チューニング用ダンパーで知られるテインが、中国最大級のクロカン4WDイベント「越野e族 アラサン英雄会」に出展。新製品『4x4 DAMPER SPORTS PLUS』の試乗会を開催した。
◆テインが中国の巨大4WDイベントで新型ダンパーを披露
さまざまなタイプがある4x4 DAMPER SPORTS PLUS
基本的には中国のユーザーや代理店などを対象とした試乗会だが、日本からも筆者を含む3名のジャーナリストが参加した。
テインは1985年に神奈川県横浜市で創業。ラリーメカニックである市野諮氏が創業し、ラリードライバーの藤本吉郎氏も創業後まもなく経営に加わった。ご存じの方も多いと思うが、藤本吉郎氏は1995年のサファリラリーで日本人初の総合優勝を果たしている。
テインは2013年に中国・江蘇省宿遷市に工場を設立し、現在では中国工場をマザー工場としている。もちろん拡大する中国市場を見据えてのことだが、その先見性は高く、テインは企業として順調な成長を続けている。
中国の人口は約14億人にのぼり、経済発展に伴って自動車保有台数も急増した。ジェトロの調査によれば、2026年上半期の中国における自動車保有台数は3億7100万台で世界第1位だという。EVをはじめとする新エネルギー車(NEV)が市場拡大をけん引する一方、地方都市では未舗装路も多く、クロカン4WDの需要が高いこともうかがえる。
◆サブタンク追加で熱対策を強化した「4x4 DAMPER SPORTS PLUS」
4x4 DAMPER SPORTS PLUSの内部構造今回「越野e族 アラサン英雄会」で試乗した『4×4ダンパー スポーツ プラス』最大のトピックは、従来の複筒式ダンパー『4x4 DAMPER SPORTS』に別体型サブタンク(リザーバータンク)が追加された点だ。
これまでの同社製タンク付きモデルは、タンク側にも減衰力調整機構を備えた本格的な「2WAY」タイプが中心で、価格帯も1万5000元クラス、日本円で30万円以上と高価だった。それに対して今回の製品はサブタンク側の減衰力調整機構を省略し、純粋にオイル容量の増大とガス室の分離を狙った「プラスアルファ」の製品として位置付けられている。価格も8000~9000元台(約17万~20万円)と、タンクなしモデルの7000元台に近い魅力的な設定だ。
構造面ではガス室を別体化したことでシリンダー内のオイル容量が大幅に増加した。これにより走行時のオイル温度上昇を効果的に抑えられるほか、ダンパー内部へのガス混入を防ぎ、過酷な連続走行でも安定した減衰力を維持しやすくなる。
車内から減衰力調整ができるEDFC。写真は最新モデルのEDFC5ダンパー本体には減衰力調整機構を備えているため、好みに合わせたセッティングも可能だ。さらに車内から減衰力を調整できる「EDFC」にも対応している。
リアダンパーのピストンロッド部には、飛び石による損傷を防ぐプロテクターも装備される。このプロテクターは車種ごとのクリアランスに合わせて設計されており、一部車種では取り付けスペースの関係で省略される場合もある。
ブラケット部も北米などで発生する可能性がある耐久性トラブルを考慮し、ダブルブラケット構造で補強。サビなどによる脱落リスクも考慮するなど、過酷なオフロード走行に耐え得る設計が施されている。
開発陣によれば今回のセッティングは、硬い岩場や土の路面で熟成されたものだという。厳しい路面で耐久性と性能を確認したダンパーであれば、柔らかい砂漠での連続走行でも温度上昇を抑え、安定したパフォーマンスを発揮できる。
本格的な競技用モデルほどの過激さは求めず、街乗りから週末のアウトドア、キャンプ、砂漠走行まで幅広くカバーしたいライトからミドルユーザーに向けて、完成度の高い足回りを狙った製品といえるだろう。
◆ジープ・ラングラーで初めての砂漠走行に挑戦
ジープ・ラングラー最初の試乗ステージは「越野e族 アラサン英雄会」のイベント会場となった砂漠だ。サラサラに乾いた砂地を走るのは筆者にとって初めての経験となる。
トランスファーのセレクターは4Lを選択し、トラクションコントロールなど空転を抑えるデバイスはオフ。さらにタイヤ空気圧は100kPa以下、ダンパーの減衰力は最も柔らかい設定にしてチャレンジした。
初めて走る砂漠はとにかくタフだった。雪とも違う独特のグリップ感で、とにかく手応えがない。雪であればある程度どのように滑るのか予測できる。「ここでアクセルを踏んだら空転する」「ここでハンドルを切ってもクルマは曲がらず真っすぐ進む」といった感覚がつかめるものだ。
しかし砂漠の砂にはつかみどころがない。勾配のある場所で停車すると再発進はかなり難しく、前後だけでなく横方向の傾斜まで考慮して停車位置を決める必要がある。
ジープ・ラングラーで砂漠にチャレンジした際は、砂丘のアップヒルもダウンヒルも勢いを付けて通過。無事に1つ目の砂丘をクリアできたものの、2つ目の砂丘をキャンバー走行している途中で速度が落ち、見事にスタックしてしまった。
長城汽車タンク300続いてクルマを「タンク300」に乗り換え、砂丘へのアップヒルに何度か挑戦した。ノーマル車のトルクでは登り切れない砂丘だったため、エンジン回転が落ちてきたところでステアリングを左に切り、砂丘を下るという動作を繰り返した。
どちらのクルマも砂漠という過酷な環境をよく走るという印象だったが、正直なところダンパーの性能差までは分かりにくかった。路面そのものが柔らかく、ダンパーの動きも穏やかになるためだ。その旨をスタッフに伝えると、翌日は締まったグラベルロードを走れるよう手配してくれた。
◆ランクル300とBJ212で減衰力の違いを徹底比較
トヨタ・ランドクルーザー300翌日用意されたグラベルロードは、ゲルホテル(モンゴルの伝統的なテントを使ったホテル)や乗馬、乗駱駝体験ができる施設内のクローズドコース。試乗車としてトヨタ・ランドクルーザー300と北京汽車・BJ212が用意された。
ランドクルーザー300は車両そのものの完成度も高いのだろう。減衰力を最も硬い状態にセットして走っても一定の乗り心地が保たれ、コーナリング時の安定性は非常に高かった。
反対に最も柔らかい設定にすると乗り心地はさらに良くなるが、コーナーでの安定性は大きく損なわれない。減衰力をちょうど中間付近に設定してみると、乗り心地とハンドリングの安定性が絶妙なバランスとなった。
北京汽車・BJ212一方、北京汽車・BJ212は柔らかいセッティングで乗るとフワフワした感覚があり、ハンドリングもダルになる。ステアリングを切ってからクルマが反応するまでに、わずかな遅れを感じた。
しかしダンパーを最も硬くすると走りは一変する。ステアリング操作に対するクルマの動きが機敏になり、シャキッとした走りを披露した。その反面、路面の荒れもしっかりドライバーへ伝わり、乗り心地はかなりゴツゴツした印象になる。
ランドクルーザー300と同じくセッティングを中間付近にすると、これが絶妙なバランスだった。ハンドリングはクロスカントリー4WDらしい手応えとなり、乗り心地のゴツゴツ感も薄れた。
◆サブタンクの狙いは長距離走行でも減衰力を安定させること
スズキ・ジムニーこの2台だけでなく『4x4 DAMPER SPORTS PLUS』はグラベルロードを中心にセッティングを進めているとのことで、減衰力のセンター付近がこうした路面にぴったり合う特性なのだろう。
「プラス」の名が示すサブタンクによってオイル容量が増えたことで、減衰力のタレ、つまり低下を抑えられる。オイル容量が少ないと温度上昇が早くなり、減衰力低下も早く訪れやすい。
普通に乗っていればダンパーオイルの温度上昇など起きないと思いがちだが、中国では何しろ1回の走行距離が長い。レジャーで何百kmも走ることも珍しくないという。そうした環境で温度上昇を抑えられるのは大きなメリットとなる。
ダンパーのオイル温度が上昇すれば減衰力が低下するのは避けにくいが、サブタンクを備えることでその温度上昇を抑制できる。さらに温度が上がってしまった場合も、減衰力を硬い側へ調整することで対応できる。
長城汽車タンク400『4x4 DAMPER SPORTS PLUS』は16段の減衰力調整が可能なため、中間付近を基準にセットしておけば硬い側にも8段程度の調整幅を残せる。温度上昇によって減衰力が低下した場合も、硬い方向へ調整することで補正できるというわけだ。
今回は試していないが、日本の気候で考えれば真冬と真夏でも最適な減衰力設定は変わってくる可能性がある。
◆日本発売はいつ? 東京オートサロン2027での発表にも期待
テインは34名のスタッフで試乗会対応をした『4x4 DAMPER SPORTS PLUS』は現段階では中国で先行販売されているが、近いうちに日本で販売が始まる可能性もありそうだ。
注目したいのは2027年1月に開催される「東京オートサロン」。日本で正式発表されるとすれば、このタイミングも十分に考えられると筆者は予想している。
価格についても中国と同等なら20万円前後になると考えられるが、為替レートなども影響するため現段階での断定は避けたい。いずれにしても、日本での発売が待ち遠しい一品である。
◆来場者100万人規模ともいわれる「アラサン英雄会」とは?
会場近くにはゲートを設置。年に1度のイベントだが、ゲートは固定式せっかくなので「越野e族 アラサン英雄会」についても触れておきたい。このイベントは今年で21回目の開催を迎えるという。途中でコロナ禍による中断があったことを考えれば、歴史の長いイベントであることが分かる。
「越野」はクロスカントリー、「e族」はネットコミュニティの仲間、「アラサン」は地名で中国表記では阿拉善、「英雄」は互いに助け合う参加者を意味する。
つまり「オフロード走行を愛するネットの仲間たちがアラサンに集まり、互いに助け合いながら楽しむ壮大なオフ会」といった意味合いだ。
続々と集まったクロカン4WD。会場の入り口はものすごい熱気に包まれていた毎年、中国の国慶節を含む大型連休に開催され、内モンゴル自治区アラサン盟のトングリ(騰格里)砂漠の奥地を舞台とする一大イベントだ。主催側の予測によれば、期間中の延べ来場者数は100万人、車両台数は30万台規模に達するという圧倒的なスケールを誇る。
2026年は越野e族が年間を通じた常設型イベントへと移行、刷新した後の初めての公開披露となる節目の年でもある。
開会式は夜の7時から始まる。若いスタッフが多かったのが印象的モータースポーツイベントも開催され、伝統の「T3沙漠チャレンジレース」には新エネルギー車(NEV)カテゴリーが初参戦。「沙漠珠峰スーパーラリー」ではダカール・ラリーと同等のレギュレーションを採用し、技術ルート別に分類された中国初のテクノロジー・オフロードレースとして展開されている。
咆哮する排気音と押し寄せる砂の波、探照灯が描く光の河は、都市部では決して見ることのできない圧巻の光景だ。
◆モータースポーツだけではない巨大ビジネスイベントへ進化
試乗用に用意されたクルマは全部で11台近年のアラサン英雄会は、単なるモータースポーツイベントやオフロード愛好家の集いにとどまらない。産業界や投資家からも注目される巨大なビジネスカンファレンスとしての側面を強めている。
例えば「上企商連 上場企業家交流センター」などの起業家コミュニティが主導し、新エネルギー、新材料、AI・スマート計算(智算科学)といった先端分野の上場企業経営者や投資家が「考察団」として現地に集結しているという。
昼間は砂漠の強烈な日差しを避け、正午前後にプロジェクトのプレゼンテーションやビジネスマッチングを実施。夕方から夜にかけて砂漠のメインアリーナや各種アトラクションを楽しむ。
ランドクルーザーの先に見えるのがゲルホテル砂漠特有の気候やライフスタイルに合わせた、独自の商談空間が構築されているのだ。過酷な荒野をビジネスの商談や信頼関係を深める場とし、さらに家族同伴のバカンスとしても機能させる。中国独自のモータースポーツ文化と経済活動が一体化したイベントだと主催者は説明する。
砂漠が存在しない日本では想像することさえ難しいほど壮大なイベントが、中国では実際に開催されていた。その圧倒的なバイタリティと人々のパワフルな行動力には、ただ圧倒されるばかりだった。




