AWSが描く「AIディファインド・ビークル」開発の最前線とは…アマゾンウェブサービスジャパン 梶本一夫氏[インタビュー]

AWSが描く「AIディファインド・ビークル」開発の最前線とは…アマゾンウェブサービスジャパン 梶本一夫氏[インタビュー]
AWSが描く「AIディファインド・ビークル」開発の最前線とは…アマゾンウェブサービスジャパン 梶本一夫氏[インタビュー]全 3 枚

来たる7月23日、オンラインセミナー「【実用化が始まった】SDVからAI Defined Vehicle(AIカー)へ」が開催される。セミナーに登壇するのは、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 Principal Automotive Solutions Architectである梶本一夫氏。

今回のセミナーは以下のテーマで進められる。

1.ハードウェア仮想化とエンジニアリングプラットフォーム、ライフサイクルマネジメントによるSDV
2.エンジニアリングのAI化の現状と未来
3.車両そのもののAI化、クラウドでの生成AIとの関係性

セミナーの開催に先立ち、このテーマについて梶本氏にインタビューした。

ソフトウェアがクルマの価値を定義する「ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)」への移行が急速に進んでいるが、その先にはさらなるパラダイムシフトが待ち受けているという。アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 Principal Automotive Solutions Architectである梶本一夫氏は、それを「AIディファインド・ビークル」への進化だと語る。

これは単なる機能の追加ではない。クルマの“知能”そのものをクラウドから育み、ユーザー一人ひとりに寄り添いながら成長していく、まったく新しいモビリティの姿だ。その開発プロセスは、どのようにして実現されるのか。

ハードウェアからの解放。クラウド上の「仮想ECU」が開発を変える

SDV開発の現実は過酷だ。自動車に搭載されるソフトウェアの規模は爆発的に増大し、「C言語のコード行数に換算すると、今や2億行から5億行。もうすぐ10億行に達する勢い」だと梶本氏は指摘する。この大規模で複雑なソフトウェアを、異なるサプライヤーが開発した無数のECU(電子制御ユニット)上で統合し、検証する作業は、開発期間の短縮、コスト削減に対するする巨大な壁となってきた。

従来のECUソフトウェア開発は、物理的なECUないしは評価ボードを用意し、高性能のデスクトップPCを接続し、このPC上で開発するのが当たり前だった。しかし、世界中に散らばるエンジニアが、物理的なハードウェアの制約を受けずに同時に開発を進めるにはどうすればいいのか。

その答えが、「仮想化」にある。「AWSはソフトウェアベンダーでありながら、自社のデータセンターで使うハードウェア、特にプロセッサを自社開発しています。『Graviton(グラビトン)』と呼ぶArmベースのSoC(System on a Chip)がそれです」

このGravitonの存在が、SDVの開発に大きな役割を果たす。自動車の頭脳であるECU内の車載CPUは現在、「Armデザインシェアがほぼ100%」という独占的な市場だ。AWSはArm社との提携により、高い互換性を実現した。

「車両のECUで使われているアプリケーションプロセッサ、例えばCortexのAシリーズや、リアルタイム処理を担うRシリーズの命令セットが、我々のGraviton上でネイティブコードとして動かせるのです。これにより、クラウド上で開発・コンパイルした実行コード(バイナリ)が、OSも含めてそのまま自動車の車両で動く、という大きな特徴が生まれます」

これは「Arm on Arm」と呼ばれる技術に支えられており、物理的なハードウェアが手元になくても、クラウド上に「仮想ECU」を構築できることを意味する。

例えば、バーチャルな車載コンピュータ上で、インフォテインメント(Android OS)とメータークラスター(RTOS)のソフトウェアを開発し、AWSのGravitonプロセッサ上で仮想的に実行することが可能だ。

「実際にハードウェアを買う前から、かなりのソフトウェアをクラウドの上で開発・検証できます。開発者はOSやアプリケーションの実行コードを作れば、それがそのまま車両で動く。これが最大の特徴です」

これにより、ソフトウェア開発者はハードウェアの納入を待つことなく、ソフトウェア開発を先行して進める「シフトレフト」を徹底できる。また、リモートで開発できるため、世界中のどこにいても、ブラウザを開けば、そこが開発現場になる。

「メーターの色、緑に変えて」自然言語でAIがコードを書き換える未来

開発環境が仮想化された先で待っているのは、AIによる開発の加速だ。梶本氏は、生成AIが開発プロセスそのものをどう変革するかの具体例を示した。

例えば前述のバーチャルECU上で動作するスピードメーター。例えば、道路の制限速度が赤い丸で表示されている。ここで、開発者がAWSの生成AIアシスタント「Amazon Q」に、こう指示を出す。

「この赤丸を緑色に変えてほしい」


《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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