキ e SKY(eスカイ)津幡氏は先代の『アルト』開発にも携わったということで、そのスタイリングはH36型と言われる先代アルトに、そのフロントデザインが良く似ている。サイドビューは弓なりのショルダーラインが、スズキ初の軽自動車『スズライト』を彷彿させるというが、これはちょっとこじつけ過ぎ。
いわゆる自社のスタイリングからアイデアを取り込むのは『アルトラパン』でも行われているが、正直ちょっと無理がある。一応サイドは6ライト構成なのだが、最後のサイドウィンドーはガラスではなく、そこにボディ同色のパネルをはめ込んで、アクセントとしている。まあ、この部分はそれなりに特色を出したところだろうか。
スズキ e SKY(eスカイ)◆走っても「普通の軽」
今回はクローズドコースでの試乗だった(しかもサーキット)ので、運動性能はわかるとして、乗り心地と車外から騒音が入るような場合の静粛性については不明だが、冒頭話した通り、主査の言う「まとめやすく」を地でいった、ソツのなさがあらゆるところにちりばめられている印象がとても強かった。
だから、試乗後も正直言って「印象的」なところがなく、普通の軽だなというイメージしか残らない。もしそれがスズキの狙いだとしたら、見事に嵌ったわけではあるが、全くの新車としてはどうよ? という感想もあるわけである。
スズキ e SKY(eスカイ)性能的な話をすると、リン酸鉄を使用したバッテリーの容量は26kwh。一充電の走行距離は310kmというから、このあたりはホンダやBYDの性能に近い。因みにリン酸鉄のバッテリーは、同社の『eビターラ』同様、BYD系の可能性が高い(スズキは公表していないが)。それに受電能力も50kwだというから、急速充電でも結構飲み込んでくれそうだ。もっともあくまで机上の性能で、今回の走行がサーキットだったこともあり、示されたSOCと残走行距離はあてにならないから、これは改めてお借りして一般道を走ってみないとわからない。
運動性能も「おぉ~スゲェ!」という印象ではなく、“ソツなく走る”の域を出ない。プラットフォームはお得意の「ハーテクト」を基礎に、バッテリーシステムを挟み込んで構成される「ハーテクトe」と呼ばれるもの。お得意の軽量化も効果的で、車重1030kg(暫定)はホンダと同じで、サクラよりも40~60kg軽い。ラッコから比べたらほぼ200kg軽く仕上がっている。
◆大きな問題点もなくソツなく仕上がっている
スズキ e SKY(eスカイ)スズキにとって軽さは正義だから、このあたりは納得できるし、過去にも軽い車体でも十分に重厚感のある(軽としては)乗り心地を実現できているから、一般道に出ても想像を超えるような跳ねる乗り心地は無いと思える。
ただ、スラロームテストをした際に、従来のICEよりはトルクフルなためか(モーターの性能は未公表なので不明)、立ち上がりでインリフトしてタイヤが鳴く傾向にあった。急激にトルクが立ち上がるためと思われた。解消にはトルクの出し方を制御するか、リアのサスペンションストロークを少し伸ばすかで解決できるはず。
スズキ e SKY(eスカイ)また、ワンペダルモードが用意されていて、これを使うと結構な回生ブレーキがかかることも確認できた。サーキット試乗のため、停止まで行けるかは不明。ただ、ワンペダルモードのスイッチ位置が、ステアリングコラムの右側、ダッシュボードの下の方につけられていて、使い勝手が悪い。この位置は改善すべきだと思う。
いずれにせよスズキ初の軽EVは、大きな問題点もなくソツなく仕上がっているという印象が強く、大きな驚きや新車らしい大胆な試みが見られなかったのは、少し残念である。
スズキ e SKY(eスカイ)■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)
AJAJ会員・自動車技術会会員・東京都医師会「高齢社会における運転技能および運転環境検討委員会」委員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来48年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。




